さんち 〜工芸と探訪〜

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燕のメディアを目指す、ツバメコーヒー

投稿日: 2016年12月21日
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こんにちは。ライターの鈴木伸子です。
工場町・燕三条の愛される名店を訪ねる連載。前回は工場文化の申し子のような燕の背脂ラーメンをご紹介しましたが、今回は同じく燕市の新たな顔になっているコーヒー店をご紹介します。私はコーヒー好きで、一日の間に何度もコーヒーを飲んでいるほど。特に朝はコーヒーを飲まないと目が覚めた気がしません。したがって最近のスペシャルティ・コーヒー・ブームも大歓迎のできごと。あちこちに気になるコーヒーのお店もあります。

新潟、燕市に金物工場の取材にうかがった時にも素敵なコーヒー店との出会いがありました。その名もツバメコーヒー。コーヒーも美味しく、店内の空間も心地よく、喫茶室のとなりには燕三条産の製品を中心とした生活道具のショップもあるという中味の充実したお店です。
今回は、その店主の田中辰幸さんがコーヒー店開店を思い立ち、まったくの素人からコーヒー焙煎を始め、開店し、店を拡張し、現在に至るまでの試行錯誤の物語をお届けします。

どうしたら美容院にお客さんが来てくれるか?から生まれたコーヒー店

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燕の街に2012年11月に開店した「ツバメコーヒー」。ちょうど今の“ザ・サード・ウェーブ”という、本格的自家焙煎コーヒーのブーム前夜に誕生した最先端のコーヒー店です。お母さまが創業した美容院の経営を受け継いだ田中さんが、もっといろいろな人にこの場所に来てもらうにはどうしたらいいだろうと考えて、始めてみた業態でした。

「それまでも美容院のお客様に飲み物をお出ししていたので、そのためのコーヒー豆を取り寄せていたんです。コーヒー通の人たちの間でも評判の高い徳島のアアルトコーヒーという自家焙煎の珈琲店にコーヒー豆をオーダーしていたんですが、その注文のやり取りの時に何気なく『焙煎ってむずかしいんでしょうか?』という質問を店主の庄野さんにしたら、『誰にでもできるよ』という答えが返ってきて(笑)。
美容室はお客様の滞在時間が長いので、少数のお客様と親密なコミュニケーションが取れる場所です。だけど逆にそこに行かない人にとっては近寄りがたい場所になってしまう。ぼくはこの場にもっといろいろな方に来てもらうためにはどうしたらいいかとということをその当時考えていて、じゃあコーヒー屋をやろうかな、っていうことに自分の中でなったんです」

店主の田中辰幸さん。

店主の田中辰幸さん。

田中さんは大学時代、京都でスターバックスコーヒーの店舗でアルバイトした経験もありました。当時はまだ京都のような都市部でもスタバの店舗が少なく、今より格段におしゃれだった時代。そこで初めてコーヒーという飲み物をおいしいと思い、自分でハンドドリップして淹れるようにもなったそうです。しかし自分で生豆を買ってきて焙煎までするというのはまた別の次元の話です。

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「アアルトコーヒーさんは、とりあえず『誰でもできるよ』と言ってるけど、やはり自分でやるとなったら、焙煎というものがよくわかっていないことを再認識したわけです。それで2012年の1月に、一度徳島に行って実際に焙煎をするところを見せてもらった。だけど、見たところで結局何もわからないんですよ(笑)。
ぼくはもともと、考えて考えて考え続けるみたいな人間だったんです。だけど何か新しいことを始めるにあたって、考えていても実行することには何もつながっていかない。そこで思いきってまず焙煎機を買うことにした。焙煎の機械って、まあまあの国産車くらいの値段はする。買ってしまうとこれを使わないわけにはいかないというところに自分を追い込んだわけです。アアルトコーヒーさんが脱サラして店を始めたのが36歳の時で、ちょうどその時ぼくも36歳だった。そんな偶然もありましたし」

壁を壊して、お店をつくる

ツバメコーヒーのある場所は国道116号線から少し入ったところ。鉄道の駅からは遠く、店の前には水田が広がっています。

「よく考えると、燕のこういう場所でコーヒー屋を素人がやってできるわけがないんですよ。ぼくがコーヒーが好きで、やりたいと思ったからやるだけで。だから、この街に『自分が行きたい場所を作る』というのが最初のきっかけでした。今考えると、あらゆることが大胆でしたね」

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そんな試行錯誤と決断を経て、ツバメコーヒーは2012年11月に開店します。当初は現在のような喫茶室の空間はなく、店舗の一番外側に面したカウンターだけでの営業でした。

「ガラス貼りで外に面しているから冬はすごく寒くて、夏はすごく暑くて。よくあれで自分は生きてたと思いますよ(笑)。まあぼくは暑くても寒くてもいいんですが、コーヒーを淹れる間にはどうしてもお客様をお待たせすることになる。それが寒かったり暑かったりというのでは本当に申し訳ない。これはなんとかしないと思っていろいろ考えて…」

そうしてできたのが、現在のお店の形。喫茶室と生活道具を販売するスペースを増設したのです。

「それまでの美容室の待合室だった部屋と、席を8席から2席削ったスペースで、コーヒーを座って飲んでいただける空間を作った。そして今までのカウンターの背後の壁面を取って、そことつなげた。そうするまでは、その壁を抜いたらこの建物は崩壊するんじゃないかと思い込んでいたんですが(笑)、改築を頼んだ人に相談したら可能だと。そこで壁を壊して空間が貫通した時には『これで新たな世界が開けた!』という実感がありましたね」

本棚の間から併設の美容院がのぞく

本棚の間から併設の美容院がのぞく

新しい店舗には、壁一面に本棚のある居心地のいい喫茶室ができたほか、エントランスを入ったところに生活道具のショップも設けられました。並んでいるのは、食器、台所道具、ガーデニング用品、アウトドア用品、靴下などのファッション小物、書籍のほか、ツバメコーヒーのツバメのマークをデザインした缶、ブックカバー、手ぬぐい、ノートなどのオリジナルの商品もあります。

コーヒーを待つ間に買い物が楽しめる併設のショップ。地元燕の製品も充実。

コーヒーを待つ間に買い物が楽しめる併設のショップ。地元燕の製品も充実。

オリジナルの手ぬぐい○円(税込)。

オリジナルの手ぬぐい1200円(税込)。

「コーヒー店にショップを併設することで、お客様にコーヒーを淹れる待ち時間に買い物も楽しんでいただける。もともと、この場所までコーヒーだけのために遠方から来ていただくというのもむずかしい。そこに生活道具のショップもあれば、コーヒー+買い物という1カ所で2つの楽しみを提供できるとも思ったんです。ショップの品揃えは地元産のものということを基本に選んでいますが、ただ地元のものだから無条件にいいというわけではなく、長年使い込んでエイジングしてよさが増してくるもの、そしてぼくが使ってみてよいと思うものというのを選択の基準にしています」

燕の鎚起銅器のトレイ。お会計のトレイも鎚起銅器製でした。

鎚起銅器のトレイ。お会計のトレイも鎚起銅器製でした。

コーヒー、お買い物とも楽しめるこの場所には、ほかにもお客さんたちが目指してくるものがあります。それが看板犬の黒スケ。水田が広がる風景が見える店内で、柴犬の黒スケとふれあうことができるのもこの店の魅力です。

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「黒スケは今7歳で、コーヒー店を始める前からいたんですよ。家族連れでいらしたお客様だと子どもさんたちはよく黒スケと戯れてますね。ぼくが店にいなくても全然文句はいわれないんですけど、黒スケがいないと『え、いないんですか! 楽しみにして会いに来たのに』と残念そうに言われますよ(笑)」

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燕で、カフェにしかできないことを

ツバメコーヒーは2016年11月で開店4周年になりました。今や燕にこの店ありという存在で、遠くからも目指してくる人の多い場所となっています。しかし田中さんは未だ自らの店に厳しいところを見せているのです。

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「ぼくはまだまだ自分の職人としての腕を信頼できないんですよ。だから、おいしいものがあればそれらを集めてきて味わっていただくという方法でメニューを考えています。たとえば店で使っている牛乳もガンジーミルクというイギリス原産の乳牛から採れたブレミアムミルクで、その牛乳から作ったソフトクリームやコーヒーフロートもあります。瀬戸内からの無農薬のレモンと砂糖を仕入れて組み合わせ、時間が勝手に作ってくれるレモネードだとか。スキルがない人間でもお客様に納得していただけるものを出す方法を常に考えているんです」

そんな田中さんが今考えているこの店の次のステージは?

「店を開店した直後である2014年頃からザ・サードウェーブという空前のコーヒーブームがやってきた。ぼく自身、サードウェーブに共感してこの店を始めたんですが、最近はコーヒーについてとやかく言う気がなくなってきて、今はシンプルに美味しいコーヒーを出す、純喫茶のような路線に行きたいんですよ。エスプレッソマシンとかではなく、水出しコーヒーで、コーヒーゼリーとかもあるような。今の店のスタイルは西海岸のサードウェーブのカフェみたいになっているんですが、日本のふつうの純喫茶みたいなのもいいかなと」

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「燕みたいな田舎の街でおもしろい店が成立するには、カフェにしかできないような機能を発揮していくことに意味があると思うんです。いろいろな人とつながることができたり、この場所をメディアとして機能させるようなことができたらいいですね。そして、この店が燕市という土地にあることをおぼえていただいて、店がもっとお客様たちのものになっていってほしい、そんな願いは開店した当初よりも強くなっています」

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ツバメコーヒー
新潟県燕市吉田2760-1
0256-77-8781
http://tsubamecoffee.com

文:鈴木伸子
写真:神宮巨樹
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