さんち 〜工芸と探訪〜

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魅せるキッチンツール「DYK」で、三条市の老舗大工道具商社が挑む新市場

投稿日: 2019年3月27日
産地:
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8代目社長の改革

創業1866年、のこぎり鍛冶としてスタートした三条市の高儀。現在は工具全般のメーカー、卸として売り上げ316億円(2018)、従業員数392名(グループ全体)を誇る三条市でも屈指の規模に成長を遂げた。

この老舗が2019年春、新たにキッチンツールブランド「DYK(ダイク)」をリリース。醤油差しから鉄道車両まで幅広くデザインするプロダクトデザイナーの鈴木啓太さんのデザインで開発したもので、お玉やターナー、包丁など高級感あふれるラインナップだ。

新ブランド、DYKの商品

新ブランド、DYKの商品

燕三条 キッチンブランドDYK(ダイク)の包丁

プロダクトデザインを担当した鈴木啓太さん(PRODUCT DESIGN CENTER)

従来のイメージを覆すような新ブランドが生まれたきっかけは、2017年3月、同社の8代目に就任した高橋竜也社長の改革だった。五十嵐篤さん(第3事業部営業部取締役部長)は、こう振り返る。

「大工道具や建築で使う作業工具、園芸用品など、うちはそれぞれ値段の上中下でブランド名をつけていて、ぜんぶ足したら20ブランド以上あったんです。

8代目が社長に就いた時、これは誰のためのブランドなのか、自分たちの都合で増やしただけで、多ければ多いほどお客さんには認知してもらえないんじゃないかということで、整理することになりました」

株式会社高儀の五十嵐篤さん(第3事業部営業部取締役部長)

株式会社高儀の五十嵐篤さん(第3事業部営業部取締役部長)

ホームセンターへの依存

「ブランドを整理する」という言葉はシンプルだが、同社にとっては一大事業だった。

それまでの商品は、事業部の売り上げの8割を占めるホームセンターとのコミュニケーションのなかで、要望に沿った機能を持つ商品を低価格で作るという形で開発していた。

例えば、テレビで話題になった工具があるとする。ホームセンターの担当者が、高儀の担当者に「ああいう商品はないの?」と尋ねる。もしなかったらすぐに作る。それをホームセンターは大量購入するという流れだ。

あるいは、「競合他社の商品より100円安く売れるものを作ってくれたら2万個仕入れるよ」と言われて、その要望に応えてきた。

ホームセンターの売り上げが右肩上がりで伸びていた時期はそれでもよかったのだが、過去10年間、ホームセンターの数は20%増えているのに全体の売り上げは横ばいと、完全に頭打ち。

人口減少も進み、さらにシュリンクしていくのが明白ななかで、ホームセンターに依存するこれまでのビジネスモデルに危機感を抱いた高橋社長の鶴の一声で、買い手を意識したブランドの立て直しが始まったのだ。

しかし、ブランドを絞るとなればパッケージの変更、使わなくなった資材の処理、納品先への説明など、それまでに必要なかった作業が発生する。そのため、反対意見もあったそうだ。

DYKのキッチンツール

「衝撃」のコトミチ

この改革のさなかに、三条市から「コト・ミチ人材育成スクール 第1期」開校の知らせが届いた。

当時、商品開発を担当していたこともあり、会社から知らせを受けた五十嵐さんだが「ぜんぜんピンときませんでした」。しかし、会社から受講を勧められたこともあり、「なにかヒントになれば」と参加を決めた。

講義は全6回。1回目「会社を診断する」、2回目「ブランドを作る(1)」、3回目「ブランドを作る(2)」、4回目「商品を作る」、5回目「コミュニケーションを考える」、6回目「成果発表会」と続く。

実際に地元企業の参加者とクリエイティブディレクター、デザイナーがタッグを組んで新商品、新サービスを開発し、最終日にプレゼンするという流れだ。講座は五十嵐さんにとって「衝撃」の体験だった。

「講座では商品を作って出した時は仕事が半分しか終わっていなくて、どこに売るのか、誰に買ってもらいたいのかまで考えないとダメだと言われましたが、僕は商品を作ったら、あとは営業に任せていたんです。自分のなかではそれが普通だったので、目からウロコでした。

ブランドとしてのこだわり、ネーミングの付け方なども含めて、ブランドについて考える時間は、中川さんが10だとしたら、僕は1ぐらいだったと思います」

DYK誕生の背景

講座を終えて改めてブランディングの重要に気づいた五十嵐の提案もあり、高儀の高橋社長は塾長の中川政七に短期間のコンサルティングを依頼した。テーマは自社開発している電動工具を中心としたブランド「アースマン」の売り上げを伸ばすこと。

しかし、既にホームセンターの市場が縮小していること、ホームセンターはブランドを求めていないこと、ホームセンターの顧客もロープライスを求めていること、高儀のブランドが乱立しているなかでアースマンだけ付加価値をつけてもブランディングとしては意味がないと中川は判断。

改めて高儀の事業を洗い直したなかで同社の事業の3本柱である大工工具、園芸用品、家庭用品のうち、売り上げが低迷している家庭用品のテコ入れをしようという話になった。

こうしたやり取りのなかで、「大工がいい家を建てるためにはいい道具を揃える。キッチンにもいい道具を揃えて美味しい料理を作る」というコンセプトが定まり、まったく新しいハイエンドのキッチンツールブランド「DYK(ダイク)」を作ることになったのだ。

燕三条 キッチンブランドDYK(ダイク)の包丁

大工用品メーカーから生まれたキッチンブランド「DYK(ダイク)」

「キッチンツールって、包丁だったらどこ、フライパンだったらどことそれぞれ有名なブランドがあるんですけど、キッチンツールをひと通り同じテイストで統一しているブランドってないんです。

それなら、高儀のモノづくりのチャネルを活かして、キッチンツールを同じテイストでゼロから作りあげましょうということになりました」

燕三条 キッチンブランドDYK(ダイク)

魅せるキッチンツール

「DYK」の開発は、スムーズにはいかなかった。先述したように、高儀では従来のモノ作りはデザインよりも機能と価格が重視されていたため、外部のプロダクトデザイナーを起用することは10年以上していなかった。

そのため、今回、鈴木啓太さんが率いるPRODUCT DESIGN CENTERが、非常に高度な技術を要する設計にして、ミリ単位のずれも見逃さずに指示を出す様子を見て、五十嵐さんは驚きの連続だったという。

DYKのロゴやパッケージ、サイトのデザインなどは、鈴木さんの指名でemuniのグラフィックデザイナー・村上雅士さんが担当。パッケージだけでも10回以上つくり直したそうだ。

DYKの包丁
DYKの製品を手に取っている様子

何度も微調整をして完成した「DYK」は、日本では珍しい「魅せるキッチンツール」だ。ひとつひとつの見た目がシャープで洗練されているだけでなく、統一感と収納方法にもこだわる。

絶妙なバランスと配置によって、収納時にも繊細なたたずまいを見せるのだ。飲食店のオープンキッチンや家庭のアイランドキッチンなどで映えるデザインと言える。

「例えば、キッチンまわりの写真を撮る時に、キッチンツールは生活感が出るので写さないことも多いようですが、DYKは使っていない時にも見せることを意識して設計されています。それが珍しいようで、特に海外の方は興味を持ってくれますね」と手ごたえを口にするのは、「DYK」の営業を担当する第3事業部営業部営業企画グループリーダー(課長)、中田博明さんだ。

株式会社高儀 第3事業部営業部営業企画 課長 中田博明さん

株式会社高儀 第3事業部営業部営業企画 課長 中田博明さん

世界3大デザイン賞を狙う

DYKはホームセンターには置かないため、営業がゼロから市場を開拓することになる。そのためのアピールポイントになるのが、価格だ。キッチンツールとして市場のなかで「空いているスペース」を狙った。

「例えば包丁でいうと、ホームセンターで売れている包丁は980円から1980円なんですよ。一方で、燕三条で作っているこだわりの包丁はだいたい1万円ぐらいなので、我々は5000円前後のゾーンを狙いました。

デザイン性が良くて、それほど高くないということで、展示会に視察に来るバイヤーさんやユーザーさんも、こんな値段なの?と驚いています」(中田さん)

DYKのキッチンツール

今後は、販売戦略の一環としてキッチン用品を中心とした家庭用品の世界最大の展示会「Ambiente(アンビエンテ)」への出展を計画。さらに世界3大デザイン賞と呼ばれるIDEA賞、レッドドット・デザイン賞、 iF Design Awardsの受賞を狙うという。

新しいブランドをゼロから立ち上げ、外部と提携してのデザイン、値付け、販売戦略、海外展開までのすべてが高儀にとっては未知の領域だった。

構想から商品化までの2年1カ月という月日が生みの苦しみを示している。しかも、これからは売り上げにつなげなくてはいけないというプレッシャーもあるが、中田さんは「結果的には、一番いいOJTになっています」と語る。

「最初に五十嵐ともうひとりが講座を受けて戻ってきた時は、なんとなく難しそうな言葉を喋っているという印象でした。

でも、コトミチの第2期にも別の人間が送り込まれて共通言語を持った人間が増えたことで、受講していない人も今まで話さなかったような言葉を話すようになっています。デザインやブランドに対してアンテナを張る社員も増えているように感じますね」

売り上げが300億円を超える高儀のなかで、DYKはまだ小さな存在だろう。しかし、コトミチに端を発した新しい挑戦は、少しずつ社員にも影響を及ぼし始めているようだ。この波及効果が、生まれたばかりのDYKを大きく育てる追い風となる。

株式会社高儀の中田博明さんと五十嵐篤さん

<掲載商品>
キッチンツールブランド「DYK(ダイク)」

<取材協力>
株式会社高儀
新潟県三条市塚野目2341-1
http://www.takagi-plc.co.jp/

文:川内イオ
写真:菅井俊之

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