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Jリーガー御用達の靴下メーカーが、「脱げやすい」フットカバーを「脱げにくく」した開発秘話 2&9「ぬげにくいくつした」誕生までの道のり

投稿日: 2017年4月16日
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こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。
4月も半分をすぎて、体を動かすと汗ばむような日も増えてきました。さっそく素足でデニムを履く女性の姿など、清々しくて好きです。まだサンダルを履くには少し早いので、この時期活躍するのがフットカバー。ところがこの小さな靴下、足に合わないとすぐ靴の中でぬげてしまいます。大丈夫かなと思っても駆け出した瞬間にするん、と外れてしまったり。今日はそんな「脱げやすい」フットカバーを、Jリーガーも密かに愛用するという靴下メーカーが「脱げにくく」した、開発物語です。

以前、贈りものの記事でご紹介した「ぬげにくいくつした」。作っているのは日本一の靴下産地・奈良の靴下メーカー、株式会社キタイさんです。スポーツソックスを得意とし、プロのアスリートにもファンがいるというキタイさんがこの商品を開発したのは、共にこの靴下をつくった中川政七商店デザイナーの、ある一言がきっかけだったそうです。キタイさん代表の喜夛(きた)さんにお話を伺いました。

フットカバーは、すぐ脱げる?

——世界的なスポーツブランドの靴下も手がけるキタイさんが、普段使いの靴下の中でも「脱げにくい」フットカバーを開発することになった、きっかけを教えてください。

「うちのメインの商品は、スポーツ競技をする方が履くような運動用の靴下です。サッカーから野球、ゴルフ、バトミントンまで、いろいろな企業さんのオーダーを受けて、競技タイプに合わせた靴下を作っています。そうした中でフットカバーは、作る技術こそ持っていましたが、商品としては未だ開拓していなかったアイテムでした」

世界的なスポーツブランドの靴下も手がけるキタイさんの製造現場。整然と機械が並ぶ。

世界的なスポーツブランドの靴下も手がけるキタイさんの製造現場。整然と機械が並ぶ。

「中川さんと知り合ったのは、同じ奈良のサッカークラブ『奈良クラブ』のサポートをしていたのがきっかけです。中川さんの靴下ブランド『2&9(ニトキュウ)』の商品開発をされているデザイナーさんに、ほとんど縫い目なくフットカバーを作れる技術を紹介して興味を持っていただいたのですが、その時に『こういう靴下っていつもかかとが脱げてしまうのが嫌なんですよね』とお話されて。それじゃあ、もっと立体にしましょうか、と提案したんです」

ぬげにくい技術 その1 人体の形にフィットした「超」立体成形

——「もっと立体」とはどんなものでしょうか?

「一般的な靴下は、専用の機械で筒状に編み立てた後、つま先部分を縫い合わせて靴下の形にします。それが最近は、縫製の手間を入れずに立体的な靴下を作ることができる編み立て機が登場しているんです。ちょうど手編みのように、ロボットが生地を袋状に綴じてくれるんです」

一般的な靴下は、こうしてつま先部分を別の機械で縫い合わせて完成する。

一般的な靴下は、こうしてつま先部分を別の機械で縫い合わせて完成する。

——機械に糸をセットしたら、ほとんど完成形の状態で靴下が出てくる、ということですね!なんだか不思議です。

「自動成形という技術なんですが、ちょうどその機械を導入して間もない頃だったと思います。『ぬげにくいくつした』はその技術を活用した最初の商品開発でした」

これがほぼ完成形の靴下まで一台で作れる、自動成形の編み機。見るからに複雑なつくり。

これがほぼ完成形の靴下まで一台で作れる、自動成形の編み機。見るからに複雑なつくり。

機械を上から覗いたところ。中心に糸が集まり、針が動いて筒状に靴下が編まれていく。

機械を上から覗いたところ。中心に糸が集まり、針が動いて筒状に靴下が編まれていく。

「編み立ての機械って筒状になっていて、ちょうど洗濯機のように機械の内側が左右に回転することで、生地が編まれていくんです。本当は1周ぐるっと回転した方が効率がいいですよね。でも1周ぐるっとだけだと筒状にしかならない。そこでプログラムを組んで、つま先やかかとなどの形に合わせて回転の幅を制御していきます。そうすると、足の凹凸にあった、よりフィットする靴下の形が出来上がるんです」

図にして解説してくださる喜夛さん。

図にして解説してくださる喜夛さん。

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靴下のプログラムが入ったUSB。この中の設計図を読み取って機械が動く。

靴下のプログラムが入ったUSB。この中の設計図を読み取って機械が動く。

プログラムに合わせて針が上下しているのがわかる。

プログラムに合わせて針が上下しているのがわかる。

自動成形の最後の工程、つま先部分を袋状に綴じているところ。縫合でなく、糸を編み合わせているので肌当たりも良い。

自動成形の最後の工程、つま先部分を袋状に綴じているところ。縫合でなく、糸を編み合わせているので肌当たりも良い。

「足にぴったりあうよう『ぬげにくいくつした』は機械の動きが複雑なので、実はつま先とかかとだけで全体の編み立て時間の70%を費やしています」

——つま先とかかとだけで70%!それは1枚編むだけでも、かなりの労力ですね。

「そうですね…1枚成形するのに普通の靴下では平均5分かかるところを、『ぬげにくいくつした』は15分かかります。5本指タイプは…20分は超えるでしょうね。非能率極まりない(笑)。でも、そうすることで人の足の形にあった靴下になるんです。かかとはちょうど、ゴルフボールのような形をイメージして作りました」

ぷくっと立体的なかかと部分。

ぷくっと立体的なかかと部分。

ぬげにくい技術 その2 タオルのような肌当たりの「部分パイル」

「それと、女性はスニーカーのようなクッション性のある靴だけでなく、パンプスなど底の硬い靴にもフットカバーを履きますよね。そこで衝撃を和らげるように、靴下自体にクッション性を持たせよう、となりました。具体的には生地をタオルのようにパイル状にするのですが、生地全部をパイルにしては、厚みが出て靴下のサイズが変わってしまいます。ここも、編み立て機のコンピュータ制御で、必要なところにだけ部分的にパイルを施すようにしました」

編まれている黒い生地の右上部分、表面がフワフワのパイル状に切り替わっている。プログラムにより、微妙な針の上げ下げでパイル地が編まれていく。

編まれている黒い生地の右上部分、表面がフワフワのパイル状に切り替わっている。プログラムにより、微妙な針の上げ下げでパイル地が編まれていく。

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——そういえば部分的にクッションを縫い込んだフットカバーを持っていますが、縫い目がチクチク肌に当たった経験があります。生地自体がパイルになっていた方が、肌当たりも良いわけですね。

「そうですね、作る工程も一度で済むので、効率的です。でも、超立体成形やパイルだけでは、まだ『ぬげにくいくつした』にはならなかったんです」

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