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原画よりすごい!大塚国際美術館が誇る「世界の陶板名画」ができるまで 日本で見られる「モナ・リザ」「最後の晩餐」「ゲルニカ」‥‥徳島が生んだやきもの技術で造る美術館

投稿日: 2019年4月19日
産地: 徳島
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2018年のNHK紅白歌合戦。米津玄師さんがテレビ放送で初めて歌唱を披露し、話題を呼びました。

舞台となった荘厳な空間に注目が集まっています。ライブ会場となったのは、徳島県にある「大塚国際美術館」のホール。世界遺産であるバチカン市国のシスティーナ礼拝堂の天井画と壁画を陶器の板 (陶板) で原寸大に完全再現した空間です。

人気歌舞伎俳優の片岡愛之助さんが「システィーナ歌舞伎」と題した和洋コラボレーションの新作歌舞伎公演を行うことでも知られており、美術館の名前を耳にしたことがある方も多いかもしれません。

この大塚国際美術館、世界から注目される「ちょっと変わった」美術館なのです。

大塚国際美術館 正面玄関

大塚国際美術館は、瀬戸内海を臨む国立公園の中にあります。景観を損わぬよう、山をくり抜いた中に建てられました。地下3階から地上2階まで合計5つのフロアからなる、鑑賞距離4キロメートルにも及ぶ広大な美術館です。約1000点もの作品が展示されています (画像提供:大塚国際美術館)

「現地お墨付き」の陶板名画が並ぶ美術館

ここは、世界で初めての「陶板名画美術館」。

「モナ・リザ」、「最後の晩餐」、「ゲルニカ」‥‥展示されているのは、古代壁画から現代絵画まで世界26カ国190以上の美術館が所蔵する西洋名画を原寸大に「再現」した陶板名画です。

スクロヴェーニ礼拝堂現地調査

北イタリアにある「スクロヴェーニ礼拝堂」現地調査の様子。 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)

スクロヴェーニ礼拝堂

現地に何度も足を運び、実際に鑑賞し許認可を得て撮影した写真を元に製作

質感や筆遣いまで再現

独自のやきもの技術で製作された陶板名画は、サイズや色彩はもちろんのこと、表面の質感や筆遣いまで原画に忠実です。

現地で撮影した原画写真を元に、凹凸も原画の通りになるよう職人の手で陶板へ反映させます。その再現性の高さは原画の所有者からお墨付きをもらうほど。

美術書や教科書以上に原画に近い状態を味わえる、日本にいながらにして世界中の美術館を訪れたような体験ができる場所なのです。

数々の名画のレプリカが並ぶ圧巻の回廊

世界中の数々の名画が描かれた陶板がずらり。圧巻です

来館者は観光客にとどまらず、アーティスト、美術研究者、教育機関の関係者など多岐に渡ります。中には、海外から足を運ぶ人も。

館内に展示された作品を詳しく見てみましょう。

消失したゴッホのヒマワリ

ゴッホ「ヒマワリ」。筆跡もそのまま再現。立体的な油絵の様子が見て取れます

レオナルド・ダ・ヴィンチ「モナリザ」

ルーヴル美術館では防弾ガラスに入れられているレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」。柵やロープもないので、間近で鑑賞できます

レオナルド・ダヴィンチ「モナリザ」

この距離で眺めると、スフマート (ぼかし) 技法で描かれていて輪郭線がないことや、ひたいのベール部分までしっかりと目にできます。現地では体感できない細かいディティールまで詳細に鑑賞できるのも大きな魅力です。研究者が足を運ぶというのも頷けます

朽ちない、触れられる陶板名画

陶板は、半永久的な耐久性を持ち、約2000年以上色褪せず劣化する心配がありません。

フェルメール「真珠の耳飾りの少女」のレプリカ

フェルメール「真珠の耳飾りの少女」。館内の作品にはそうっと触れることも可能。筆跡や絵の具のひび割れの様子を肌で感じながら作品を味わえます

太陽光や雨風にも耐久性があることから、屋外での展示も実現しました。

モネの「大睡蓮」

屋外に展示されたモネの「大睡蓮」。青空の下の睡蓮は、光の描写がよりいっそう美しく感じられました (画像提供:大塚国際美術館)

この「大睡蓮」、モネは「自然光のもとで鑑賞してほしい」と願っていたのだそう。原画の置かれている展示室でも自然光を取り入れる部屋作りはされていますが、屋外で作品を楽しめるは陶板名画ならでは。モネの思い描いた作品の姿がここにあるのかもしれません。

雨の日のモネの「第睡蓮」

もちろん水にも強い陶板。雨の日は、絵画を流れる雫が水面の様子を引き立てていました

さらには、失われた作品の復元に挑戦した展示も。

消失したゴッホのヒマワリ

ゴッホ「ヒマワリ」

この作品は、ゴッホの残した花瓶の「ヒマワリ」全7点のうちの1点。1945年8月の空襲により兵庫県芦屋市で焼失したものです。

大正時代の貴重なカラー印刷の画集を元に、絵画学術委員の監修を受けながら復元したのだそう。耐久性の高い陶板で再現することで未来に残す試みのひとつとして製作されました。

館内に展示された 「最後の晩餐」は、なんと2枚。

レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」

向かって左側に修復前、右側に修復後の姿が向かい合わせで並んでいます

レオナルドダヴィンチ「最後の晩餐」の修復前の様子

修復前の「最後の晩餐」の姿が見られるのは世界でここだけ

様々な素材を表現

ここまで、壁画やカンヴァスに描かれた油絵の再現を紹介してきましたが、世界には様々な素材に描かれた名画が存在します。陶板を立体的に焼き上げたり、表面を削ったり、釉薬を盛り上げて焼くことで、素材の様子を表現した作品もありました。

サン・ヴィターレ聖堂 ラヴェンナ「皇妃テオドラと侍女たち」

モザイクで描かれた壁画、サン・ヴィターレ聖堂所蔵「皇妃テオドラと侍女たち」。金が輝くよう角度をつけて組み合わされたモザイクの欠片。オリジナルに合わせて絵柄のみならず凹凸も忠実に再現しています。臨場感ある大きな作品に、ため息が漏れました‥‥

「キリストと十二使徒の祭壇前飾り」 カタルーニャ美術館 スペイン

スペインのカタルーニャ美術館所蔵「キリストと十二使徒の祭壇前飾り」。板に描かれた作品です

「キリストと十二使徒の祭壇前飾り」 カタルーニャ美術館 スペイン

木目や剥離など、その全てを陶板の凹凸と釉薬による彩色で再現しています。まるで「だまし絵」のよう!

フランスのクリュニー美術館 (国立中世美術館) が所蔵する「我が唯一の望みの」のレプリカ

フランスのクリュニー美術館が所蔵するタピスリー (つづれ織り) 「我が唯一の望みの」

フランスのクリュニー美術館 (国立中世美術館) が所蔵する「我が唯一の望みの」

陶板の凹凸と釉薬でつづれ織の質感まで表しています。うさぎのモフモフ感が伝わってきますね

現地を訪れたかのような臨場感

また絵画の再現にとどまらず、システィーナ礼拝堂をはじめとする礼拝堂や古代遺跡などの壁画をそのまま再現した空間で展示を行なっているのも見どころです。

イタリアにあるジョット作「スクロヴェーニ礼拝堂」の壁画を陶板で再現

北イタリア「スクロヴェーニ礼拝堂」。現地の礼拝堂にいるような臨場感に圧倒されます

ポンペイ「秘儀の間」

イタリアのポンペイ遺跡「秘儀の間」。床の模様も忠実に再現されています。現地では室内には入れませんが、ここでは展示室の中に足を踏み入れて間近で鑑賞することも

長い時間をかけて作られる陶板

オリジナルを鑑賞したかのような気持ちになる見事な陶板名画の数々。一つの陶板名画ができるまでには、長い時間と職人の高い技術が必要です。

陶板を作っているのは、大塚オーミ陶業株式会社。

当初は、地元鳴門の白砂を活用したタイル作りから始まった取り組みでした。開発を進める中で、世界初の薄くて歪みのない堅牢な大型陶板づくりに成功します。

活用方法の1つとして、この大型陶板で美術品を作っては?というアイデアもあり、現在展示されている名画陶板の数々が生み出されることとなりました。

技術が発展した現在は、滋賀県甲賀市信楽町の工場で色の分解から焼成まで全てを行っています。

この陶板はどのようにして作られているのでしょう。製作の工程を詳しく伺いました。

著作権者の承諾に奔走、現地へ赴いて原画を調査

陶板名画の制作は原画の著作権者、所有者の許諾を得ることから始まります。試作品の出来栄えを確認するまで、製作許可が下りないという厳しい条件の場合も。オリジナルを守るための厳しい品質チェックは必須です。許諾を得るだけで数年を要することもあるのだそう。

許諾が得られたら、原画の確認や現地調査。書籍・文献には記されていない情報も多いため、現地で様々な角度から何枚も撮影し、全体像のほか、細部の傷や凹凸などを調べ上げ、仕上げの参考資料に。光のあたり具合など作品の状態を体感したり、現地の専門家に話を聞いたりして作品を調べつくします。

原画撮影:《ナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌの戴冠》

ルーヴル美術館所蔵「ナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌの戴冠」の現地調査の様子。巨大な絵画を撮影して細部を記録するのは大掛かりな作業です。 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)

《ナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌの戴冠》。ルーヴル美術館所蔵のレプリカ

できあがった陶板の《ナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌの戴冠》。展示室の壁紙の色も合わせ、現地の雰囲気に近い状態で鑑賞できます

色の分解で、2万色の釉薬から原画を再現

陶板の上に転写シートを使ってベースとなる絵を乗せ、1000〜1350度の高温で約8時間かけて焼成します。専用の釉薬の種類は約2万色にも及びます。原画の色を解析することで、ベストな色を見つけ出すのだそう。

色分解

まず原画を解析して赤・青・黄・黒の4色に分解。 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)

解析した指定色をもとに、転写シートを作成します。シルクスクリーンに順番に釉薬を乗せていきます。 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)

解析した指定色をもとに、転写シートを作成します。シルクスクリーンに順番に釉薬を乗せていきます。こうしてできた転写シートを陶板にのせて焼き上げることで、陶板上に原画の図柄が描かれます (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)

仕上げは、職人の「目」がものを言う

転写シートを乗せて焼きあがった陶板は、あくまでベースの状態。ここからは職人の「目」が試されるところ。釉薬を塗り重ねて微妙な色合いの調整が始まります。

原画の資料や現地での記憶を頼りに、色や仕上がりの立体感を手で加えていきます。

原画の資料や現地での記録を頼りに、色や仕上がりの立体感を手で加えていきます。 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)

原画の資料や現地での記録を頼りに、色や仕上がりの立体感を手で加えていきます。 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)

レタッチ2

油絵の具の盛り上がりも精緻に再現していきます。 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)

油絵の具などと違い、釉薬は焼きあがると色味が変化するもの。仕上がりを計算しながら着色、焼成を繰り返して完成させます。濃くなりすぎないよう薄い色を重ねることから始め、平均して5〜6回この工程を繰り返してやっと満足のいく仕上がりになるのだとか。微妙な色合いを調整していることが伺えます。

最終焼成

最終焼成の様子 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)

陶板が焼き上がったら、社内での最終検証を行った上で、監修者や原画の所有者による検品。こうして、やっと承諾を得られたものが大塚国際美術館に飾られます。

フィラデルフィア美術館所蔵のゴッホの「ヒマワリ」検証の様子。 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)

フィラデルフィア美術館所蔵のゴッホの「ヒマワリ」検証の様子。 (画像提供:大塚オーミ陶業株式会社)

セラミックアーカイブの可能性

大塚オーミ陶業のやきもの技術は、大塚国際美術館での作品展示にとどまらず様々な場所で活用され、注目を集めています。

2018年には、「第7回ものづくり日本大賞 伝統技術の応用部門」で、文化庁依頼による奈良県明日香村「キトラ古墳の石室内壁画」の複製に携わった社員の代表7名が内閣総理大臣賞を受賞。「立体的製陶技術」を用いた文化財の複製が評価されました。

奈良県明日香村 キトラ古墳の復元

大塚国際美術館に展示された「キトラ古墳」の複製見本。

キトラ古墳の復元

石室内壁画を陶板で原寸大に複製。壁の質感や漆喰のひび割れも忠実に再現されています

「何度も重ね焼きしても割れない」「高い寸法精度を保ち、歪みが生じない高精度な成形技術を備える」「色彩や質感等についても焼成工程で発色する釉薬で狙い通りに仕上がる」という特長を持つ同社の技術。

熱や湿度、紫外線などに強い焼き物の特性を生かし、半永久的な耐久性を有する新たな記録保存方法 (セラミックアーカイブ) として、文化財の記録と保存に取組み、手で触れることができるなど文化財の多様な活用を提供していることが評価されたのだそう。

縄文土器のレプリカ。手で触れてその感触を体験できる

こちらは大塚国際美術館に展示されている縄文時代の「火焰土器」 (新潟県長岡市出土) の複製。形状や表面状態だけでなく、重量までも再現しているのだそう。手で触れてその感触を体験できるのが嬉しく、印象的でした

美術への関心の入口として

大塚国際美術館に展示された陶板名画の数々。そばで見て、触れているとその作品の魅力をたくさん発見します。これまで興味の沸いていなかった作品に魅了されたり、好きだった作品がもっと好きになったり。そして、原画を見に出かけたくなります。

旅行前の予習として、旅行の思い出の振り返りとして訪れる方も多いといいます。

私たちが訪れた日も、早朝から多くの観光バスが入り口に停まり、一般客のほか、遠足で訪れた幼稚園児や課外学習中の学生、海外からの視察団体など様々な来館者で賑わっていました。一般的な美術館を訪れた時とは異なる客層の方々も多く、開かれた場所のように感じます。

陶板を通じて、美術作品への興味関心が高まる。やきもの技術が拓く、新たな可能性がここにありました。

<取材協力>
大塚国際美術館
徳島県鳴門市鳴門町土佐泊浦字福池65-1
088-687-3737
http://o-museum.or.jp/

大塚オーミ陶業
大阪市中央区大手通3-2-21
06-6943-6695
https://www.ohmi.co.jp/

文:小俣荘子
写真:直江泰治
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