さんち 〜工芸と探訪〜

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トップダウンから最強のチームワークへ。中川政七商店302年目の挑戦

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まさか自分の人生で、社長になる日が来るなんて。

これは、ある奈良の小さな会社で創業302年目に起きた、13代から14代への社長交代のお話、その後編です。

前編はこちら:「300年企業の社長交代。中川政七商店が考える『いい会社ってなんだろう?』」

2018年2月。

一会社員だったひとりの女性が、300年続く企業の社長に就任するという発表が行われました。

舞台は、株式会社中川政七商店。

1716年に当時の高級麻織物、奈良晒の商いで創業。全国に52店舗を展開する生活雑貨メーカーです。

企業名を冠したブランド「中川政七商店」は2010年デビュー

企業名を冠したブランド「中川政七商店」は2010年デビュー

社員全員を集めてこの発表をしたのは、創業から数えて13代目となる中川政七 (なかがわ・まさしち) 。

13代 中川政七。工芸界初のSPA業態を確立し、そのノウハウを生かして業界特化型の経営コンサルティングを全国16社手がける。2015年に会社としてポーター賞、2016年に日本イノベーター大賞優秀賞を受賞

13代 中川政七。工芸界初のSPA業態を確立し、そのノウハウを生かして業界特化型の経営コンサルティングを全国16社手がける。2015年に会社としてポーター賞、2016年に日本イノベーター大賞優秀賞を受賞

「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げての様々な取り組みから、「工芸の再生請負人」と呼ぶ人もいます。

社長就任からちょうど10周年の今年、13代は「これからの10年のために」と、自らは社長を退き、社員の中から新社長を据えることを決断しました。

「社長を交代します。14代は、この人です」

ごくり。

みんなの唾をのむ音が聞こえた、と回想するのは、他でもない14代その人です。

300年にわたり代を継いできた中川家と、血縁関係はありません。

7年前、中川政七商店のものづくりに惹かれて転職してきました。

「14代社長は、千石あやさんです」

おおおっとどよめく会場前方、マイクを受け取った一人の女性にその場にいた全員の視線が注がれます。

正面に1枚のスライドが現れました。

「びっくりしたよね。」

その一文にどこかホッとしたような笑い声が起きて、会場は前に立つ女性の、次の言葉を待ちます。

中川政七商店奈良本社の食堂

会場となった奈良本社の食堂

「私も半年くらい前にこの話を言われた時は、その100倍、1000倍はびっくりしたと思います。

私は普通の人間なので、まさか自分の人生で、社長になるようなことがあるとは思ってもみませんでしたし、まさか中川政七のあとを継ぐことになるなんて、思いもしませんでした。

それでも、どうしてここに立っているかというと、13代の判断を信じたこと、上長たちが全員、一緒に頑張りましょうと言ってくれたこと。

そのために自分ができることをやろうという覚悟が、やっとこの数ヶ月で決まったからです。

現時点でみなさんとの違いは、少し先に覚悟をしたこと。唯一ここだけだと思います」

300年受け継がれてきたのれんの重み。創業時から続く「家業」からの脱却。

「工芸再生請負人」と呼ばれてきた経営者、中川政七からの後継。

一会社員から従業員数400人弱を束ねる企業トップに。

たった一人で受け取るにはあまりにも重く思えるバトンパスを、14代はどんな「覚悟」で受け止め、社長交代の壇上に立ったのか。

後日当人を訪ねると、社長交代挨拶のキリッとした印象とは、また違う姿がそこにありました。

大爆笑で返した新社長辞令

「何が自分のいいところなのかは、正直わからないんです。この間の13代の記事にあった任命理由も、自分ではコントロールできないところを評価されたんだなって(笑)

自分では強みがわからないから、人から任されたことはきっと合っているのだろうって、これまでは引き受けてきました。

でも、社長就任は、さすがにそれだけでは引き受けかねましたね (笑) 」

14代 千石あや

14代 千石あや

2011年、中川政七商店のものづくりに惹かれて転職。小売課、生産管理部門、経営コンサル案件のアシスタントを経て、13代初の秘書に就任。

身近で仕事をする機会が増えていく中で、13代は千石さんの「コミュニケーション力とバランス感覚」を買っていました。

ここ数年ではテキスタイルブランド「遊 中川」のブランドマネージャーを経験。

遊 中川 本店の様子

遊 中川 本店の様子

そして2017年7月。

東京事務所の会議室で「次の社長をやってほしい」と13代から告げられた時、千石さんは会社のものづくりの全体指針を決める「ブランドマネジメント室」の室長を務めていました。

「最初は大爆笑でした。ないないない、なんの冗談ですかって」

実は13代は少し前から、千石さんをはじめ上長陣にだけ、近いうちの社長交代を予告していたそうです。

「社長の考えることだから、交代自体はもしかしたら必要なのかもしれない。けれどそれは私じゃないし、今変えなくてもいいのではないか」

ブランドマネジメント室を中心にものづくりから販売まで戦略を作り、13代には定例で相談・報告を入れる体制が、整いつつある頃でした。

最初の通達から数週間後、考え直して欲しい、今の体制でいいのではと、こんこんと説得にかかる千石さんに対し、13代はこう返します。

「いい企業文化を育むには、トップダウンじゃなく、一人一人が戦闘能力を上げる必要がある。

それには俺が自分から離れんとダメやねん」

「このまま私が断り続けたらどうするんですか」

「こればっかりは、納得するまで話し合うしかない」

本気なんだ。この時千石さんはようやく、13代が真剣であるとわかったそうです。

「ちょっと、考えさせてください」

そう返してから、正式に13代に返事をしたのは2017年12月のこと。実に4か月が経っていました。

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