さんち 〜工芸と探訪〜

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編物界の革命品。奇跡のニット〈COOHEM〉は2万枚もの試作から生まれた

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近年、工場自身がブランドを立ち上げる、「ファクトリーブランド」をよく見かけるようになりました。

アパレル製品をはじめ、私たちの生活を支える様々な“物”の製造拠点が安価な海外へとシフトしていってもなお、日本でつくり続けられる製品の数々。

ものづくりに精通したメーカーならではの強みはどこにあるのか。そして、そこにはどのような想いが込められているのか。

今回は、山形県山辺町(やまのべまち)に拠点を置く、米富繊維株式会社のファクトリーブランド「COOHEM(コーヘン)」誕生の背景に迫ります。

365日、新しいニットを生み出し続ける

ニットの見本として活用する四角い布を「編地(あみじ)」と言います。

山形・米富繊維のブランド、「COOHEM」ができるまで

米富繊維の「編地」

編機。プログラミングによって複雑な編物を実現する 写真提供:米富繊維株式会社

米富繊維では、毎日新しい編地が生まれています。その作業を担うのが、開発室長の鈴木恒男(すずき つねお)さん。入社から40年以上新しい編地を開発し続ける、編物界の第一人者です。

「とにかくやってみないとわからない。柄や色・素材感を考えながら新しいことを毎日繰り返している」のだそう

米富繊維のブランド「COOHEM」の開発室長 鈴木さん

編地のアイディアのインスピレーションは、日常のさまざまな場面から得ています。そうして生み出されたアイディアは、すでに2万枚を超えるほどに。

使用する糸の色や素材を組み合わせ編み方を変えることで様々な模様がうまれる

使用する糸の色や素材を組み合わせ編み方を変えることで様々な模様がうまれる 写真提供:米富繊維株式会社

そうした開発の日々から偶然発見されたのが、業界の常識を覆す「ニットツウィード」でした。

編地開発の段階で偶然生まれた「ニットツウィード」

米米富繊維の最大の持ち味は、独自の「交編(こうへん)」技術を用いて生み出される「ニットツウィード」です。

「交編」とは、2種類以上の異なる糸を使用してニットを形成する編物技術。異なる糸を組み合わせることで、さまざまな風合いや質感のニットを表現できるほか、機能性も付与できます。

「交編」とは、2種類以上の異なる種類の糸を使用して編むこと

「ツウィード」とは羊毛を手紡ぎしてできる太い糸を、さらに手織りで織り上げた毛織物の総称です。織る前に糸を染色するため、さまざまな色彩で表現することができます。

厚みのある生地には温かみ、耐久性があり、コートやジャケットはもちろん、さまざまな製品の生地として人気があります。

米富繊維では、交編の技術を研究していくうちに、機械織りでありながらツウィードのように品があり、美しい仕上がりの編地を生み出すことができました。

写真提供:米富繊維株式会社

COOHEMのニットツウィード

写真提供:米富繊維株式会社

こうした編物技術は、複雑に組み上げられたプログラミングと職人の勘、機械の微調整から生まれた偶然の産物です。

プログラミングソフト

「こんなに美しく複雑な編地は、他社が簡単に真似できるものではない。この技術は米富繊維の確固たるアイデンティティになるだろう」と現社長・大江健さん。この技術で生み出された布地を「ニットツウィード」と名付けました。

COOHEMのニットツウィード生地

そして、これだけ編物の技術を磨いてきた自分たちであれば、OEM や ODM*による生産だけでなく、山辺町発の自社ブランドとして世界に発信できるのではないか、という想いを実現するのです。

*)OEM/ODM:OEMとは、Original Equipment Manufacturingの略語で、委託者のブランドで製品を生産すること、または生産するメーカーのこと。ODMとは、Original Design Manufacturingの略語で、委託者のブランドで製品を設計・生産すること

ニット製造で栄えた山形県山辺町のルーツ

米富繊維のアイデンティティが確立された背景には、山辺町がニットの産地として築いてきた紡績・染色技術の集積があります。

山形の景色

写真提供:米富繊維株式会社

戦時中、庄内平野から米沢盆地まで、山形県を貫くように流れる最上川沿いでは羊の飼育が推奨されていました。当時、この一帯では「ローゲージ」と呼ばれる、羊毛の手紡ぎ・手編みをしており、これが山辺町における編物技術のルーツです。

写真提供:米富繊維株式会社

戦後の復興とともに女性の社会進出や機械技術は進歩をとげ、国内のニット産業は急速に発展していきます。県内には多くの繊維・紡績メーカー、染色業が新たに誕生し、山辺町内だけでも100軒以上の製造工場があったほどです。

米富繊維のほかでは真似できない、編物技術と生産力のヒミツ

その後、時代の変化によって多くの紡績メーカーが廃業を余儀なくされる中、米富繊維は独自の発展をとげてきました。

米富繊維で営業を担当する渡邊あゆみさん

米富繊維で営業を担当する渡邊あゆみさん

「山辺町はもともとニット製造が盛んな土地でした。しかし、バブル景気以降、国内のニット製造が海外へと拠点を移すにしたがって、町内の工場も年々減少し、染め工場もいまでは2軒しかありません。

けれど、車で数分の場所にいまでも染工場があることで、私たちは想い描くものづくりをスピーディーに実践していくことができるんです。

多くの場合、デザインからサンプルを仕上げるまでにはすごく時間がかかります。それは、デザイン・染色・製造する場所が離れているケースがほとんどだから。注文してから完成するまでにかなりのロスタイムが発生します。

輸送するにもコストがかかってしまうし、思いついたときにすぐにカタチにすることは難しい。でも山辺町には、すぐそばに相談できる専門の人がいる。

なので、あれこれ頭のなかで思い悩む前に、思いついたらすぐに行動して『編地』という実際のカタチをつくり出し、米富繊維全体だと年間6千枚以上量産できる体制が整っているんです」

1952年、故・大江良一によって創業された「米富繊維株式会社」。同業他社が競合するこの地で製造を続けていくため、常識にとらわれない新たな表現方法、編物技術を日々模索し、とりわけ編地の開発には心血を注いで取り組んできました。

COOHEMのニット生地
COOHEMの製造現場

奇跡のニットから生まれたファクトリーブランド「COOHEM」

2010年に本格始動した「COOHEM (コーヘン) 」。独自の編物技術で生み出された「ニットツウィード」を取り扱うファクトリーブランドです。

COOHEMのルック

写真提供:米富繊維株式会社

「いまでは会社一丸となり力を注ぐ生産ラインへと成長しました。しかし、立ち上げ当時は、スタッフの理解を得るまでにはかなりの時間を要しました」と渡邉さん。

「立ち上げ当初は、現場の反発もかなり強かったと聞いています。サンプルの製造をお願いしてもなかなかつくってもらえなかったり、OEMが優先で進められるなど、『よくわからないこと』は後回しの状態。

コーヘンを立ち上げて1年くらいは、なんとか現場のスケジュールに入れ込んでやっている感じでした。

初めのうちは社販をとっても、注文するのは3人くらい‥‥(苦笑)スタッフの本音が社販の反応でわかるんですね」

米富繊維の営業・渡邉あゆみさんが当時のことを教えてくれた

「徐々に現場の反応が変わってきたと感じられるのは、本当にここ5年くらい。OEMやODMが主流の時代は、外から褒められる機会はなかったです。それは会社自体の名前が表立つことがなかったから。

けれどコーヘンの立ち上げによって米富繊維自体のブランディングが洗練されて、自分たちがやっていることのすごさをスタッフ自身も認識できるように。

いまではテレビCMなどで有名人がコーヘンのセーターを着ているのを見かけたりすると、誇らしい気持ちになれるみたいで。ものづくりに携わるスタッフ一人ひとりが『私が作ったもの』と自信を持てるのは、会社にとってもすごく良いことだなぁと思います」

米富繊維の製造現場 カット
米富繊維の製造現場

2017年からコーヘンでは、念願のメンズラインをスタート。

「T.P.O」2019 A/W 写真提供:米富繊維株式会社

軽く柔らかく・伸縮性もハリもあるのにシワができない。機能性にも富みながら、着るだけでワクワクできるコーヘンの「ニットツイード」。

「高級なものとして捉えられるよりも、もっと気軽に普段のコーディネートに取り入れてほしい。着ていくうちに身体に馴染んでいくのも、嬉しいです」と渡邉さん。

たくさんの米富愛を感じました。

「競い合い認め合い助け合いyonetomi愛」と書かれた米富繊維のポスター
米富繊維の社屋からの風景



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遊 中川テキスタイル交編


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中川政七商店HP
「軽くて柔らか、丸めてもシワにならない。普段使いのサマーニットができました」

<取材協力>
米富繊維株式会社
山形県東村山郡山辺町大字山辺1136
023-664-8166



文:中條 美咲
写真:船橋 陽馬
メインビジュアル:米富繊維株式会社

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