さんち 〜工芸と探訪〜

SUNCHI ~ Explore japan through regional crafts ~

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来場者は年間10万人以上!たった3人のスタッフから始めた人気ファクトリーツアー成功の舞台裏

投稿日: 2019年3月15日
産地: 高岡
編集:
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社屋移転からわずか2年、たった3人のスタッフからはじまったツアーが、今や全国から年間10万人を動員する大人気観光スポットに。

今回は子どもから大人まで魅了する、すごい工場見学があるという噂を聞きつけ、富山県高岡市へ向かいます。

北陸新幹線・新高岡駅から車で約15分。さまざまな企業が集まる「オフィスパーク」の一角にある、「株式会社能作(のうさく)」に到着しました。

えんじ色の建物が目印

えんじ色の建物が目印

高岡市は江戸時代から続く鋳物の産地。能作は大正5(1916)年に仏具を製造する鋳物メーカーとして創業し、その後、茶道具や花器、酒器などさまざまな商品を展開しています。

真鍮 (しんちゅう) の花器

真鍮 (しんちゅう) の花器

酒器をはじめとしたテーブルウェアなど、幅広く展開しています

酒器をはじめとしたテーブルウェアなど、幅広く展開しています

なかでも、金・銀についで高価な錫(すず)を使った曲がる器「KAGO」シリーズは、大きな反響を呼び、今や高岡を代表とする鋳物メーカーとして全国から注目を集めています。

曲がる器「KAGO」シリーズ

曲がる器「KAGO」シリーズ

2017年に本社工場を移転し、規模を拡大した能作。約4000坪の敷地内には、オフィスや工場はもちろん、ショップやカフェ、体験工房まで備えています。

開催しているファクトリーツアーはなんと毎日5回行われ、無料で参加可能。動員数は年間10万人以上にのぼります。

真鍮でできた「能作」の文字が目立つエントランス

真鍮でできた「能作」の文字が目立ちます

期待膨らむエントランス

エントランスに入ると、まず飛び込んでくるのが、能作の製品づくりに欠かせない「木型」。こちらはディスプレイではなく、実際に木型の倉庫として、職人たちが普段から利用しています。

能作の製品づくりに欠かせない「木型」

壁一面にずらりと並ぶ木型は約2500種類!カラフルなのは演出ではなく、木型のメーカーごとに色分けされているから、職人は色ですぐに必要な木型を見分けることができます。

能作の製品づくりに欠かせない「木型」
真鍮でつくった大きな日本地図のプレートも存在感があります

真鍮でつくった大きな日本地図のプレートも存在感があります

ここだけで、すでに期待が高まってきました。

大興奮!鋳造の現場に潜入

能作ファクトリーツアーの様子

ファクトリーツアーは約60分。アテンドをするスタッフの説明を聞きながら、まず向かったのは加工の現場へ。

すぐそばでは職人さんが実際に作業をしていて、機械で磨く音やろくろで削る音、溶接で飛び散る火花など、ものづくりの臨場感を感じられます。

能作の職人たち

職人の平均年齢は32歳。まったくの異業種から職人になった人も多いそう

能作の職人

べテランの職人が担当するろくろ。長年の経験で、寸分の狂いもないかたちに仕上げていきます

能作の職人(女性)

約60名の職人のうち、女性は5名。小さい頃に訪れた能作の工場見学がきっかけで
入社を決めたという人も

作業の内容はもちろん、高岡の歴史や文化なども踏まえて案内してくださる能作のスタッフ。

小さな子どもや「鋳造」という言葉にはじめて出会った人でもとてもわかりやすい内容で、ものづくりの世界に誘ってくれます。

アテンドは外部に任せず、すべて社員で行い、どの部署の社員でも案内ができるようになっているそうです。

小さな子どもには紙芝居形式で紹介したり、電車ごっこをしながら工場内をめぐったりすることもあるそうで、こちらも社員からの自発的なアイデアだったとか。

60分間のツアーのなかでも、スタッフ同士の連携の強さやホスピタリティの高さを感じるシーンが何度もありました。

能作ファクトリーツアーの様子

多い時には1人で100名近い見学客を案内することもあるそう

大迫力の鋳込みは必見!

ツアーの中でも、大迫力の鋳造シーンを見学できると人気なのが、金属を流し込む鋳物場。

真鍮、錫と金属によって工程が分けられ、見学者は2階からも作業の様子を見学できます。

独特な雰囲気の鋳物場。上から覗くと人の動きや作業の流れがよくわかります

独特な雰囲気の鋳物場。上から覗くと人の動きや作業の流れがよくわかります

能作の鋳物は真鍮・錫・青銅を使った3種類。

先ほどエントランスにあった木型に鋳型用の枠を乗せ、その周りを砂で固め、再び木型を外すことで鋳型をつくる「生型鋳造」という製法を見ることができます。

いよいよ今度は1階に降りて、間近で見学です!

砂と型がくっつかないよう貝殻の粉末をまきます

砂と型がくっつかないよう貝殻の粉末をまきます

体重をかけて砂を押しかためていくと‥‥

体重をかけて砂を押しかためていくと‥‥

きれいな型の完成!

きれいな型の完成!

鋳型が完成したら、早速金属を流し込む「鋳込み」の工程です。

鋳物場の中央にある炉に注目!

作業工程がわかりやすいよう真鍮製のサインが掲げられています

作業工程がわかりやすいよう真鍮製のサインが掲げられています

真鍮の材料である銅と亜鉛が溶かされた炉では、職人がぐつぐつと液状になった金属をゆっくりとかき混ぜています。炉の温度は1000度以上。しかも、液体状の金属はとても重いため、かなりの重労働なのだそう。

2メートル近い棒で炉のなかをかき混ぜています

2メートル近い棒で炉のなかをかき混ぜています

炉で溶かした金属をバケツ型の容器に移し、型に流し込んでいきます。職人たちが数人がかりで行う大事な作業なので、緊張感が漂います。

もうもうと煙があがり、迫力満点!

もうもうと煙があがり、迫力満点!

鋳込みはベテランの職人たちが担当

鋳込みはベテランの職人たちが担当

金属を慎重に流し込んでいきます。ほんのり緑色の光を放つ真鍮。あっという間に温度が下がっていくため、スピーディーな作業が求められます。

鋳型から溢れ出る直前まで流し込むのがポイント

鋳型から溢れ出る直前まで流し込むのがポイント

1000度以上の温度で溶ける真鍮に比べ、錫の溶解温度は200度程度と少し低め。コンロで溶かした錫をこちらもゆっくりと型に流し込みます。

錫を型に流し込む様子

真鍮とつくり方はまったく同じですが、異なるのは冷めるまでの速さ。錫は流し込んだそばから固まっていくので、数分後には型から取り出すことが可能です。

一つひとつリズミカルに型から外していく職人。崩れた砂のなかから、銀色に輝く錫の製品があらわれました。

5分も経たないうちに次々に型から取り出していきます

5分も経たないうちに次々に型から取り出していきます

型から取り出した錫

ここから加工場に運ばれ、バリを取って縁をなめらかに磨いて整えていくと製品の完成。

温度とスピード、そして仕上げの細かさ、1つひとつの工程はシンプルですが、常に緊張感のある作業に思わず見入ってしまいました。

あるお母さんの一言からはじまった本気の工場見学

鋳造の現場をしっかり堪能して工場見学は終了。熱気とホスピタリティに満ちたあっという間の60分間でした。

それにしても、どうしてここまで工場見学に力を入れるようになったのでしょうか。

能作の「産業観光」を担う、専務取締役の能作千春さんに話を伺いました。

能作千春さん

能作千春さん

「この建物は2017年に移転してできたものですが、工場見学は旧工場の頃から受け入れていました。工場見学にここまで力を入れるきっかけになったのは、お子さんと製造現場の見学に来てくださっていた、あるお母さんの言葉でした。

『ちゃんと勉強しないと、将来こんな仕事をする人になってしまうのよ』

お子さんに言った何気ない一言を聞いて、社長は、産業の素晴らしさを伝え、職人の地位を高めていかなければと決意したそうです。

それが生きたものづくりの現場を見に来てもらう『産業観光』という発信の仕方に結びついていきました」

ものづくりの現場を見てもらって、ひとつのものが生まれるまでの「こと」や「こころ」に触れてもらいたい。

社屋の移転に向けて「産業観光」に力を入れるため、千春さんに産業観光部立ち上げの白羽の矢が立ちました。

準備期間わずか半年。産業観光を支える5つの柱は見学ツアー、体験、カフェ、ショップ、観光案内

産業観光部が立ち上がったのは、実は移転のわずか半年前のこと。当初のメンバーは第二子を産んだばかりの千春さんと、経理担当、物流担当だった社員の計3名。

3人とも観光のことは全くの門外漢でしたが、アイディアをブラッシュアップさせながら、少しずつ方向性を定めていきました。

ただの観光ではなく、背景にあるものづくりをさまざまな世代のお客様に伝えるにはどうすればいいか。

千春さんたちは、「産業観光」を実現するために、ファクトリーツアーを含めた5つの柱を考え出しました。

まず、最優先で計画したのが、「体験工房」。実際に錫製品の製作を体験してもらうことで、ファクトリーツアーで見たものへの理解がより深まるはず、と考えたそうです。

能作の体験教室

こちらは有料ですが、ファクトリーツアーと体験をセットで利用するお客さんはとても多く、満足度も高いと大評判。体験といえど、職人と同じ作り方でつくるため、難しさや大変さもより理解できます。

ペーパーウェイトや箸置き、ぐい呑みもつくれます

ペーパーウェイトや箸置き、ぐい呑みもつくれます

さらに、製品の良さを知ってもらおうと、能作でつくられている錫の食器を使ったカフェも新設。

「IMONO(鋳物)KITCHEN」

その名も「IMONO(鋳物)KITCHEN」

熱伝導率の高い錫のカップで冷たい水を飲むと、カップもキンキンに冷えるだけでなく、錫が持つイオンの効果で味がまろやかになるのだとか。

並べられた錫のコップ

おいしさはもちろん、思わず写真におさめたくなるような、見た目にも楽しいメニューが揃います。

▲ベーグルやタルトはもちろん、社長考案のベーコンが自慢の「職人カレー」も密かな人気

ベーグルやタルトはもちろん、社長考案のベーコンが自慢の「職人カレー」も密かな人気

そしてファクトリーショップ。見学ツアーでものづくりの現場を知り、体験工房で実際につくり、カフェで使い心地を試す。能作の製品の価値を理解したからこそ、手に入れたくなるのもわかります。

能作ファクトリーショップ

「観光案内」にも力を入れました。

高岡まで来ていただいたなら、その後の過ごし方も提案したい……と、能作の社員がおすすめする富山の観光情報をオリジナルのカードにして並べたコーナーを新設。

能作がおすすめする富山の観光情報「TOYAMA DOORS」

能作がおすすめする富山の観光情報「TOYAMA DOORS」

▲カードなので一目瞭然。千春さんをはじめ、産業観光部のみなさんが実際に取材して制作してます

カードなので一目瞭然。千春さんをはじめ、産業観光部のみなさんが実際に取材して制作しています

マルシェ、ツアー企画、錫婚……新しい企画は常に「サザエさん」一家をイメージ

5つの分野を柱に、「産業観光」という方向に大きく舵を切った能作。移転から2年経ち、どんな変化があったのでしょうか。

「単なる売り上げよりも、目に見えない効果がすごく大きいと思いました。毎日さまざまなお客様に来ていただけることで、今までにはない出会いがありますし、職人たちの意識も変化し、日々の仕事を超えてスタッフ同士の結束もより強くなりました。

ただ、年々求められるレベルが高くなっているのも事実。たとえ無料の工場見学であっても、サービスは徹底しなければ、と今もどんどんテコ入れしています」

産業観光を担う能作千春さん

2018年は来場者が10万人を超え、2019年は12万人を目指す能作。マルシェやコンサートを開いたり、ぐい呑みを作って富山の酒蔵を回るツアーを企画したりなど、千春さんの頭のなかでは常に新しい企画がどんどん生まれています。

「新しい企画を考えるときは、常に『サザエさん』をターゲットにしているんです。子どもがいて、おじいちゃんやおばあちゃんもいる。そんなサザエさん世代の人たちに楽しんでもらえたら、子どもから大人まで幅広く愛されるような場所になるはず」と、ご自身も子育て世代である千春さんは言います。

次なる一手はありますか?と伺うと「あります!」と千春さんが即答したのが、ブライダル。

現在、能作で新しく進めている企画の1つが『錫婚』です。

「実は以前から工場見学に来られたご夫婦のなかに『結婚10年目の錫婚の記念に来た』という方が多かったんです。それならここで錫婚式や結婚式ができるのではと思って」

鋳物場で挙式、ほかにはない思い出深い1日になりそうです

鋳物場で挙式、ほかにはない思い出深い1日になりそうです

工場見学といえば、小学生の時に課外授業で行ったきり、という方もいるかもしれません。

それが今や、子どもが将来の夢を見つけたり、大人の節目を祝う場にも。

ひとつのメーカーの挑戦が生んだ新しい工場見学のかたち。その熱気はぜひ、現場で体感してみてくださいね。

文:石原藍
写真:浅見杳太郎

<取材協力>
株式会社能作
富山県高岡市オフィスパーク8-1
www.nousaku.co.jp

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