さんち 〜工芸と探訪〜

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「ふつう」じゃない鍬を100年作り続ける鍬専門工場、近藤製作所

投稿日: 2017年8月1日
産地:
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こんにちは、ライターの鈴木伸子です。
今年も10月5日 (木) 〜8日 (日) の4日間にわたり、金属加工の産地新潟県燕三条地域の名だたる企業が一斉に工場を開放し、ものづくりの現場を見学・体験できる一大イベント「燕三条 工場の祭典」が開催されます。

私もさまざまな金物工場を取材しましたが、なかでも驚いたのは、鍬 (くわ) の専門工場・近藤製作所で見た、壁一面にありとあらゆる形の鍬がずらりと並んだ光景でした。“鍬”と一言で言っても、こんなにいろいろな形と種類があったとは!

鍬は、耕す地形や地質、田んぼ用か畑用かなどによって、それぞれ形が異なってくるために全国各地、このようにいろいろな形があるそうなのです。それは、四角、長方形、丸型、うちわ型、フォークのような形とさまざま。それら全国から注文や修理によって近藤製作所で請け負ってきた鍬が、ここに一堂に並んでいるということなのでした。

「ふつうの鍬」なんて無い

近藤製作所は創業100余年。三条の地元の「野鍛冶 (のかじ) 」として農家の使う鍬をはじめとした農具を製造し、やがて鍬専門の工場となりました。現在の代表は近藤一歳 (こんどう・かずとし) さん。昭和24年生まれで、小学生の頃から工場で父の手伝いをしてきたという筋金入りの鍬職人です。

お話を伺った近藤一歳さん

「鍬と言っても、見てもらえばわかるように日本国中にいろいろな種類がありますから、『ふつうの鍬ください』と言って注文してきた方がどんなものをイメージされているのか、こちらにはまったくわからないわけです。

たとえば新潟でも、三条のあたりの土質は粘土質の赤土で耕すのに割合力がいるそうです。だけど上越は黒土で地質が違うし、そのほかも柏崎、小千谷と、地域によって使われている鍬の形は全然違うんです。

新潟の鍬は全体的に幅が広いですね。それは田んぼで畝を作ったりするのによく使われるから。それに対して関東地方の土は関東ローム層でさらっとしているし、田んぼよりも畑が多いでしょう。だから鍬にも掘ったり切ったりする機能が求められる。

そのほか福島県でも浜通りと中通りでは全然違うし、山形県でも山形市と庄内、鶴岡では使われている鍬の形が全然違うんですよ。だから『ふつうの鍬がほしい』と言われても今使っている鍬を見せてもらってどんなものか判断するしかないわけです」

似ているようで地域によって少しずつ形が違います

また、鍬には作業の性質により、「打ち鍬」「引き鍬」「打ち引き鍬」と大きく分けて3種の鍬があるとか。

「『打ち鍬』は田畑の荒れたところを開墾するための鍬です。振りかざして土のなかに打ち込むようにできていて、厚みがあって、刃の角度は起きていて丈夫です」

お話の合間合間で使い方を再現してくれる近藤さん

「『引き鍬』は、畝を作ったり土を移動したりするためのもの。薄くて角度は寝ています。『打ち引き鍬』はその中間。打ったり引いたり。
たとえば、群馬、埼玉など関東の土質は関東ローム層なので、引き鍬です。その一方で打ち鍬は、ふり下げて鍬自体の重さで土を耕す。なので、軽ければいいというものでもない。持ち上げるのは楽でも、打ったり引いたりするのにかえって力がいることになるわけです」

近藤さんの解説で、鍬という農具の深淵さ、日本全国の農耕文化の多様さが徐々にわかってきました。

全国の農家の人の身体の動きをトレースする

近藤製作所では、全国各地の金物問屋の注文によって鍬を製造しているほか、永年愛用されてきた農具の修理や復元といった個人の注文にも応じています。

「農家の人は、ずっと使っている鍬の形でないとだめなんです。その鍬でする作業が身体に染み込んでいるから。

注文品について、特に神経を使うのは3点。刃の先端の曲線部の具合、刃全体の反り具合、あとは柄の角度ですね。特に柄の角度は重要で、それによってできる作業の性質が変わってくる。だからうちでは柄の角度を変えられる鍬も作っているんですよ。

今は農業も機械化されているので、鍬の使われ方も変わってきています。最近は田畑に畦 (あぜ) を作らなくなっていることもあり、鍬自体が小さくなっている傾向にありますね。
インターネットでの通信販売もしているので、九州の方が北海道で使われている鍬を求められるというようなこともあって、おもしろいことだなと思っています」

近藤さんの工場では、スプリングハンマーなどの機械を導入しながら、刃先の鋼部分は今も手作業で叩いて仕上げて鍬を製造しています。いかにも金属の“ものづくりの場”という雰囲気の重厚で大きな機械が並ぶ工場内で、その作業の様子を見せていただきました。

「昔は一つひとつ鉄を叩いて強度を増す鋼 (はがね) をつけて、全部手づくりでやっていたけれど、三条の金物工場では比較的機械の導入が早かったから、鍬もスプリングハンマーを使って大量生産できるようになったんです。

また、三条はステンレス製品の産地である燕と隣り合っているので、ステンレス製の鍬も早くから生産するようになりました。まだ全国の農具の産地でもステンレスという素材になじみのないところは多いです。ステンレスには直接鋼を付けることはできないので、鋼と軟鉄が一緒になった利器材(りきざい)を溶接してハンマーで叩きます」

そんなお話をうかがいながら、スプリングハンマーが鉄を叩く様子を見せていただきます。スプリングハンマーが上下に動く、ドス、ドスという音とともに火花が周りに散り、そばで見ていると、たいへんな迫力。

その後、鍬の先端の刃の部分に鋼を付け、今度は近藤さん自らが金槌をふるって接合していきます。熱で真っ赤になった鉄と鋼に力いっぱい金槌を振り下ろすと、派手に火花が飛び散ります。

「こうして“はたく”ことで、刃が丈夫で切れ味がいい鍬になるんです」

近藤さんは“はたく”という表現をされますが、それは真っ赤になるほどに熱した鉄を何度も工具で叩いて鍛えること。そうすることによって、金属の組織がスクラムを組んだように結合して強くなるということなのです。

火花散る鍛冶の現場。大変な迫力です

永年作り続けてきた全国各地のさまざまな種類の鍬と、熱気あふれるその製造現場。ここには、農家の信頼を得てきた三条の野鍛冶の伝統が連綿と受け継がれていることを実感しました。

<取材協力>
近藤製作所
http://www.kuwa-kaji.com/

<関連商品>
近藤製作所 移植ゴテ・耕耘フォーク (中川政七商店)

文:鈴木伸子
写真:神宮巨樹
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