さんち 〜工芸と探訪〜

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きものを今様に愉しむ

きものを今様に愉しむ 歴史を知り、自由にきものと向き合う

投稿日: 2017年4月23日
産地: 東京
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こんにちは。ライターの小俣荘子です。
私はここ数年、洋装と和装それぞれ半分ずつくらいの割合で外出するようになりました。腕のやけど治療で夏場に毎日長袖で過ごさなければならなくなった際、暑さに耐えかねてすがるように始めたゆかたでの生活がきっかけでした。慣れてしまうと思いのほか楽しく快適なものでしたが、出かける先々で「大変でしょう」「偉いわねえ」といった労いの言葉をかけていただいたり、興味を持ってくださいつつも、「着たいけれど難しそう」「ハードルが高い」と不安を口にされる方にたくさん出会いました。

きものは現代の装いとして身近なものではなくなっている一方で、いつかは着てみたいと興味を持っている方は多いようです。
洋服と同じようにきものも日常に取り入れられたら、毎日はもっと彩り豊かになるはず。今回から始まる新連載「きものを今様に愉しむ」では、きものとの付き合い方や、愉しむヒントをご紹介してまいります!

第1回目は、きものを始めるにあたっての不安や疑問を解決すべく、歴史的見地からもきものに造詣の深い方の元へ。「きもの やまと」会長できもの文化育成にも多大な貢献をされている矢嶋孝敏(やじま・たかとし)さんにお話を伺いました。
聞き手は、ファッションディレクターで、一般女性のためのパーソナルスタイリングサービスも展開されている石川ともみさん。私たちにとって馴染みのある洋服の視点から問いを投げかけて頂きました。

(以下、矢嶋孝敏氏発言は「矢嶋:」、石川ともみ氏発言は「石川:」と表記)

最初の一歩

石川:一般女性からのご相談でも、きものを始めたいという方が増えていまして、何を揃えればいいの?予算は?どこで見ればいいの?とたくさんの疑問の声があがってきます。店頭で見る機会も洋服より少ないので全体像がつかみにくい。どこから入れば良いのか‥‥というお悩みを持つ方が多くいらっしゃいますね。最初の一歩、どんなふうに揃えていったら良いでしょうか?

矢嶋:まず、きものは一番ミニマムに言えば、きものと帯のふたつがあればいいのです。ゆかたと同じです。極端にいうと、ゆかたの場合、もちろん下駄があれば格好良いけれどミュールを合わせたって良いんです。インナーに着る長襦袢(ながじゅばん)は必要ない。ゆかたは夏に着る綿の単衣(ひとえ)のきものです。そう考えるとイメージがわくのではないでしょうか。ゆかた以外のきものでも、下に長襦袢を着なくても、タートルネックやフリルのブラウスを合わせたり、足元はブーツでもワンストラップシューズでも大丈夫。それが一番ミニマムな用意で出来るスタイルです。Tシャツとジーンズがあれば洋服を着られるのと同じですよ。
もっときっちりと着ようと思えば、長襦袢を用意する。本格的な長襦袢でなくても、今は3,900円ほどで手に入るコットンで出来た長襦袢のように使えるスリップもある。長襦袢の上にきものを着て帯、もっとおしゃれにするなら羽織、足袋と装履(ぞうり)といった感じで揃えます。

長襦袢の役割も担う肌着/ 写真提供 株式会社やまと

長襦袢の役割も担う肌着/ 写真提供 株式会社やまと

石川:そう考えるとかなりハードルが下がりますね。価格としてはどれくらいなのでしょう?

矢嶋:みなさんが高いと思っているのは絹のきものを想定しているからです。先日ラグジュアリーブランドのコレクションに行きましたが、やっぱり絹のワンピースは25万円するんですよ。

石川:そうですね(笑)

矢嶋:他のブランドでもシルクだと10万円以上するでしょう、きものも同じです。当社だと、ポリエステルの洗えるきものなら1万円台から。綿のきものであれば3万円台から(遠州木綿など)あります。片貝木綿でも4万円台で展開されています。帯が大体1万円からで、軽装履きの装履だと3,900円からある。ポリエステルなら、きもの、長襦袢になるスリップ、帯、足袋、装履、全部合わせたとしても5万円くらいで揃えられる。綿だと8万円前後で、絹になれば15万円くらいになります。
そう考えると、ファストファッションよりは高いけれど、百貨店でレディースプレタ(ブランド既製服)を買うのとほぼ変わりません。

石川:もしかするとトータルで揃えるときものの方がお手頃かもしれませんね。

矢嶋:もちろんきものは、凝ろうと思えばいくらでも凝れるんですよ。長襦袢を絹にしたり、羽織の裏地に凝ったりとかね。

矢嶋氏の羽織の裏地。唐獅子牡丹。裏地に凝る遊び心。

矢嶋さんの羽織の裏地、唐獅子牡丹。見えないところにも光る遊び心。

矢嶋:今日の羽裏は、唐獅子牡丹。桜も舞っている。季節のものをこうやって楽しむんですね。 裏地だけで何万円もするものもある。こういう凝り方もあるけれど、そればかりではないので、好みや予算に合わせて楽しめます。

石川:はじめはミニマムにスタートして、少しずつアレンジしていくのですね。
(ご同席いただいた)プレスの小林さんのきものも素敵ですね。木綿ですか?レースの襟やハートの帯留も可愛いです。

矢嶋:今注目の久留米絣ですね。綿です。帯留は自分で作って楽しむ方も多いですよ。アレンジは自由自在です。

やまと プレスの小林さんの装い

プレスの小林さんの装い。木綿のきもの(久留米絣)。帯留はピアスや箸置きなどに金具をつけて自作される方も多いそう。

石川:1着でもいろんな風に組み合わせて着られるし、もしかすると、きものの方がアレンジの幅が広げやすいところもあるのかもしれませんね。
最近のトレンドとして、洋服でも数を持ちたくないという方が多いです。着まわしという点でも時代性に合っているのかもしれません。

矢嶋:洋服だとフォルムが多様にあるでしょう。ジャケット1つとってもシングル・ダブル、丈やボタンの数も様々で、形も違う。きものはフォルムが同じだから、着まわしもしやすいのです。同じ形の素材違いや柄違いなので簡単に合わせられます。そして、男女でほぼ同じ形です。今日私が着ているきものも、実は女性ものの反物を仕立てました。こういった若草の萌木色の男性ものは、なかなかないので、楽しんでいます。男性も綺麗な色をいっぱい着た方がいい。それこそ、明るいピンクでも。一般的に、今までの男性向けきものは地味なものばかり。こういうちょっと洋服では出しにくい色を、きもので着たいなと思うのです。

石川:確かに、洋服の場合は男性でこの色で全身揃えるのはなかなか難しいですけれど、きものだと挑戦しやすいですね。

きもののルールを歴史から考える。カジュアルきものはもっと自由でいい。

石川:きものを揃えていく中で、やはり私たちのイメージでは、ルールがすごくたくさん細かくあるんじゃないかという印象があって…。ちょっと間違っていたら怒られそうとか、笑われそうとか、初心者はそもそものきものルールもわからない状態なので、すごく高いハードルを感じます。基本として、まずはどんなことを押さえたら良いのでしょうか?

矢嶋:きものの歴史でいえば3つあります。 「着るもの」として考えたら、洋服もきものも同じなのだけれど、一般的には「きもの=和服」でいい。 「和服」という言葉ができたのは洋服という言葉ができたのと同じ明治6年ころだから、和服の概念の歴史はせいぜい150年しかない。それより前はみんなきものだったから、そもそも和服・洋服という区別が存在しないのです。それから、今の袋帯・名古屋帯という名前ができたのが大体100年前。そして、「フォーマルはこういうものですよ」というルールができたのが、たかだか50年前です。皆さんが思っておられるほどそんなに昔からルールが決まっていたわけではありません。しかも、今言われているルールというのが、ほとんどフォーマルきもののルールだから、全てのきものに当てはめる必要はありません。現代のみなさんが日常的に着るカジュアルなきものはそれにとらわれなくていいのです。

例えば、今日僕が着ている結城紬。結城紬は高級な織物だけれど、カジュアルなものだから正式なところには着て行ってはいけないと言われています。でも、僕はそうは思わない。そんなのは後から生まれたルールだから。カジュアルと言われる結城紬に、一つ紋がついたフォーマルな羽織を合わせたのが今日の組み合わせ。フォーマルルールに沿って考えると、いけない着方をしているわけです。でも洋服に置き換えて考えたら、「デニムにブレザーを合わせて何がおかしいの?」という話になります。
そういうことが洋服では許されるのにきものでは許されないという誤解。フォーマルのルールがきもののルール全てだと思ってしまっているから起きていることですよね。

石川:洋服で言うと、ドレスのルールを日常にも持ち込んでいるような状況なのですね。

矢嶋:そうそう、まさに。例えば、こんな着方もありますよ。

きものの下にはワイシャツとボウタイ、帯の代わりに皮のベルト、足元はブーツというスタイリング / 写真提供 株式会社やまと

レースの羽織にきものの下にはピンタックのワイシャツとボウタイ、革の帯、足元はブーツというスタイリング / 写真提供 株式会社やまと

石川:わぁ、素敵ですね!実際こういう装いの方が街を歩いている姿を眺めているほうが、楽しいですね。

矢嶋:洋服のトレンドのように、いろんな着方があって良いのです。例えば、いま流行しているダメージデニム。あれだって知らない人が見たら、「膝小僧が出ててみすぼらしい」と思うかもしれない。だけどそれはファッションなんだからと、気にせずに履くでしょう?

石川:確かに以前、親戚がダメージデニムを履いて電車に乗っていたらおばあちゃまに「買えないのね、かわいそうに…」って言われていました。世代が違えば、捉え方も変わりますよね。

矢嶋:そうでしょう。(笑) きものもファッションならそれが普通です。

石川:洋服では自分たちでトレンドを作り上げていっている一方で、きものの場合は、若い世代がきものに合わせなければいけないと構えすぎているのかもしれないですね。

矢嶋:そうそう。戦後のきもののありかたにその原因があります。150年前は日本人全員がきものを着ていた。戦前戦時中はもんぺと国民服になってしまったから、そこで一度きもの文化が途絶えてしまった。そして、戦争に負けて欧米文化にシフトして行く中で、どうやってきものを生き残らせようかときもの業界の人が考えたことが2つありました。1つ目が、1959年の皇太子ご成婚時に新聞に掲載された美智子妃殿下の訪問着姿をきっかけに訪れた婚礼きものブーム。そして2つ目が、団塊の世代が成人式を迎えた1969年から1970年頃の振袖の大流行です。婚礼と振袖、2つのフォーマルなきものできもの業界は持ちこたえた。戦前のきもの文化成熟期には、素材も絹だけでなく多様で、カジュアルなものもたくさんあったけれど、こうしてフォーマルなものばかりに淘汰されてしまったのです。絹一辺倒になることで高額になり、ルールに縛られ、自由で多様性のあるきもの文化が消えていってしまった。

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