さんち 〜工芸と探訪〜

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燕三条に見る産業観光の未来

投稿日: 2016年12月7日
産地:
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こんにちは。ライターの鈴木伸子です。
今年の夏、そして秋は取材で新潟をたびたび訪ねました。私は東京出身なのですが、新潟を訪ねるたびにお米をはじめとした食べ物のおいしさに魅せられ、今ではすっかり新潟贔屓になってしまいました。秋から冬を迎え、ますますおいしいものが増えていることでしょう。そんな新潟の豊かさを思いながら、この燕三条の祭典の記事を読んでいただければと思います。

「開け、工場!」。燕三条の工場が祭りの場となる4日間

毎年10月はじめの4日間、燕三条の金属工場などが開放され一般の人たちがものづくりの現場を見学できる「オープン・ファクトリー」のイベント「燕三条 工場の祭典」が行われています。合い言葉は「開け、工場!」。

 この「工場の祭典」では、世界に誇る技術とものづくりの精神を持ちながら今まで特にアピールされてこなかった燕三条の工場の実力を実際に間近で見ることができるとあって、大きな注目を集め、年々訪れる人も増えています。

 なぜこのようなイベントが実現されることになり、大きな反響を得るようになったのでしょうか。4年前の2013年から毎年このイベントは開催されてきましたが、その4代目の実行委員長を務めたのが燕の鎚起銅器の老舗「玉川堂」番頭の山田立さんです。このイベントの立ち上げから関わり、試行錯誤しながら続け、回を重ねていくごとにさらなる期待に応えてきた山田さんにお話をうかがいました。

急展開で実現した、燕と三条一緒の工場見学イベント

上越新幹線の終点である新潟駅の一つ手前の駅が燕三条駅。燕三条という駅名があることで、新潟に燕三条市というところがあると思っている人も多いことでしょう。しかし、燕三条駅の東側には三条市が、西側には燕市があり、三条は鍛冶や作業工具が、燕は鎚起銅器や金属洋食器が主な産業というように、それぞれの歴史と個性を持って発展してきた地域なのです。
その三条市、燕市の両地域が会場となるのが「燕三条 工場の祭典」。4日間、2016年には78軒の工場が見学できたほか、さまざまなイベントが開催され地域をまるごと堪能できる機会となりました。

お話を伺った玉川堂さん本店。

お話を伺った玉川堂さん本店。

燕市の玉川堂の店舗・工房は、登録有形文化財でもある歴史と趣のある日本家屋。そのお座敷でこれから山田さんにお話をうかがっていきます。山田さんは、作務衣姿がいかにも番頭さんという雰囲気の方。飄々、訥々とした語り口で、こちらもすぐにお話に引き込まれていきます。

玉川堂番頭で2016年の「工場の祭典」実行委員長を務められた山田立さん。

玉川堂番頭で2016年の「工場の祭典」実行委員長を務められた山田立さん。

「地元を金物の街としてのアピールするということでは、2007年から三条市が『越後三条鍛冶祭り』のイベントを毎年秋に行っていました。物販が中心でしたが、お客さんから、もっと鍛冶屋さんなどの生産の現場を見てみたいという要望がありました。
 同じく三条市では『後継者育成事業』ということで、中川淳さん(中川政七商店)、名児耶秀美さん(アッシュコンセプト)といったプロデューサーとともに地元の伝統と技術を活かしての新製品づくりにも取り組んでいました。そのプロデューサー役を山田遊さん(method)に依頼したところ、『ものを一つ作って完結するだけの仕事では広がりがないので、オープン・ファクトリーならぜひ関わってみたい』という話になったのです。

さらに同じ時期に燕市でも動きがありました。工場の祭典が始まる3年ほど前から武田金型製作所/MGNETの武田修美さんがひとりでいろいろな工場にお願いしてツアー形式の工場見学を何回か実施していました。ところが、ツアー形式だとご案内出来る人数に限界があったり、その次への広がりがなかなか見いだしにくかったりと、限界を感じていました。
そんなタイミングに三条市でオープンファクトリーのイベントを企画しているらしいという話が舞い込みました。同じ思いを持った人達が同じ時期に同じ事をやりたがったんです。両市合同のオープンファクトリーイベントをやろうという企画が、一気に加速していきました」

工場はだんだんに開いていった

「『工場の祭典』が始まった4年前は、燕三条でいつでも工場見学ができるところというのはまだまだ少ない状況でした。『玉川堂』では30年ほど前から見学のお客様を受け入れていて、2010年からは『スノーピーク』、2011年に『諏訪田製作所』という三条でも大きな企業が工場見学を始めていました。そのほかには、三条市のものづくり体験研修施設の『三条鍛冶道場』、燕の研磨技術を体験できる『燕市磨き屋一番館』くらいしか見学できるところはありませんでした。それが「工場の祭典」開催以後、工場見学を取り巻く状況がだんだんに変化していくようになります。
まず私たちが実感したのは、玉川堂の工房に見学にいらっしゃるお客様が増えていったことです。『工場の祭典』を最初に開催した年には急激に増えて1年間で2000人にもなり、前年の3倍近くのお客様にお越し頂きました。生産の現場を見ていただくと、お客様と製品の距離がぐっと縮まる。職人がどんな思いで、どんな環境でものを作っているかということを見ていただくのは大変意義深いことだと、私たちもより強く感じるようになりました」

玉川堂さんでは間近でものづくりを見ることができる工房見学を実施している。

玉川堂さんでは間近でものづくりを見ることができる工房見学を実施している。

 「燕三条全体でも、徐々に一般のお客様に工場を見ていただくことに積極的になる企業が増えてきました。毎年2社ずつくらい、設備投資をして一年中いつでも工場見学ができるという体制が整ってきました。お客様が多い土曜日も工場を開けているところも多くなりました。

 『工場の祭典』としては、初年度は54の工場が参加して5日間で計10000人のお客様が見えました。2年目は59参加工場で4日間12000人。3年目は68の参加工場で4日間19000人の方が見えた。だんだんいらっしゃるお客様も参加する工場も増えていったんです」

(4年目の2016年は4日間開催で35000人と昨年の1.8倍!)

毎年、さらなる扉が開かれていく

「『工場の祭典』では、毎年毎年新しいことをやっていきたいと思っていまして、2年目からはさまざまなテーマでの工場見学ツアーを始めたほか、お客さん同士や職人たちとふれあえる場所がほしいということで、毎日夜の部にどこかの工場で『レセプション』を開催しています。音楽のライブやバーベキュー、工場でお酒を飲めるBAR、去年はお寺を会場にして全体のレセプションも実施しました。ワークショップや飲食の屋台なども出店して大いに盛り上がりました。
東京や県外など遠くからいらしてくださるお客様も多く、この数年は泊まりがけでも楽しんでいただける仕掛けを増やそうとしているところです。お客様の年代はさまざまですね。何度も来てくださるリピーターの方も多い。毎年4割くらいの方が県外からで、この機会に初めて来てみたという地元の方も多い。

2016年の『工場の祭典』は、三つのKOUBA(工場、耕場、購場)」がテーマでした。燕三条では、食事の時に使うカトラリーや、刃物などの料理用具、農作物を育て収穫する鋤や鍬などを作っていますので、農作物の収穫体験や食を楽しんでもらう企画をいろいろと企画しました。燕三条は金属加工だけやっているわけではありません。私たちの地域では『ル・レクチェ』という洋梨やぶどうなどの果物や米も採れるし、温泉や食の楽しみもあります。それらもまるごと地域の魅力として味わっていただければと思います」

オープン・ファクトリーがもたらした予期せぬ効用

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「今年参加したのは、工場、農場、販売所を合わせて96事業所。ただ、『工場の祭典』は、参加工場の数や来場者数が多くなることだけを目的にしているわけでないのです。来ていただいた方々に燕三条ファンなってもらい、職人とお客様とのつながりを太くしていきたい。
そして『工場の祭典』を開催していることは、自分たちの仕事の励みにも大いになっていると感じてもいます。たくさんの方たちに日頃の仕事ぶりを見ていただくことで、自分たちの仕事を客観的に見直す機会にもなりますし、工場見学がきっかけとなって燕三条で働きたいと就職した人もいます。地域の子どもたちも、『うちの街ではこんな素晴らしいもの作っているんだ』と誇りを持つようにもなった。これをきっかけに、地域内の会社同士の交流も増えました。
そんなつながりの、太さと濃さを目指して、そしてこの『祭典』自体を継続していくことが大事だと考えています。ものづくりの場を巡礼するみたいな、ぼくらの地域だけの新しい工場見学の場をこれからも作り続けていきたいと思っています」

<関連書籍>
中川政七商店(2016)『世界一の金属の町 燕三条の刃物と金物 暮らしの道具135選』(平凡社)


文:鈴木伸子
写真:神宮巨樹

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