さんち 〜工芸と探訪〜

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新宿の染物屋が考える着物の未来。なにを本当に残すべきなのか 伝統工芸の再生を考える、新宿・富田染工芸

投稿日: 2019年7月23日
産地: 東京
編集:
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高層ビルが立ち並ぶ東京・新宿。

多くの外国人観光客も訪れる、繁華街としてのイメージが強い街ですが、実は古くから地場に根付く伝統産業があるのをご存知でしょうか。

それが「染め物」。

神田川流域には、今も染物屋と関連業者が点在し、文化を守り続けています。

染色業は新宿でどのように発展してきたのでしょうか。

流行は京都から江戸へ

神田川が流れる新宿区早稲田。

神田川
富田染工芸

都電荒川線面影橋近く、住宅地の中に工房があります。

1882年(明治15年)創業の富田染工芸です。

富田染工芸
富田染工芸

創業以来、江戸更紗、江戸小紋を専門に着物地を作ってきました。

「うちのルーツは、京都の染物屋です」

そう話すのは、富田染工芸の社長、富田篤(とみた あつし)さん。

富田染工芸

富田篤さん

「長男が京都の店を継いだので、次男の初代富田吉兵衛が東京へ出て、仕事をはじめました」

かつて、着物文化は京都が中心であり、京都で作られた着物が江戸に運ばれていました。

ところが、江戸が人口100万人を超える大都市となり、京都から運ぶのでは流行に間に合わなくなったことで、江戸でも着物が作られるようになりました。

はじめに京都から染物屋が集まったのは、現在の神田紺屋町の辺りや、隅田川に近い浅草周辺。

富田染工芸も最初に工房を開いたのは浅草馬道でした。

大正時代になると、職人たちは清流を求めて神田川をさかのぼり、新宿区早稲田、落合周辺に移転していきます。

富田染工芸が早稲田に移ってきたのは1914年(大正3年)のこと。この地で最初に工房を開いた染物屋です。

大正中頃には、神田川と支流の妙正寺川の流域に染色とその関連業者が多く集まるようになり、新宿の地場産業となっていきます。

糊を使って模様を描く江戸小紋

「はじめは、京都から持ってきた型友禅(刷毛を使って型紙の上から染める)の技法を使って、江戸更紗を染めていました」

江戸更紗のスカーフ

江戸更紗のスカーフ

更紗とは、インドから海のシルクロードを通じて伝わってきた文様のことで、ペルシャではペルシャ更紗、インドネシアにいくとジャワ更紗(バティック)とよばれています。

「『江戸更紗』は江戸時代末期ころからあるもので、型染めと更紗の技術を合わせたもの。多いもので、一枚の布に35枚くらいの型紙を使って色を重ねていきます」

江戸更紗に使う「丸ハケ」

江戸更紗に使う「丸ハケ」。型紙の上から染料を摺りこんでいく

エキゾチックな更紗模様は江戸っ子の人気となり、着物の表地はもちろん、八掛(裾回し)や羽織の裏に使うなど隠れたおしゃれとしても好まれたそうです。

そして現在、富田染工芸で主に作られているのは「江戸小紋」。

江戸小紋のスカーフ

江戸小紋のスカーフ

更紗は型紙を使って直接生地に色を乗せていきます。江戸小紋も型紙を使いますが、色の入れ方が違います。

はじめに「型付け」といって、型紙の上から糊を置いていきます。この糊がついた部分には色が入らず、白く抜かれて模様になります。

富田染工芸

型付けの様子(写真提供:富田染工芸)

富田染工芸

型付けに使う白糊。モチ粉と米ヌカ、塩が入っている

型紙は伊勢型紙を使っている。手漉き和紙を2、3枚、柿渋で貼り合わせ、彫って作る

糊が乾いたら、「地色染め」といって、布全体に地色糊を塗りつけます。

富田染工芸

地色染の機械。地色糊を塗りながら、おがくずを振りかけることで、生地同士が張り付かずに全体に均一に染料を定着させる

富田染工芸

色糊の調合も職人の仕事

次に生地を蒸箱に入れ、摂氏90〜100度で20分ほど蒸して色を定着させます。

蒸し上がったら生地を水洗いし、糊や余分な染料を落とすと、型付けで糊を置いた部分が模様として浮き上がってきます。

富田染工芸

洗う機械。昭和38年までは工房の前に流れる神田川で洗っていた。現在は地下水をくみ上げている

その後、水洗いした生地を乾燥させ、生地を整えて完成します。

着物の未来のために、その“技術”を残す

「多い時はこの辺りで、布の仕上げ加工の業者や、染めた反物に紋を入れたり刺繍をしたりする職人さんも集まって、100軒以上あったんじゃないかな」という富田さん。

富田染工芸だけでも約130人の職人さんが働き、毎日100反もの生地を染めていたそうです。

富田染工芸

今も、作業のほとんどが職人さんの手で行われている

「昔は、3年間隔ぐらいで新しい反物を発表していました。次は紅型風でいこうとか、絞りでいこうとか、流行を発信していくことが会社としても楽しかったですね」

富田染工芸

代々使われてきた張板が天井にたくさん吊られている。張板には、節のないモミの一枚板を使う。1枚35〜40キロある

ところが、昭和30年代をピークに、着物文化に陰りが見えはじめます。

「親父の頃はまだそういう気風も残っていたけど、今はいくら新しいものを考案してもどこも買ってくれない。着物が売れない時代になってしまいました」

かつて100軒以上あった新宿の染色関連業者も、現在は40軒ほど。このまま衰退してしまっていいのだろうか。

そこで考えたのが、着物以外のものに染めの技術を生かす道です。

富田染工芸

(写真提供:富田染工芸)

「子供の頃から、うちの着物で東京の着物文化を引っ張っていく、リーダーになっていくんだ」と教え込まれていたという富田さん。

大学を卒業後に7年間務めた洋服メーカーでの経験を生かし、早くから着物地以外の染色をはじめ、海外展開もしていきました。

それは全て、染色の技術を残していくため。

「全く違う技法で新しいものを作るのではなく、100年以上の歴史がある技術を生かして新しいものを作っていく。それはこの先、着物が復活した時に技術・技法を残していくためです」

富田染工芸

これまでに使ってきた型紙は12000枚以上。戦時中も防空壕に入れられ守られてきた。今も大切に使われている

富田染工芸

型紙の入っている引き出し。ここから職人さんが好きなものを選び、組み合わせていく。色も変えられるので、パターンは無限。世界に1つしかないものができる

「染屋が技術を残していくためには染めなきゃダメ。職人の技術、腕を残していくことを考えています」と富田さんは言います。

富田染工芸では、日本全国の織物屋さんで作られた特徴ある生地を使って染めています。

「材料によって染め方も変える必要があります。研究して、自分たちでノウハウを作っていきます。それをやらなくちゃダメなんです」

富田染工芸

革を染めることにも挑戦している

富田染工芸

今も昔も先駆者でありたい

2012年には、デザイナー南出優子氏とブランド「SARAKICHI」を設立。

蝶ネクタイやスカーフ、日傘など、江戸小紋・江戸更紗の技術を生かした商品を開発し、販売しています。

富田染工芸

2柄2色使いのポケットチーフ「小紋チーフ」(写真提供:YUKO MINAMIDE)

富田染工芸

江戸更紗のスカーフ(写真提供:YUKO MINAMIDE)

富田染工芸

裏と表で模様の違う両面染のスカーフ。江戸小紋の最高の技術であり、今もその技術を持っているのは富田染工芸だけ

富田染工芸

2019年3月には、パリ店を開業。「SARAKICHI」ブランドの販売だけでなく、フランスでも在住の日本人の方に着物を楽しんでもらえるよう、着物のクリーニング・ケアなどの相談にも応じています。

「2代目の富田市兵衛は、シルクスクリーンの原型である『写し絵型』で特許を取っていますが、うちは代々、流行を発信したり、新しいものを作っていく先駆者だったんです」

富田染工芸

「こんなこと言ったらおこがましいけど、伝統工芸の新しいルネサンスを起こさなくちゃいけないと思っています。これまでの技術を使って、お客様に喜んでもらえる、もっといろんな新しいものができるはずです」

染色の技術を残すために、新しいものを開発していく。

なかなかできることではありません。

「全国の伝統工芸に携わる人に、そういう奴がいるんだって伝えてほしい」そう熱く語る富田さん。

常に新しいものを作り、流行を生み出してきた新宿の染色産業の誇りを感じました。

<取材協力>
富田染工芸
東京都新宿区西早稲田3-6-4
03-3987-0701
工房は「東京染ものがたり博物館」としても公開中。見学や染体験(有料・要予約)もできる

文 : 坂田未希子
写真 : 白石雄太
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