さんち 〜工芸と探訪〜

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東京で唯一「工芸」が付く高校の授業とは?技術と共に育まれるクラフトマンシップ 水道橋・後楽園にある東京都立工芸高等学校の授業や学校生活を見学!

投稿日: 2018年10月30日
産地: 東京
編集:
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JR水道橋駅付近を通過する際に車窓から見える、ガラス張りの大きな建物に覚えのある人もいるのではないでしょうか?

さらには、「工芸高校」と書かれたそのプレートを見てほんの一瞬、興味をそそられたかもしれません。

学校名に「工芸」と名のつく高校は、都内でもただ一つ、この東京都立工芸高等学校のみです。

高校で工芸を学ぶって、どういうことなんだろうか…?

工芸と聞いたら気になって仕方がないさんち編集部が伺ったその場所は、揺るぎないクラフトマンシップに満ちていました。

「工芸」を専門と謳う学校とは…?

東京工芸高等学校

東京都立工芸高等学校(以下、工芸高校)が佇むのは、数々の教育機関がひしめき合う水道橋駅のすぐ目の前。

現在は地上9階、地下2階建ての近未来風な外観が目を引きますが、創立は明治40年と、なんと100年以上の歴史を誇る由緒正しいものづくり専門の高等学校なのです。

東京工芸高等学校

アートクラフト科
マシンクラフト科
インテリア科
グラフィックアーツ科
デザイン科

コースはこの5つが用意され、各学年一クラスずつの少人数制です。

現在は、生徒の約8割が卒業後には進学を選んでいるそう。ものづくりの技術を身に付けた上で、デザイン系の大学や専門学校、美術大学に進む生徒がほとんどだといいます。

分類上は「工業高校」に属する工芸高校。しかし、「全員が図面通りに同じ製品をつくること」を主な目的とする一般的な工業高校と比べ、ここでは「デザイン」というキーワードに大きな存在感があります。

マシンクラフト科キャッチフレーズ 「マシンで創る自分のかたち」

5つあるコースの全てで大事にされているのは、「オリジナル」を生み出せる生徒の育成です。

だからこそ、専門技術の広い知見と高い技術力に加え、デザインのノウハウまでも学ぶことができる環境が整えられています。

では、そんな工芸高校の風景を少し覗かせてもらいましょう!

工芸高校は、熱いものづくりの現場だった

東京都立工芸高等学校 アートクラフト科の実習室

まずは、アートクラフト科の実習室から。

アートクラフト科では、金属・ガラス・宝石などを素材として、手仕事で工芸品を創作しています。

金属・ガラス・宝石などを素材として、手仕事で工芸品を創作

1年生の段階で彫金、鍛金、鋳造の金工技法を身に付け、すぐに実践のものづくりがはじまります。

作業中の生徒のみなさんも、慣れた手付きで鍛金をしていました。卒業生の中には、彫金や鍛金の人間国宝に認定された方もいらっしゃるそう…!

作業中の生徒のみなさんも、慣れた手付きで鍛金

「地下には鍛金室があるのですが、そのちょうど真上が校長室なんです。だから、カンカンと音が響いてくると、『今日も元気にやっているな』と校長先生は思うみたいですよ」

案内してくださった先生がそんなことを教えてくれました。

東京工芸高等学校インテリア科の展示物

こちらはインテリア科の展示物。

学年が上がると、ここまで本格的な模型を作成できるレベルにまで成長していきます。

東京工芸高等学校インテリア科
東京工芸高等学校インテリア科生徒お手製のベンチ

インテリア科の教室には、あちこちに生徒お手製のベンチが配置されています。

こんな風に、それぞれのコースごとの特色が教室にも反映されているんですね。

東京工芸高等学校グラフィックアーツ科では、文化祭で販売するオリジナルTシャツをシルクスクリーンで印刷

グラフィックアーツ科では、文化祭で販売するオリジナルTシャツをシルクスクリーンで印刷しているところでした。

そして…?

東京工芸高等学校 印刷室の奥には大量の活字が

どーん!

印刷室の奥には大量の活字が。活版印刷好きにはたまらない光景です…。

こういった古くからの印刷技術のほか、グラフィックアーツ科には企業が使用している4色フルカラー印刷機も完備されています。

東京工芸高等学校グラフィックアーツ科には企業が使用している4色フルカラー印刷機も完備

ときには、企業や行政から印刷機の依頼で、生徒のデザインを印刷することも! 新旧の印刷技術が充実した環境です。

東京工芸高等学校デザイン科

こちらはデザイン科。

このようなPCを使っての作業はもちろんのこと、より多くの人たちにデザインを通してモノを伝える基盤を幅広く学んでいくことができます。

東京工芸高等学校には、本格的な撮影スタジオまで!

本格的な撮影スタジオまで!

これが公立高校の校舎内だなんて、なかなか想像できません。

東京工芸高等学校マシンクラフト科の作業風景

最後はマシンクラフト科の作業風景です。

作業室に入ると、一瞬「ここは工場…?!」と錯覚を起こしてしまうような本格的な機械がずらりと並んでいました。

先生がそばでマンツーマンで付いて見守る……ということもなく、扱いなれた切削機械で金属を削っている生徒の姿に驚きました。

東京工芸高等学校マシンクラフト科 扱いなれた切削機械で金属を削っている生徒

校舎を一通り見学して感じたのは、私たちがイメージしている高校とはあまりにも違うこと。そして、どこを覗いても、作業服に身を包んでイキイキとものづくりをしている生徒たちの素敵な姿でした。

彼らは、どんな想いで工芸高校での日々を過ごしているのでしょう?

ここで、工芸と直接的に関わりの深い、マシンクラフト科/アートクラフト科の生徒と先生たちにお話を伺いました。

ものを作った経験は、どんな道に進んでもきっと活きるから

東京工芸高等学校マシンクラフト科 左から:池澤来実さん(3年)、小野村実羽さん(3年)、島田先生

左から:池澤来実さん(3年)、小野村実羽さん(3年)、島田先生

まずは、マシンクラフト科のみなさんにお話を伺います。

── なぜ工芸高校に入学したいと思ったのでしょう?

池澤さん:小さいころからものをつくるのが好きで、中学2年生のときに担任の先生に薦めてもらったのがきっかけでした。なかでも高校生のときから本格的な機械を扱えるマシンクラフト科を選んだのは、大学でもここまで本格的な機械を使えるチャンスはあまりないと知ったからです。

小野村さん:私もずっとものづくりが好きで、最初は工業高校に入ろうと思っていたんです。でも、学校見学に行ったら男子ばっかりで、ちょっとこわい…と思ってしまって。
ここを知って、自分らしいものづくりをのびのびできるのって素敵だなと思ったんです。

島田先生:ウチの高校はそれぞれに「これがやりたい!」という気持ちを持って入学してきてくれる子が多いですね。1年生の最初の授業で教えていると、みんな「待ってました!いよいよ機械が触れるんだ!」というワクワク感が伝わってくるんです。

小野村さん:入学してすぐに実習着をもらったときは、みんな「憧れの実習着だ!!」って写真を撮ったりしたよね。

東京工芸高等学校「憧れの実習着」

── 工芸高校の先生は、どんな風に生徒に指導するのですか?

島田先生:私は工業高校で指導していたこともあるのですが、ここは「デザイン」の要素が入ってくるので教え方が全然違うんですよ。

工業高校は決められたモノをいかに早く正確に作るか、というのが求められるのですが、工芸高校は寸法精度よりも「その子が作りたいデザインにどれくらい近づけるか」というのを重視するんです。使っている機械は同じだとしても、アウトプットは全く別物です。

池澤さん:工芸高校には引き出しの多い先生がたくさんいると思います。自分でデザインしてイメージしていたモノよりも良い作品ができるのは、先生たちの技術と知識がすごいからだなぁって。

東京工芸高等学校マシンクラフト科 島田先生

島田先生:変な言い方なんですけど、この子たち、普通の女子高生じゃないですからね。例えば、物に溶接をすると「ビード」という跡が残るんですが、キレイに溶接できるほどキレイなビードができるんです。この子たちはオシャレなカフェの話題よりも「このビードすごくない?どうやって作ってるんだろ…」と盛り上がってるんですよ(笑)。

小野村さん:ウチの高校だったらどの科の子もそうですね(笑)。素材とか加工方法とか、「どうやって作ったんだろう?」ってすぐ考えちゃう。3年間でだんだんそうなっていきました。

── 工芸高校で学んだことを、今後どう活かしていきたいですか?

小野村さん:マシンクラフト科を出たからといって、大学の工学部とかに進学する人はそれほどいません。自分も含めデザインやファッション、美術系志望の人がほとんどなんです。ちなみに私は、機械からは離れますが和裁の世界に進みたいです!

池澤さん:私も、デザインの学科を志望しています。でも、ここで機械のことを経験できたので、それが無駄になるわけじゃないと思ってます。寂しい気持ちや懐かしく思い返すことも多分あるけど、今後自分の好きなことをやっていく中で活きたらいいな。

東京工芸高等学校マシンクラフト科 池澤来実さん(3年)

島田先生:そうですね。マシンクラフト科を出たからといって、機械に関わることを直接やることが全てではないと思っています。自由に、好きにやってほしいです。

大人になるといろいろ出てくるけど、あんまりそういうのに囚われず、今のこの子たちみたいに「作りたいからつくる」という経験ができるって幸せじゃないですか。逆に、ここでいろんなことができるようになったから「その気になれば何でもできるんだな」と思ってくれたほうが嬉しいですね。

それがどうして「良いモノ」なのかを、ちゃんと分かる大人になってほしい

東京工芸高等学校アートクラフト科 左から:矢口鳩望さん(3年)、宇高先生

左から:矢口鳩望さん(3年)、宇高先生

続いては、アートクラフト科のお二人に。

── 進学先にアートクラフト科を選んだ理由を教えてください。

矢口さん:昔からアクセサリー作りなどの細かい作業が好きだったから、自分の手で精密なものづくりができるアートクラフト科を選びました。将来の夢も、今はジュエリー作家になれたら良いなと思っています。

── 生徒たちが手仕事を学ぶ上でどんな授業を行うのでしょうか?

宇高先生:最初の段階から実技の授業があります。道具も最初に揃えるので、美大の金工科と同じようなカリキュラムを学びます。1年生の3回目の授業からは、自分でバーナーを使って銀を溶かしたりし始めますしね。

矢口さん:自分でいろいろ作れるようになると、普段のモノの見方も変わってきました。ショッピングをしていてアクセサリーを手に取ったりすると、「どうやって作ってるんだろう?」って……

宇高先生:あ、裏返すでしょ?

矢口さん:はい(笑)。つなぎ目とか、見ちゃいますね。

── ちょっと意地悪な質問ですが…ものづくりをしていて「もう嫌だ!」と思うことってありますか?

矢口さん:あります。いろんな技術を覚えていく中で、得意不得意も見えてくるんですよね。

よく覚えているのは、2年生の彫金の授業で、ボンボニエール(お菓子入れ)を作ったときなんですけど、私は鍛金がすごい苦手で…。上下のパーツが噛み合うように上手く合わせるのが本当に大変でした。

東京工芸高等学校アートクラフト科 ボンボニエール

宇高先生:制作工程を見守っているので、生徒が苦労しているのは分かるのですが、あえて手出しはしていません。材料と基本的なやり方が分かったら、後は自由に作り始めていって、試しては、うまくいかない、といった経験こそが成長につながるからです。

矢口さん:先生に何回も聞きに行くんですけど、「できるでしょう?」と返されたりして。なかなか教えてくれないときもあるんです(笑)。

東京工芸高等学校アートクラフト科 矢口鳩望さん(3年)

宇高先生:大体は、生徒が作業している音で、うまく進んでいるのかは分かるんですよね。やり方が違っていそうだったら「できてる?」と声をかけるくらいにしています。一番は生徒が自主的に制作できること。手取り足取りしすぎて、二人羽織みたいになっちゃったら生徒の力がつかないでしょう?

── 将来はどんな作り手になりたいですか?

矢口さん:自分の作りたいものをつくるというよりは、自分が作ったものを使ってくれる人たちがどういうものを求めているのかを考えて作りたいです。需要に対して答えていきたい、という気持ちが強いです。

東京工芸高等学校アートクラフト科 宇高先生

── 先生から生徒たちに「こうあってほしい」というのはありますか?

宇高先生:「良いモノ」の本質が読み取れる人であってほしいですね。もちろん作るときもそういう観点でいてほしいし、一流のものを見極める目を持ってもらいたいなと。

良いモノって、それこそ手仕事のような一見するとめんどくさそうな技術があって成り立っていたりするんです。これはどの分野の「一流」といわれるところにも通用すると思うので、その視点をここで育んでいってほしいですね。

ものづくりへの熱意が全ての根底に根付く場所

東京工芸高等学校「ものづくりへの熱意が全ての根底に根付く場所」

「工芸」とは、“実用品に芸術的な意匠を加えたもの”のこと。

作るだけでも、デザインできるだけでも成立しないものづくりを学べるこの場所は、まさに「工芸」の名を冠するにふさわしい高校でした。

そして実は、取材にお邪魔したのは定期テスト直後の放課後だったんです。

普通の高校生なら遊びに行きたいであろうこのタイミングに、多くの生徒が学校の一大イベントである「工芸祭」の準備に夢中になっていました。

「いいものを、作りたいんですよね。」

そう言って、工芸祭で販売する商品作りに熱心に取り組んでいる生徒たちの姿が今も忘れられません。

誰に強制されるでもなく、自ら製作に励む彼ら。

その瞳の奥には、紛れも無いクラフトマンシップがきらりと潜んでいました。

<取材協力>
東京都立工芸高等学校
〒113-0033 東京都文京区本郷1-3-9
03-3814-8755

文:山越栞
写真:長谷川賢人

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