さんち 〜工芸と探訪〜

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デザインのゼロ地点

デザインのゼロ地点 第6回:グラス

投稿日: 2017年7月10日
産地: 東京
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こんにちは。THEの米津雄介と申します。
THE(ザ)は漆のお椀から電動自転車まで、あらゆる分野の商品をそのジャンルの専業メーカーと共同開発する、ものづくりの会社です。例えば、THE JEANSといえば多くの人がLevi’s 501を連想するような、「これこそは」と呼べる世の中のスタンダード。THE〇〇=これぞ〇〇、といったそのジャンルのど真ん中に位置する製品を探求しています。

連載企画「デザインのゼロ地点」、6回目のお題は「グラス」。
THEブランドでも最初に商品化された、思い出深いジャンルでもあります。英語でglassというと、ガラス・窓ガラス・コップ・ガラス製品・鏡・姿見・眼鏡・望遠鏡などたくさんの意味がありますが、ここではもちろんガラス製のコップについてお話ししたいと思います。材質名称と道具の名称が混同されてしまうほど人類の歴史の中で長く使われてきたグラス。
今回も歴史や素材、形状、機能、価格などそれぞれを絡めながらグラスを読み解いていければと思います。

そもそも人類はいつからガラスを道具としてきたのでしょうか。 調べてみるとこれまたとんでもなく古く、紀元前4000年より前にエジプトやメソポタミア文明で二酸化ケイ素 (シリカ) の表面を融かして作製したビーズが始まりだと考えられているそうです。ただ、当時はガラスそれ自体を材料として用いていたのではなく、陶磁器などの製造と関連しながら用いられていたと考えられています。
そして、エジプトでは紀元前2000年代までに、植物灰や天然炭酸ソーダとともにシリカを熱すると融点が下がることが明らかになり、これを利用して焼結ではなく溶融 (ようゆう) によるガラスの加工が可能になるそうです。これが鋳造ガラスの始まりです。
紀元前1550年頃にはエジプトで粘土の型に流し込んで器を作るコア法によって最初のガラスの器が作られ、西アジアへ製法が広まっていたとのことです。

なんと今から3500年以上前からガラスの成形品があったのです!すごい!!

古代エジプトのコアガラス 出典:「古代ガラス」平凡社

そしておそらくこの後すぐ(紀元前1500年前後)に「宙吹き」技法が発明されます。今も残る吹きガラスの技法で、ガラスに限らずとも成型方法の基本構造でもあります。(プラスチック成型でもブロー成型といって空気で膨らませる技法はボトル形状のものを作る基本技法です)
宙吹き技法の発明によって、鋳造と比べて表面を磨く手間が省け、劇的に製造コストが下がったのでしょう。食器や保存容器として一般に使われるようになり、同時期にエジプトがローマ帝国支配下に置かれたことも重なって、ローマ帝国全域にまで製品とその製法が伝わりました。(主にローマガラスと呼ばれます)
さらに、型にガラスを吹き込む「型吹き」技法も開発され、成型と同時に装飾が施せるようになったのもこの頃です。

ちなみに、鋳造された板状ガラスが一部の窓に使用されるようになったのもこの時期とのこと。器よりも板ガラスの方が遅かったのですね。

宙吹き技法

BC27年~AC395年、ローマ帝政時代のローマガラス

またまた長くなってしまうので少し時代が飛びますが、12世紀には板ガラスを使ったゴシック調のステンドグラスが教会の窓を飾り、13世紀には不純物を除いた無色透明なガラスがドイツ南部やスイス、イタリア北部で製造されていたそうです。良質なガラス原料を使用していたヴェネツィアのガラスが有名です。

そして、15世紀には酸化鉛と酸化マンガンの添加により、屈折率の高いクリスタルガラスが生まれます。 ワイングラスのリーデルや、ロックグラスのバカラ、江戸切子など、THE醤油差しでも使われている比重が大きく透明度が高いガラスです。

1764年、フランス王ルイ15世により、ロレーヌ地方のバカラ村にガラス工場設立が許可され、1816年からクリスタルガラスの製造が開始された。その当時のクリスタルガラス。

ここから、18世紀の産業革命を経て、他の産業と同じく製造背景も急速に技術革新が起こります。ガラスの原料となる炭酸ナトリウム(ソーダ灰)を経済的に大量に生産する方法も発明され、ガラスを溶かす窯にも大きな進歩が起きました。蓄熱式槽窯 (ちくねつしきそうよう) を用いた製法により、溶融ガラスの大量供給が可能になり、この平炉はガラス炉として大成功します。この先の工業用ガラス製造の基本となり、改良を加え製鋼法としても使用されるようになりました。
こうしたガラス製品の製造コストの低下と、瓶・窓ガラス・望遠鏡などの光学系ガラスの需要の急増が重なり、各国に大規模なガラス工場が相次いで建設されるようになりました。

こうして現代に至るまで、製法や製品の改良が進んできたガラス分野ですが、一方で器としてのガラスコップ(=グラス)は、素材由来の機能革新以外ではほとんど形を変えずに今でも使用され続けています。

近年のグラスの定番といえば、デュラレックスのピカルディや、東洋佐々木ガラスのHSスタックタンブラーでしょうか。 どちらも業務用として広く流通していることもあり、誰もが必ずと言っていいほど見たことがあるグラスだと思います。

デュラレックス ピカルディ

デュラレックスは1939年、フランスのサンゴバン社によって工場が設立され、世界初の全面物理強化ガラス製のタンブラーを生んだブランドです。(デュラレックスの名でブランド化したのは1946年)
全面物理強化ガラスとは、表面に圧縮応力をかけることで機械的強度や熱衝撃性を高めたガラスで、車の窓ガラスなどがそれに当たります。車の窓ガラス並みの強度があり、持ちやすさと同時にスタッキング時のガラス同士の接点を少なくすることを考慮した、少し膨らみのある九角形の独特のフォルムは、見た目としても美しく、大好きなグラスです。

車の窓ガラスと一緒なので割れ方も独特で、他のガラスのように直線のヒビから鋭利に割れるのではなく、粉々に砕けるように割れます。ただ、これが少々難点で、先に述べた通り表面全体に応力をかけて強度を増している為、見えない傷や経年の劣化によって、その残留応力 (外力を除去した後でも物体内に存在する応力のこと) が行き場を見つけると突然割れてしまうことがあるそうです。個人的にはガラスは割れものですから致し方ないという思いもありますが、日本硝子製品工業会ではその点を考慮し製造を行なっていないとのこと。国産の全面物理強化ガラス製タンブラーが存在しないのはそのためです。

東洋佐々木ガラス HSハードストロング 1972年発売

東洋佐々木ガラスのHSハードストロングも、必ずと言っていいほど飲食店で目にするグラスです。1967年に佐々木硝子が開発した製品で、口元のみをガラスが変形しない範囲で軟化する程度の温度まで加熱した後、急激に冷却し、表面に圧縮応力層を、内部に引張応力層 (ひっぱりおうりょくそう) を形成させた口元物理強化という方法で作られたグラスです。口元のみ物理強化することで他へ応力を逃がして突然割れることを防いでいるようです。 (佐々木硝子は2002年に東洋ガラスハウスウェア部門と統合し、現在は東洋佐々木ガラスと改称)
形状はスタッキングに特化しながら、これ以上ないくらいシンプル。発売からちょうど50年ですが、今なお現役です。

グラスは、飲み物を入れる器として、数千年前から機能的な形状はほとんど変わっていないプロダクトですが、そのデザインのゼロポイントを考えたとき、あることに気がつきました。
それは、家の中と外では飲み物を飲むまでのプロセスが違うこと。
例えば、お店で飲み物を頼む (購入する) とき、Sサイズ・Mサイズ・Lサイズといったように必ず飲みたい量を先に指定することになります。一方で家庭で飲み物を飲むときは、飲みたい量を無意識に設定してグラスや容器を選んでいるのではないでしょうか。
では、世界中の人が直感的にサイズのわかる、みんなの基準になる器ってなんだろう?という考えから生まれたのがTHE GLASSでした。

THE GLASS(2012~)

「世界中のより多くの人が連想しやすいサイズ」として、コーヒーチェーンのカップと同じ形状で同じ容量のショート・トール・グランデというサイズ展開としたのですが、実は人間は先に飲む量を頭の中で無意識に決めて飲んでいる、という仮説が正しければ、完全に機能を追求した形状とも言えるかもしれません。

硼珪酸 (ほうけいさん) ガラスという、ホウ酸を混ぜて熔融し、軟化する温度や硬度を高めた耐熱ガラスを用い、厚みを一定に設計することで均一に応力がかかり、割れにくく作られています。
<THE GLASS>こちらもグラスの基準値の一つとして加えて頂けたら嬉しいです。

デザインのゼロ地点・グラス編、如何でしたでしょうか?
次回もまた身近な製品を題材にゼロ地点を探ってみたいと思います。
それではまた来月、よろしくお願い致します。

<写真提供>
東洋佐々木ガラス株式会社

米津雄介
プロダクトマネージャー / 経営者
THE株式会社 代表取締役
http://the-web.co.jp
大学卒業後、プラス株式会社にて文房具の商品開発とマーケティングに従事。
2012年にプロダクトマネージャーとしてTHEに参画し、全国のメーカーを回りながら、商品開発・流通施策・生産管理・品質管理などプロダクトマネジメント全般と事業計画を担当。
2015年3月に代表取締役社長に就任。共著に「デザインの誤解」(祥伝社)。


文:米津雄介

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