さんち 〜工芸と探訪〜

SUNCHI ~ Explore japan through regional crafts ~

このページの先頭へ
三十の手習い

着たい浴衣を自分でつくる。縫製ベタの浴衣づくり体験記

投稿日: 2017年8月7日
産地: 東京
編集:
  • LINE

こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。
様々な習い事の体験を綴る記事、題して「三十の手習い」。現在茶道編を連載中ですが、今回はそのスピンオフ企画をお届けします。

大人になると、暮らしに必要なものは「買う」ことで手に入れるのが大半です。けれど、プロ顔負けの料理を自宅で作ってもてなす人や、陶芸を趣味にする人がいるように、自分で何かを「つくる」楽しさは、買うだけでは味わえない大きな喜びがあるのだと、最近身をもって知りました。

私がこの夏味わったのは、今年着る浴衣を自分でつくる、という人生初の経験。しかもミシンは一切使わずに、すべて手縫いです。

縫っている様子

縫いものは全く得意でなかった私が、「自分にあった浴衣が欲しい」の一心で、5日間の講座と針と糸だけで本当に浴衣が縫えてしまうまでの体験をまとめました。

私が参加した講座は、「自分で縫い上げる~この夏の浴衣づくり2017」という全5回の講座。

東京渋谷を中心に街をキャンパスに見立てた学びの場を提供する「シブヤ大学」と、毎月手作りをテーマにワークショップなどを開催する西武渋谷店の「サンイデー渋谷」とのコラボレーション企画です。

講座名に2017とあるとおり年に1度だけ開かれる講座は、今年で4年目。毎回抽選になる人気講座で、今年も募集枠に対してかなりの高倍率だったそうです。幸運にも当選した運に感謝して、せっかくなので取材させてもらうことに。

浴衣姿で前に立つのはこの講座の講師、和裁士のタミカ先生とアシスタントの渡部あや先生。シブヤ大学の佐藤隆俊さんが授業の取りまとめ役を務められます。

タミカ先生 (右) とあや先生 (左)。毎回違う浴衣を素敵に着こなされています

おしゃれなシブヤ大学の佐藤さん。毎年この講座では「おやびん」の愛称で親しまれているそうです

私を含め9人の生徒さんの参加動機も様々。もともと刺繍が好きな方、娘さんの浴衣をつくりたいという方、昨年からの常連さんも。

全員の自己紹介も終えたところで作業に入る前に「そもそも和裁って?」というお話を伺いました。

和裁って何ですか?

そもそも和裁とは和服裁縫の略で、人々が洋服を着るようになる明治以降に登場した洋服裁縫(洋裁)と、区別するために生まれた言葉。

型紙を使わず直線立ちが基本で、ゆったり仕立てて着付けで形を整えます。和服の中でも比較的仕立てが簡単なものや素材によってはミシン縫いのものもありますが、縫製は手縫いが基本。今回の授業もすべて手縫いで行います。

あや先生手作りの針山のプレゼント。これからの長い道のりの励みになります

「ミシンは一定の速さ、強さで縫うので縫い目が強く、生地を痛めやすいところがあります。一方手縫いは人の手で縫う分、縫いは弱くなりますが、その分生地を痛めないのが特徴です。

ミシンで仕上げたものも素敵ですが、自分の手で縫うと愛着もわきますし、自分のサイズにちゃんとあってきますよ」

講座に参加してまずはじめに嬉しかったのが、事前に伝えておいた採寸結果を元に、先生が一人ひとりにあった採寸表を起こしてくれていたことでした。

一人ひとりに合わせた採寸表 (左奥) と講座のテキスト。これ無くして浴衣づくりは始まりません

一人ひとりに合わせた採寸表 (左奥) と講座のテキスト。これ無くして浴衣づくりは始まりません

自分の体型にぴったりあう、世界に一着だけの浴衣。それだけですでにワクワクしてしまいますが、もうひとつ、自分でつくる浴衣の大きな楽しみが、授業が始まって早々に待っていました。

自分でつくる浴衣の魅力
その一、既製品にない好きな柄に出会える

授業が始まる前から人の輪ができていたのが、ずらりと用意された反物の列。

注染 (ちゅうせん) という裏まで柄が染まる技法でつくられた浴衣用の生地は、今回の講座のために用意された蔵出し品。生徒は気に入ったものをひとつ、選ぶことができます。

あれもいい、こっちも素敵、と誰も選ぶ表情が真剣でした

上手に選ぶコツは、肩など顔の近くに当てて全身の姿見で生地を合わせてみることと教わりました。確かに反物でみるのとまた印象が違います。

希望がかぶったら当事者同士で相談、という緊張感漂う条件の中、幸いバッティングもなく生地セレクトが終わり、私のもとに淡い緑色の反物がやってきました。

幸いバッティングもなく生地セレクトが終わり、私のもとに淡い緑色の反物がやってきました。

いよいよ浴衣づくりのスタートです!

自分でつくる浴衣の魅力
その二、運針 (うんしん) でストレス発散

先生の運針の様子

採寸表を元に恐る恐る生地を裁断しおえたら、いよいよ縫製に入ります。タミカ先生によると、実はサイズを測って裁断するまでが一番緊張するところだそうです。

「縫製に入る前に、運針をやってみましょう」

ウンシン。これが全5回の講座、毎回縫い始める前のお約束。先生が目の前で実演してくれます。

指ぬきを利き手の中指にはめて、針のお尻を固定させます。親指と人差し指は、針の先を持つように

針は動かさずに生地を上下に動かして‥‥

針は動かさずに生地を上下に動かして‥‥

先生の運針の様子

右手の内側に生地をためていきます

ためた生地を伸ばしてみると‥‥

あっという間に並縫いができてしまいました。まるで魔法のよう。

「洋裁は針を動かすけれど、和裁は布を動かします。運針は、手縫いの基本的な縫い方のひとつです」

右利きの人の場合、右手に持つ針の位置は固定したまま左手に持つ生地を上下させて針を通していきます。同時に右手の手の内に生地を手繰っていくことで、生地が縫われていく、という仕組みです。

見ている分にはできそうなのに、これがやってみると全く勝手がわからない。

みんなで見よう見まねでやってみます

針のお尻を指ぬきにしっかり当てておくのがポイントなのですが、全く針がじっとしていません。けれど慣れた手つきの先生は、それはそれはあっという間に生地を縫ってしまいます。

「初めはきれいに縫うことよりも、まずはこのリズムや手の動きの感覚を覚えることが大事です。慣れると無心になってやれるので、不思議と心が落ち着くんですよ」

そういえば以前、授業前の精神統一にいいと、朝一番に運針をさせる学校があるとのニュースを見たことがありました。

裁縫に苦手意識のあった私は当時、「大変そうだなぁ」という気持ちでそのニュースに接していましたが、果たして先生の言う通り、私も講座を重ねるごとにどうにか運針ができるようになっていきました。

並縫いならこれまでの2倍以上の速さで縫えるようになるという嬉しい成果も。そして運針はできるようになると、とても楽しいのです。

最近はスポーツの世界で、選手が最高の集中状態になって普段以上の力を発揮することを「ゾーンに入る」と言いますが、その感覚に近いのだろうと思います。まさか浴衣をつくっていて「ゾーン」を発見するとは。

集中してきれいに縫えた時はスカッとして、ちょっとしたストレス発散にも良さそうです。この間知った、手ぬぐい生地を2箇所縫うだけでつくれるあずま袋など、早速縫いたくなってきます。

自分でつくる浴衣の魅力
その三、ゆっくりだんだん、浴衣になっていく過程

つくり途中の浴衣

普段和服を着ない生活のためもあって、和裁には耳慣れない言葉がたくさんあります。部位の名前だけでも「みやつ口」「くりこし」「おくみ」などなど。どこのことかわかりますか?

おくみはここ (前身頃についた細幅の布部分) 、と先生が自らの浴衣で説明

さらには動詞も新鮮です。布端を、表に縫い目が見えないように縫うことは「くける」。アイロンをかけることは「きせをかける」。

縫い見本

縫い見本を見ながら箇所にあった縫い方をします

和裁のアイロン台。普段のアイロンとずいぶん様子が違います

和裁のアイロン台。普段のアイロンとずいぶん様子が違います

これが和裁版のアイロン、電気ゴテ。電気の熱で熱された鉄ゴテで、折り目をつけたりシワをとったりします

これが和裁版のアイロン、電気ゴテ。電気の熱で熱された鉄ゴテで、折り目をつけたりシワをとったりします

耳慣れない言葉が飛び交う中で生地を切ったりあっちと縫い合わせたり、としていくので、初めのうちは自分が何をやっているのか、正直わかりません。

先生も、「今はわからないながらも、とにかく先に進めるのが大事です」と、私たちの頭の上の「?」はすっかり見越した上で励まします。

各人の進み具合を見ながら指導に回るタミカ先生

新しい工程に進むごとに、ひとつを見本にやり方を見せてくれます

それが次第に、身頃ができ、袖が完成し、そのふたつを縫い合わせて‥‥と段々浴衣らしくなっていくと、早く完成させたい、先に進みたい、と何よりのエンジンになりました。

はじめは一枚の布だったものを裁断し‥‥

柄合わせを見ているところ

柄合わせを見ているところ

次第に体にあったサイズの布になっていきます

次第に体にあったサイズの布になっていきます

だんだん、衣服らしくなってきました

だんだん、衣服らしくなってきました

もうすぐ完成です!

もうすぐ完成です!

浴衣づくりはその大半はひたすらに黙々と縫う作業で、一見地味です。さらに和服は左右対称なので、授業では半身をやって、もう半分は家での宿題、自分ひとりでやることになります。

回を追うごとに縫う距離が長くなり、縫い方も種類が増え、どんどん多くなっていく宿題。

それでもなんとか次の講座までにやり遂げて持ってきていたのは、何より作る過程が楽しくなっていたこと、そして楽しくなるほどに、今自分がつくっているこの浴衣への愛着がまして、早く完成した浴衣に袖を通したいと思うからでした。

浴衣らしくなってくると、モチベーションがさらに上がります

地道な浴衣づくりを楽しむコツ
・気に入った裁縫道具で作業に集中

参加された生徒さんは、みなさん自分にとって心地のいいサイズ、ラインナップの裁縫箱をそれぞれに持ってこられていました。

何事もまずは形から。初回丸腰で参加してしまった私も、持ち運びにかさばらない小さな裁縫箱を手に入れて使うようになってから、その姿が作業中に目に入ることで、縫っている時間がさらに楽しくなりました。

手のひらサイズの小さな裁縫箱を買いました

・専門用語に馴染む

先に少し書いたように、浴衣づくりには和裁ならではの用語がよく登場します。いきなり知らないワードばかりで面くらわないように、覚えられなくてもそうした用語に親しんでおくと、ステップの理解度がぐんと変わりそうです。

キーワードが書かれたホワイトボード

キーワードが書かれたホワイトボード

採寸表に載った各部位の名称や手順を記したテキストを、すぐにはわからなくても面白がって眺めるだけで、少なくとも不必要な「おびえ」はなくなるように感じました。

世界に一着の浴衣を手に入れて

こうして5回の講座を終え、最後は少し先生に補講もお願いして、いよいよ世界に一着、自分のためだけの浴衣が完成しました!

機械を一切使わず、生地を通る縫い目すべてが自分の手で縫ったものだと思うと、改めて驚き感心するような、不思議な気持ちになってきます。

「自分の本当に気に入った柄の浴衣が欲しい」

その一心で始めた浴衣づくり。本当に自分で縫えてしまいました。

愛着の持てる、自分だけの特別な浴衣が手に入ったことはもちろん嬉しいですが、もう一つ嬉しかったのが、「自分の身につけるものを、自分の手でつくることができた」ということ。

服といえば洋服であっても浴衣であっても、欲しいと思えば「買う」のが当たり前の日々の中で、「自分でつくることができる」は大きな大きな発見です。運針を覚えたという技術的なことだけでなく、小さな自信になりました。

手縫いが当たり前だった時代の人が聞いたら呆れられた上に怒られそうですが、他の参加者の方の表情を見ていると、決してこの嬉しさは、私だけの感覚ではないように思えます。

袖が付いた!とみんなで喜んでいるところ

袖が付いた!とみんなで喜んでいるところ

難しい工程をやっていると、自然と人の輪が

暮らしに取り入れたいものを、自分の手でつくる喜び。さてこの浴衣にどんな帯を合わせようかと楽しみに思う頭の片隅で、次はこんなものを縫えるかもしれないな、と考えはじめています。

<取材協力>
特定非営利活動法人シブヤ大学
http://www.shibuya-univ.net/

西武渋谷店
https://www.sogo-seibu.jp/shibuya/

<掲載商品>
小さな裁縫箱 (遊 中川)

文・写真:尾島可奈子
  • LINE

Follow us

全国の工芸・産地にまつわる読み物を毎日更新しています

さんち〜工芸と探訪〜の読み物は各種ソーシャルメディアでも配信中。 今すぐフォローして最新情報をチェックしよう!

関連の読み物

「さんち 〜工芸と探訪〜」がアプリ「さんちの手帖」として登場しました。記事を読むだけではなく、旅の栞や旅印帖として使える、あなたのおともになるアプリです。

  • App Storeからダウンロード
  • Google Playで手に入れよう

アプリの詳細を見る