さんち 〜工芸と探訪〜

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入り口の大きな暖簾がお店の目印

スパイス料理の新名店 三条スパイス研究所に見る、地元で愛されるお店のつくり方

投稿日: 2019年7月21日
産地:
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統括ディレクター山倉あゆみさんに聞く、三条スパイス研究所 誕生秘話

工場町・新潟 燕三条の愛される名店を訪ねる連載。

第1回は燕の工場文化を物語る背脂ラーメン、第2回は燕のメディアを目指すツバメコーヒーと、燕エリアのお店が続きました。最終回・第3回は三条の魅力的なお店のお話をご紹介します。

このたび燕三条エリアを取材することになり、「やった〜、この機会にこのお店にも行くことができるかも!」と思ったのが、今回ご紹介する「三条スパイス研究所」です。

以前、東京・押上にあるスパイス料理の人気店「スパイスカフェ」にうかがって、そのメニューの独自性やお店の雰囲気のよさに魅せられた経験があります。

そのスパイスカフェの店主である伊藤一城シェフがメニューを監修したのが三条スパイス研究所です。

この店のオープンには伊藤シェフのみならず、さまざまな分野のクリエーターが関わってきました。新潟の金物産業の街に、なぜこのような店が誕生したのでしょうか?

街に「えんがわ」をつくるプロジェクト

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三条の街で「三条スパイス研究所」への行き方を訪ねると「ああ、『えんがわ』のことね」と言われました。地元ではそう呼ばれているようです。

その建物を一目見れば納得。木造の大きな三角屋根と柱が印象的な建物の側面には、人が腰掛けられる長い長い縁側が付いています。

住宅をはじめとした作品で高い評価を得ている建築家、手塚貴晴・由比夫妻設計の建物は、三条の街角でも断然目立っています。その名も「ステージえんがわ」。

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長い長い「えんがわ」。

長い長い「えんがわ」。

この斬新な建物のなかに入る飲食店として「三条スパイス研究所」ができた経緯を、プロジェクトの立ち上げから統括ディレクターとして関わってきた山倉あゆみさんにうかがいました。

お話を伺った山倉あゆみさん。

お話を伺った山倉あゆみさん

誰でも利用しやすい「カレー店」が当初のプラン。しかし‥‥

「ことのはじまりは、全国各地の自治体が行っている『スマートウェルネス事業』に関して三条市が行っている施策でした。

これは、簡単に言うと誰もが健康に安心して暮せる社会を実現しようというものなんですが、特に『えんがわ』のある北三条エリアは一人で暮しているお年寄りが多く、そんなお年寄りが少しでも外に出て人と交わることができるように、全天候型の屋根付き広場の建設が決まっていました。

足を運んでもらうために建物の中に飲食店を設置する話が出て、高齢の方も受け入れやすい、和食かカレーのお店に絞られた。でも和食は家で食べるから、外食ならカレーの店がいいかな?と話が進んだようです」

「えんがわ」から奥へ広がるスパイス研究所。

「えんがわ」から奥へ広がるスパイス研究所

カレーは日本の国民食であると同時に、新潟県は一時期カレールーの消費量全国日本一だったという土地でもあります。

特に燕三条では家族経営の工場や、女性も工場で働いている家庭が多く、作り置きできるカレーは日常食の主力メニューでもありました。

三条の地元の名物としては、ラーメンの上にカレーをかけたカレーラーメンもあります。これは工場への残業食の出前メニューとして生まれたものでした。

監修を依頼したのは東京の名店「スパイスカフェ」の伊藤シェフ

「えんがわ」に入居する飲食店はカレー屋さんということでプランは進み、東京のスパイスカフェの伊藤シェフがお店を監修することになりました。ここで、地域コーディネーターという形で山倉さんがこのプロジェクトに参加します。

「カレーの店というのは決まっていたんです。だけど、伊藤シェフにご挨拶に伺って瞬時に気づいたんですが、伊藤シェフはみんなが想像している欧風カレー屋さんではなくて、スパイス料理店のシェフだったんですよ!」

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いわゆる日本独自のカレーと、スパイス料理は異なるものです。世界各国のスパイスを用いながら、カレーも含むスパイス料理を提案したのが伊藤シェフの「スパイスカフェ」でした。

さて、どうしたら元々身近なカレーではなく、スパイス料理とこの街を結びつける物語を生み出せるか。

「正直、ハードルは高かったです。でも、不思議と挑戦してみよう!という気持ちになりました。個人的にも、自分がおばあちゃんになった時に暮らしたいと思える街づくりに、興味があったのです」

山倉さんたちはこの施設で提供するものをカレーからスパイス料理へと軌道修正をしつつ前に進んでいくことになります。

「ミクスチャースタイル」のお店を目指して

「スパイスや旬の食材による料理を自分で混ぜながら食べていただく。それを私たちは『ミクスチャースタイル』と呼んでいるんですが、お店では、そのスタイルの定食を出すことになりました。

もともと、インド発祥のカレーは、混ぜ合わせながら食べる料理です。日本の常識ではお行儀が悪いようだけど、混ぜ合わせることによって新しい味が見つかる。

それは、これから作る公共空間にいろいろな人が来ることが、新しいまちづくりにもつながっていくだろうという期待感にも通じるものがありました」

名物はカレーとビリヤニ。合言葉は「にほんのくらしにスパイスを」

「三条スパイス研究所」のメニューは、カレー2種をごはんの上にのった4種類のスパイスおかずと共に楽しめるターリーセット。

もしくは、インド風の炊き込みごはん・ビリヤニにカレー1種とスパイスおかず3種を組み合わせたビリヤニセットが基本になっています。

ターリーセット1,200円(税別)

ターリーセット1,200円(税別)

ビリヤニセット1,500円(税別)

ビリヤニセット1,500円(税別)

カレーやビリヤニには、三条産のスパイスや切り干し大根、打ち豆など新潟の郷土料理にも出てくるような保存食も使われています。スパイスの調合は伊藤シェフが監修。

店内で使われている金属製のトレイやカトラリー、調理器具なども、地元のコーディネーターにより選ばれ、燕三条産のものと世界各地のものとがバランス良く混ざり合う、まさに独自のミクスチャースタイルを表現しています。

売上げ1位のすごいウコンを栽培しているおじいちゃんから教わったこと

木のあたたかみある店内。

木のあたたかみある店内

「飲食店の計画と同時に行われた街の調査で、三条は金物の中小工場がたくさんあるので日本一社長の多い街であること、高齢者になっても自分の持っている知識や技術を大切にしたいと思っている方がたくさんいらっしゃることがわかりました。

その調査中、三条の下田というエリアの直売所に行ってみたところ、ウコン、キハダ、ドクダミなどが販売されていたんです。

そこで一番の売り上げだというウコンを栽培しているのが87歳のおじいちゃんだと聞いて、その方に会いにいってみました」

ウコンはターメリックとも呼ばれるスパイスで、カレー料理には不可欠なもの。カレーの黄色い色は、ターメリックの色でもあります。

「そのおじいちゃんが定年退職後、初めて旅行に行った沖縄で出会ったのがウコン。苗を持ち帰って25年間、土づくりなどさまざまに栽培方法を改良されて、今では売り上げナンバーワンの立派なウコンを作っているというんです」

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「その頃、私たちはこのプロジェクトに関わりながら、『スマートウェルネス』というテーマになかなか答えを見つけられずにいました。

そんな中、そのおじいちゃんが自分の興味のあることを価値ある仕事に変えていく姿をすごくカッコよく、眩しく感じたんです。三条にはそうしたカッコいいお年寄りが多い。

ご高齢の方との関係を、守り守られるという観点ではなく、彼らの持つ知恵や技術をカッコいい、眩しいと感じられる関係性に変えていくこと。

これが、取り組みのあるべき姿と重なりました。お年寄りの『食』の知恵を生かせるようなメニューを作ろうという話になったんです。

考えてみるとショウガやワサビ、シソなど生のスパイスを食べる文化があるのは日本だけなんですよね。

そのユニークさに改めて気がつき、伊藤シェフとともに日本のスパイス料理をここから世界に発信していくプロジェクトとして掲げたのが、『にほんのくらしにスパイスを』というこのお店のコンセプトです」

人も食も「混ざり合う」場所に

2016年3月にオープンしたステージえんがわと三条スパイス研究所ですが、この工場の街ではどのように利用されているのでしょうか。

「ステージえんがわは公共施設なので、この空間にはどんな人が入ってきてもいいんです。建物の外の縁側に座るだけでもいいし、おにぎりを持ってきて食べてもいい」

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「毎月2と7のつく日には朝市が開催されていて、その時にはスパイス研究所では『あさイチごはん』という朝ご飯を500円でお出ししています。朝市では地域のいろいろな食材と出会えるので調理スタッフたちも大いに刺激を受けています。

また、ここは建物の外から内部が見通せるので、それをきっかけに自分も何かしてみようかなと思ってもらえるような空間でもあるんです。

65歳以上の人の劇団を組織して活動していたり、歌詞カードを配って100人以上がみんなで一緒に歌う『歌声喫茶』のイベントが開催されていたり。

地域ラジオ放送局である『燕三条FM』の『さとちん電波』という番組の生放送も毎週行われています。その日には毎回100人近くのお年寄りが音楽に合わせて扇子を持って踊る。本当に楽しそうなんですよ」

三条のローカルな魅力に触れるなら、スパイス研究所へ

「スパ研」は、地元の金物工場で働く人たちにも愛用されているとか。

「燕三条の金物産業は世界レベルで、この街から海外に出張に出かけられる方も多い。仕事で訪れた県外のお客様をお連れになる工場関係の方もたくさんいらっしゃいます。

そういう方にもぜひ、スパイス料理を通じて三条発のローカルの魅力を感じてもらいたいです」

地元の職人さん社長さん、お店のスタッフ、家族連れ、出張で訪れた人、おじいちゃん、おばあちゃん。様々な人が行き交い、混ざり合う研究所の脇には、畑があります。そこに植えられているのは、あの下田のおじいちゃんのウコンです。

「2016年の3月に『えんがわ』と『スパイス研究所』が発足して、5月の末にウコンを植えました。

指導を受けながら大切に育ててきましたが、まだまだ下田のおじいちゃんの育てているウコンとは大きさも何もかも違う。それでも11月には無事に収穫して、スパ研産のターメリック入リカレーが登場しました。ここはスパイス畑の見渡せるスパイス料理店です」

来年のウコンはもっと立派に育つことでしょう。そのウコンの成長ぶりが、三条スパイス研究所が地元に根付いていくことに重なるようにも思えます。

三条スパイス研究所
新潟県三条市元町11番63号
0256-47-0086
http://spicelabo.net/

文:鈴木伸子
編集:尾島可奈子
写真:神宮巨樹
こちらは、2016年12月28日の記事を再編集して掲載しました。
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