さんち 〜工芸と探訪〜

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酉の市の「熊手」に込められた願いを紐解く 120年 熊手を作り続ける「熊手工房 はしもと」に聞く

投稿日: 2018年11月4日
産地: 東京
編集:
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11月は、酉の市 (とりのいち) の季節。

浅草・鷲神社の酉の市。深夜から大勢の人が詰めかけます

浅草・鷲神社の酉の市。深夜から大勢の人が詰めかけます

一昨年、さんち編集部でも浅草・鷲神社の酉の市に出向き、縁起物の熊手を購入してきました。

昨年の記事:「真夜中に始まる江戸の風物詩、酉の市に行ってきました!」
昨年の酉の市で購入した熊手。「さんち」と名前を入れてもらいました

昨年の酉の市で購入した熊手。「さんち」と名前を入れてもらいました

今回はこの熊手そのものに注目し、作り手さんを訪ねて、その由来や込められた願いを紐解いてみようと思います。

熊手はもともと、祭の一角で売られていた農具

江戸時代から続く酉の市。その起源は諸説ありますが、東京都足立区にある大鷲 (おおとり) 神社で始まった、秋の収穫祭が発祥だと言われています。

次第に、来年の商売繁盛や開運招福を願うお祭りへと変化していくなかで、もともと市の一角で農具として売られていた熊手が、いつの間にか縁起物として担がれるようになりました。

熊手を飾る縁起物「指物」とは?

熊手には、その形が鷲が獲物を掴んでいる様子に似ているため「福を掴んで離さない」という意味や、落ち葉などを集めることから「福をかき集める」という意味があるそうです。

また、時代とともに様々な縁起物も飾り付けられるようになりました。この飾りは指物 (さしもの) と呼ばれ、それぞれに洒落た願いが込められています。

それぞれの指物にどんな意味があるのか、熊手はどのように作られているのか。東京都足立区で120年以上熊手を作り続ける「熊手工房 はしもと」さんを訪ねて、教えていただきました。

「熊手工房 はしもと」代表の橋本誠三さん。橋本さんで3代目

「熊手工房 はしもと」代表の橋本誠三さん。橋本さんで3代目

おかめ、鯛、千両箱、亀などさまざまな縁起物が飾り付けられる

まず、熊手のメインとして取り付けられることが多いのは、「おかめ」のお面。おかめは「お多福 (おたふく) 」とも呼ばれ、その名の通り、福を多く招く女性のことです。江戸時代から熊手の中心に飾り付けられていました。

おかめの面は、伝統的な指物のひとつ。はしもとさんの工房の看板にも描かれています

おかめの面は、伝統的な指物のひとつ。はしもとさんの工房の看板にも描かれています

他にも鯛や、千両箱、亀など、さまざまな縁起物が飾り付けられています。

縁起物の定番、鯛の指物

縁起物の定番、鯛の指物

蕪 (かぶ) には「根が増える」「株分け」などの意味があります

“蕪 (かぶ) には「根が増える」「株分け」などの意味があります

枡は、「『ますます』繁盛」を意味する縁起物。商売繁盛を願う酉の市らしい指物といえます。こちらの枡の中には恵比寿様と大黒様が

枡は、「『ますます』繁盛」を意味する縁起物。商売繁盛を願う酉の市らしい指物といえます。こちらの枡の中には恵比寿様と大黒様が

「巾着」はお財布のこと。お金がたくさん入るように、との願いが込められています

「巾着」はお財布のこと。お金がたくさん入るように、との願いが込められています

七福神も指物の定番。こちらの熊手には小判や米俵など、様々な縁起物が飾り付けられています

七福神も指物の定番。こちらの熊手には小判や米俵など、様々な縁起物が飾り付けられています

神輿や風神雷神など、最近は指物もバラエティ豊かだそう

神輿や風神雷神など、最近は指物もバラエティ豊かだそう

家族総出。「熊手工房 はしもと」の熊手づくり

熊手づくりは、もともとは副業の家内制手工業として始まったものだそう。

はしもとさんでは現在も、橋本さんご夫婦、橋本さんのお姉さん、妹さん、義弟さんと、一家で熊手づくりをしています。

熊手が作られているのは、橋本さんのご自宅と、隣接する4階建ての倉庫兼工房。完成した熊手やその材料が、ところ狭しと並べられていました。

 工房の階段に並べられた熊手。ビニールを被り、酉の市で店頭に並ぶのを待っています

工房の階段に並べられた熊手。ビニールを被り、酉の市で店頭に並ぶのを待っています

2m近い巨大な熊手も!

2m近い巨大な熊手も!

工房にうかがうと、橋本さんのお姉さんと妹さんが、指物を熊手に飾り付けている最中でした。

全体のバランスを見ながら、躊躇なく指物を飾り付けていきます。数十年のベテランの技です

全体のバランスを見ながら、躊躇なく指物を飾り付けていきます。数十年のベテランの技です

滝登りする、鯉の指物もスタンバイ

滝登りする、鯉の指物もスタンバイ

義弟さんは大物の熊手を仕上げていました

義弟さんは大物の熊手を仕上げていました

「木 (ぼく) 」と呼ばれる木の飾りを仕上げる奥さん。松葉や梅の花を取り付けていきます

「木 (ぼく) 」と呼ばれる木の飾りを仕上げる奥さん。松葉や梅の花を取り付けていきます

梅の花が咲いた木 (ぼく)

梅の花が咲いた木 (ぼく)

はしもとさんでは年間5000~7000個もの熊手を作っています。前年の売上を参考に、お客さんのニーズに合わせた熊手を何十種類と用意するのだそうです。

平面から立体へ。進化する熊手づくり

こうした熊手づくりを120年続けてきた「はしもと」さん。時代によって、熊手のデザインや作り方に違いはあるのでしょうか?

「昔の熊手は、紙に絵を描いた指物を取り付けた、平面的なものばかりでした。現在でも『平 (ひら) 』と呼んで製作を続けています。

そこに、60年ほど前から『青 (あお) 』と呼ばれる立体的なものが登場しました。熊手の上部に飾られた松の色から青と呼ばれ、今ではこちらが主流です。指物に木彫りの人形を使うなど、年々熊手は豪華かつ高価なものになってきています。

一方で、最近は小さい熊手や、柄のついていない置物タイプの熊手も人気です。石膏ボードの壁で、熊手を取り付られない建物が増えているからですね」

昔ながらの「平 (ひら) 」の熊手。紙に描かれた絵の指物がメインなので、『青』と比べると厚みは控えめ

昔ながらの「平 (ひら) 」の熊手。紙に描かれた絵の指物がメインなので、『青』と比べると厚みは控えめ

立体の指物が飾り付けられた「青」の熊手はとてもボリューム感があります

立体の指物が飾り付けられた「青」の熊手はとてもボリューム感があります

あまり大きさにこだわらず、気に入ったものを買えばいい

さらに、熊手づくりを取り巻く環境も変わってきたのだと、橋本さんは語ります。

「指物も熊手本体も、昔は全てうちで作っていましたが、別の業者さんから取り寄せるものが増えてきています。

祖父が熊手づくりをはじめた頃は、農閑期に張り子を作る農家が近所に数多くあり、その張り子を使って指物を作っていました。しかし今は、宅地化で農家もなくなり、近所で張り子を手に入れることも難しくなりましたからね。

時代とともに、熊手づくりも変化しているんですよ」

「一方で、新しい材料や技術も登場しています。昔より指物の発色が良くなったりと、熊手のバリエーションは以前よりも広がってきています」

「熊手は年々大きいものに買い替えていくのが良いという話もありますが、どの大きさの熊手も同じように心を込めて作っています。また、同じデザインの熊手でも、すべて手作りなので一点一点どこかが違っています。ですので、あまり大きさにはこだわらず、気に入ったものを買うのが良いと思いますよ」

橋本さんのご自宅にも、熊手が。玄関に向けて、高い位置に飾るのが良いそう

橋本さんのご自宅にも、熊手が。玄関に向けて、高い位置に飾るのが良いそう

賑やかな酉の市を彩る熊手。縁起物の指物に込められた願いや、家族みなさんで作っている様子を知り、余計にありがたみが増すように感じました。

11月の酉の市は、あと2回。まだ行かれていない方は、お気に入りの熊手を探しに足を運んでみてはいかがでしょうか。





こちらの記事は2017年11月28日の記事を再編集して掲載しております。今年も盛り上がりを見せる酉の市。ぜひ皆さんも足を運んでください。




<取材協力>
熊手工房 はしもと
東京都足立区本木2-7-17
090-3202-0416




文・写真:竹島千遥

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