さんち 〜工芸と探訪〜

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気ままな旅に、本(BACH 幅允孝)

グッバイ、志賀直哉

投稿日: 2016年11月2日
編集:
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こんにちは、BACHの幅允孝です。
さんち編集長の中川淳さんと旅をし、そこでの発見や紐づく本を紹介する「気ままな旅、本」のコーナー。
第1回目は中川さんのお膝元、奈良県編をお送りします。ほとんど食レポになっておりますが、ご愛嬌。
奈良の「うまいもん」を探す旅をおたのしみください。

奈良にうまいものはない。小説家の志賀直哉が随筆『奈良』の中でぽつりつぶやいた一言が、現代まで奈良県民を苦しめることになろうとは、彼自身も想像していなかったに違いない。
そもそも『奈良』とは、1938年に奈良県が発行した冊子「観光の大和」創刊号に志賀が書いた僅か4ページほどの短い文章。一読すると、たしかに「食ひものはうまひ物のない所だ」という記述がある。ふうむ、原稿を受け取った県の職員もなぜ訂正をお願いしなかったのか。しかし、よく読んでみると奈良のわらび粉や豆腐、がんもどきを褒めている。牛肉もいいと書いている。そう、このエッセイは奈良を離れる直前の志賀直哉が奈良愛を綴ったものなのだ。つまり、志賀が書いたとされる「奈良にうまいものなし」は、前後の文脈から外れ、残念な一人歩きをしてしまっているわけだ。
 
というわけで、今回の旅のテーマは志賀直哉の言説におさらばしたくなるような奈良県のおいしいものを紹介することに急遽決定。まず訪れたお店は「清澄の里 粟」である。
市内から15分ほど車で走り高樋町に。大和盆地を見渡せる小高い丘の上にあるレストランへ到着した。少し息を切らして坂を登るとお出迎えしてくれたのは、ヤギのペーター。彼は放牧中というか、店の周辺をうろうろし、草などをもぐもぐしておる。僕はかなりびっくりしたのだが、やはり奈良の人は鹿で慣れているからか、動物がその辺りをのそのそ歩いていても驚かない。ちなみにペーターは人が食事を始めると、物いいたげな顔で店内を覗き込んでくる茶目っ気たっぷりの牡ヤギ。そして、彼らの暮らすこの場所が、大和伝統野菜とエアルーム野菜が食べられるレストラン「清澄の里 粟」だ。

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ペーターは人の言葉がわかっている賢くチャーミングなヤギでした。

少しだけ説明すると、大和伝統野菜とは戦前から奈良県内で栽培をしている野菜で「味・香り・形態・来歴」に特徴があるもの。一方、エアルーム野菜とは、世界中の様々な地域・民族間で受け継がれてきた伝統野菜で「家宝種」などと訳される。ここ「清澄の里 粟」は、そんな貴重な野菜を地元農家と連携しながら栽培し、調理、提供するお店。そして、オーナーの三浦さんが大事にする「不易流行」の言葉通り、変えてはいけないものを大切にしながら、未来の伝統野菜を考える場でもある。
靴を脱ぎ、机がいくつも並ぶ店内にあがると、卓上には見たこともない野菜がごろごろ。その中でも最もインパクトのあった隕石のような野菜について聞いてみると、何でも「宇宙芋」と呼ぶのだとか。実のところ、これは巨大なむかごで、15センチほどにもなって蔓にできるのだという。他にも、ズッキーニの一種である「ジャンヌ・エ・ベルテ」や、「はやとうり」、瓢箪のような「バターナッツ」という甘みのあるカボチャや「スター・オブ・デイビッド」というオクラなど、普段なかなかお目にかかれない古来から伝わる野菜を、少しずつ60種類も食べられるのである。

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不思議な野菜に囲まれる筆者。真ん中にある隕石が宇宙芋。



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ポケモンGOのスターミーにしか見えないジャンヌ・エ・ベルテ

前菜から始まり、小さな鍋、季節食材の煮物、てんぷらなどなど、ゆっくりじっくりと味わう野菜料理は、まさに土地の滋養。味付けも尻あがりというか、噛めば噛む程じわじわと旨味がにじみ出る。また、個々の野菜がそれぞれ持つ細やかな違いにも敏感になれるのもこのお店の特徴。例えば、「ジャガイモ」と僕らは大まかに呼ぶけれど、ここで食した「ノーザンルビー」と「野川芋」は同じジャガイモながら全く異なる味わい。小さな単位で野菜について考えるきっかけになる。
「むこだまし」というこの地の特有の粟を使った和菓子「粟生」まで、たっぷり3時間の昼食。気持ちよくゆったりしていたら、いつの間にか午後も深くなってしまった。大和伝統野菜を中心とした土地の滋養と、ゆるやかに流れる時間と、ペーターとの触れ合いが愉快な「清澄の里 粟」は、時空がすこし歪んでいる心地よい場所だった。奈良の自然を愛した志賀直哉に彼らの活動は響くと思うのだが、いかがだろうか。

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