さんち 〜工芸と探訪〜

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死ぬまでに見たいユネスコ無形文化遺産工芸3選 〜結城紬〜

投稿日: 2016年12月11日
産地: 結城
タグ:
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こんにちは、さんち編集部の庄司賢吾です。
先日ユネスコ無形文化遺産に、日本の「山・鉾(ほこ)・屋台行事」が登録されて大きなニュースになりました。ユネスコ無形文化遺産とは、国連教育科学文化機関であるユネスコが、無形文化財という「形にならない人間が持つ知恵や習慣、伝統」に対して、遺産としての保護を目的として登録しているものです。

さて、突然ですが質問です。日本のユネスコ無形文化遺産登録数は2016年12月現在で何件で、世界で何番目に多いでしょうか?

→→→答えは21件で、世界第2位に位置しています(1位は中国の39件)。
ではさらに質問をもう1つ。その21件のうち、「工芸」にあたる無形文化遺産はいくつ登録されているでしょうか?

→→→答えは3つです。登録数は多いのに、意外にも伝統工芸の数はまだまだ少ないことがわかります。だからこそ、この貴重な3つの日本の工芸は、生きているうちに日本人としてぜひ現地で見るべき価値がある工芸なのです。

そこで「さんち~工芸と探訪~」では、死ぬまでに見たい日本の絶景、ならぬ日本の工芸ということで、ユネスコ無形文化遺産に登録されている3つの工芸をご紹介します。まず第一弾としてご紹介するのは、2010年11月14日に登録が決まった「結城紬(ゆうきつむぎ)」です。

上品な佇まいを持つ、結城紬の色とりどりの美しい布。

上品な佇まいを持つ、結城紬の色とりどりの美しい布。

ユネスコ無形文化遺産、結城紬を見に行こう

結城紬が育まれた結城市は、関東平野の中央・筑波山の裾野を流れる鬼怒川沿いの肥沃な土地で、古くから養蚕が盛んな織物の産地です。かつて朝廷に上納されていた絁(あしぎぬ)という、手で紡ぎだした太糸の絹織物が原型となり、その古代からの作り方をとどめているのがこの結城紬です。結城紬と呼ばれ商品として江戸時代以降に流通し、絣(かすり)という模様が織られるようになることで、明治以降は特に女性のおしゃれ着として進化していきます。亀甲模様を使っての柄表現が特徴とされ、軽くて暖かい高級織物として愛され続けてきました。

今回訪ねたのは、茨城県結城市にある創業明治40年の老舗、奥順株式会社。製造問屋として産地の機屋と連携しながら、創業以来結城紬の発展に寄与してきました。2006年には資料館を含む総合ミュージアムを敷地内にリニューアルオープンし、文化として結城紬を伝えていく活動にも力を入れています。
敷地内では有形文化財でもある歴史的な建築の数々を見ることもできます。

重厚な有形文化財建築の数々だけでも見に行く価値があります。

重厚な有形文化財建築の数々だけでも見に行く価値があります。

今なお色褪せずに残る先代の女将の結城紬も見ることができます。

今なお色褪せずに残る先代の女将の結城紬も見ることができます。

ご案内いただくのは、奥順株式会社の専務である奥澤順之さんです。無形文化遺産に登録された当時は、やはり街をあげての大きな盛り上がりを見せたのではないでしょうか。
「絹の世界的な産地として技術と共に認められ、それはとても光栄でした。ただ、市役所に横断幕がかけられたり、取材を受けたりぐらいで、売り上げとか出荷数に大きく影響が出たということも無かったですね」と、意外にも予想するような盛り上がりはなく、反響として注文が殺到するということも無かったようです。

それでも、「売り上げが上がるとかそういうことではなく、結城紬を守っている私たちや職人が、より誇りを深めて仕事に向き合えるようになったことの方が重要なことでした」というように、お金に替えることはできない客観的な評価と誇りを、ユネスコは大きな財産として残してくれていました。そしてそれこそが、未来に向けて結城紬を伝えていくこの地域の人たちにとって、今なお大きな活力の一つとなっています。

繭の住環境を人間の衣服で表現する、それが結城紬の目指す先

ではユネスコ無形文化遺産である結城紬の、最大のこだわりとはどこにあるのでしょうか。
「結城紬が目指す最終的なゴールは、お蚕(かいこ)さんにとっての繭(まゆ)の住環境を人間の衣服で表現することなんです。だから、繭の住環境としての特性を崩さず糸を布にすることを追求しています」と、奥澤さんが教えてくれました。

一体どういうことでしょう?早速工房にお邪魔しました。

繭をつむいで糸に変えて人間の衣服で再現する、そんなイメージを追求しているといいます。

繭をつむいで糸に変えて人間の衣服で再現する、そんなイメージを追求しているといいます。

「繭はお蚕さんのさなぎにとって、生命を守る大切な住処です。さなぎが最も過ごしやすい環境をつくるための繭はとても高性能で、通気性・抗酸化性・抗紫外線・抗菌性・保温性まで兼ね備えているんです」
その多様な機能を持った繭を丁寧に広げてそこから糸をつむぎ織って、まるで繭に包まれるように服を着る、蚕から学んだ糸の力で衣服を超えた衣服をつくろうとしているのです。
蚕を生きた状態で煮ることで真綿を取り出す上生(じょうなま)がけという特別な方法により、鮮度が高く粘りや腰のある糸をつくることができます。広げた真綿を宙に浮かすと空気の層でふわふわと浮くように軽く、手を包むと体温を閉じ込めぽかぽかと温かくなってきます。

真綿を広げるとみっちりとした腰のある糸の層があらわれました。

真綿を広げるとみっちりとした腰のある糸の層があらわれました。

空気と一体化するようなこの浮遊感。

空気と一体化するようなこの浮遊感。

この軽くて温かい繊細な糸にダメージを与えないよう、人間が着られるサイズに広げて再構築していく、そんな感覚で結城紬はつくられます。
「真綿から糸をつむぐ時も力加減が重要で、強すぎるとちぎれてしまうので、糸つむぎ専門の職人の手で丁寧につむぎ出していくんです」
糸とり3年真綿掛け10年と呼ばれるほど習得に時間がかかり、普通だったらこんな細く繊細な糸でものづくりをするなんて考えられないほど。それでも結城紬は繭の力をそのまま取り出し再現することを目指し続け、熟練の技術でそれを実現しています。

蚕の命と言える繭から糸をいただく、結城紬で最も大切な糸つむぎの技術。

蚕の命と言える繭から糸をいただく、結城紬で最も大切な糸つむぎの技術。

糸をつむぐのにも真綿を傷つけずに絡みやすい黍(きび)でできた「つくし」を使います。手で軽くひねりながら引いていき、繊細な糸が切れそうになったら量を増やしてある程度の太さにし、唾液で一本の糸にまとめていきます。
「布を織る際の経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の両方に手つむぎ糸を使うのは、世界でもこの本場結城紬だけ」ということで、繭の特徴を残した100%手つむぎの糸でつくられるからこそ、他に類を見ない着心地や触った感じの風合いを出すことができるのです。

染色は絣くくりという木綿の糸で縛り染める手法で、裏表のない結城紬の布をつくります。

染色は絣くくりという木綿の糸で縛り染める手法で、裏表のない結城紬の布をつくります。

「そしてもう一つ、糸に負担をかけないために、結城紬では古来から伝わる地機(じばた)で織っていくんです」と、通していただいた奥の部屋には年代物の地機がずらり。
世界を見渡してもこの技術が残る産地がわずかという地機で、人と織機が一つになり、張力を絶妙な力加減で調節しながら織っていきます。地機織りは同じ無地の反物を織る場合でも、高機(たかはた)の2倍から3倍近くの時間がかかるといいます。また、ダイレクトに力の入れ加減が糸に反映されるため、職人の個性の違いが出やすいのも特徴です。

腰で引っ張り織る時に木がしなることで職人の力加減を糸に優しく伝えてくれる地機。

腰で引っ張り織る時に木がしなることで職人の力加減を糸に優しく伝えてくれる地機。

「地機は全体が木をつないでつくられているので、職人の動きに合わせてしなり柔らかく力を伝え、糸への負担を減らすことができます」
たしかに接合部に釘などは見られず、全て木で繋がれつくられていました。布の目を詰めるための打ち込みが甘いと、ひあい(糸と糸の間に隙間ができること)が出来てしまうので、力強く体重をかけて全身で打ち込む必要があります。特に繊細で切れやすい手つむぎ糸にとっては、圧力を上手く逃してくれるこの地機の柔軟性がなくてはならないのです。

樫の木でできた杼(ひ)で緯糸を体全体を引きながら強く打ちこむ様子は必見の迫力。

樫の木でできた杼(ひ)で緯糸を体全体を引きながら強く打ちこむ様子は必見の迫力。

「切れやすかったあの糸が、目を詰めていくことで厚みのある丈夫な布に織りあがっていくんです」というように、地機では下糸のみを上下させて交互に織っていくので、高機と比べてより密度の濃い丈夫な布になります。つまり、高機で織った時はジグザグと上糸と下糸が交互に入るのに対し、上糸は動かずに下糸のみが蛇行するように入る地機ではその分目が詰まり、結果厚みのある丈夫な布になるということ。
この幾重にも厚く糸が重ねられていく様子を見ていると、何層もの糸で出来ていた繭からつむいだ糸が、再び繭に戻っていくような印象を受け、「繭の住環境を人間の衣服で表現する」という意味がやっと理解できた気がしました。

両足で踏む高機と違い、地機は片足に取り付けた紐で下糸のみを上下に動かします。

両足で踏む高機と違い、地機は片足に取り付けた紐で下糸のみを上下に動かします。

あんなに細かった手つむぎの糸が、美しく丈夫な布に織り上がりました。

あんなに細かった手つむぎの糸が、美しく丈夫な布に織り上がりました。

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「お蚕さんからいただいた命である大切な繭の特性を壊さないよう、優しく広げて優しく紡ぎ、優しく織り上げる。そうすることで今度は人間にとっての繭となるような機能性を兼ねた衣服をつくるために、結城紬はこれからも真摯に繭に向き合っていきます」

ユネスコが認めた結城紬は、繭と糸への思いやりが詰まった職人の技や道具によってつくられていました。つくる物のことを想い、つかう人のことを想うという、絶やすことなく未来に伝えるべき工芸の原点が、結城紬には色濃く残っています。そして今なお多くの人に愛される結城紬は、今日もどこかで誰かの体を繭のように優しく温かく包み込んでいます。
ぜひ皆さんも、一生に一度は現地で、この素晴らしい結城紬の技術を体感してみてください。

奥順株式会社
〒307-0001 茨城県結城市大字結城12-2

文・写真:庄司賢吾
撮影協力:結城 澤屋

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