さんち 〜工芸と探訪〜

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長崎の知られざる魅力は路地にあり。「さるく見聞館」をめぐるまち歩き

投稿日: 2018年3月19日
産地:
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長崎の観光地と聞いて、どこを思い浮かべますか?

グラバー園や眼鏡橋、大浦天主堂や平和公園などが有名ですが、地元の方に尋ねると、おすすめの場所は他にもあるのだとか。

小さな路地を入って見つけるお店や、曲がりくねった石畳の坂道を上りきったところの景色にこそ、長崎の本当の魅力は眠っているといいます。

長崎の歴史や文化を体感できる「さるく見聞館」

長崎では、「長崎の良さを味わうには、まちを歩くのが一番!」という考えのもと、「長崎さるく」という企画が立ち上げられました。

「さるく」とは、長崎の言葉で「まちをぶらぶら歩く」という意味。

特製マップを片手に自由に歩く「遊さるく」、地元の方によるガイド付きまち歩きツアー「通さるく」、専門家による講座や体験を組み合わせた「学さるく」などが用意されていて、観光客だけでなく、地元の方々にも人気があります。

このまち歩きの中でひときわ魅力的なのが、まちのなかに19箇所ほどある「さるく見聞館」と呼ばれる場所。

さるく見聞館のポスター

「さるく見聞館」とは、長崎のまちの伝統や文化、くらしを伝えるスポットです。

長崎のまちに点在する旧家や老舗などの協力のもと、それぞれの家やお店の当主を館長として、仕事場や生活の場などを公開しています。つまり、普段は入ることのできない工房の中や歴史ある建物に足を踏み入れて、見て回ることができるのです。

貴重な古い道具や資料、仕事の様子を見学したり、工房によっては、ものづくり体験のできる場所まであります (要事前連絡) 。

通常の観光では足を踏み入れられない場所での発見や、地元の方とのふれあいをも楽しめることが大きな魅力です。

さっそく私もまちを歩きながら、工芸に関わる「さるく見聞館」をめぐってみました。

今回訪れた3軒を紹介します。

世界で認められたべっ甲作品が鑑賞できる「江崎べっ甲店」

1709年 (宝永6年) 創業の江崎べっ甲店。和洋折衷の建物は、国の登録有形文化財に指定されています

1709年 (宝永6年) 創業の江崎べっ甲店。和洋折衷の建物は、国の登録有形文化財に指定されています

最初に訪れたのは、長崎特産「べっ甲」の老舗「江崎べっ甲店」。

日本でもっとも古い、伝統あるべっ甲専門店です。店内に展示されているべっ甲に関する歴史資料や道具類、べっ甲作品を鑑賞できます。さらには、実際の製作の様子を眺めることも。

べっ甲の詳しい製作工程については、関連記事「長崎特産『べっ甲細工』の工房で、水と熱の芸術を見る」をご覧ください。

江崎べっ甲店9代目当主、江崎淑夫さん

館長は、江崎べっ甲店9代目当主、江崎淑夫 (えざき よしお)さん

べっ甲の歴史をめぐる資料の展示

べっ甲の歴史をめぐ資料の展示

べっ甲の歴史をめぐ資料の展示
素材の解説や、工程見本などが並びます

素材の解説や、工程見本などが並びます

店内には。工房が覗ける大きな窓が設置されている

店内には、工房が見える大きな窓が設置されていて、べっ甲細工ができ上がる様子が眺められます

1937年、パリ万博にて最優秀賞を受賞した作品「鯉」。6代目江崎栄造作

1937年、パリ万博にて最優秀賞を受賞した作品「鯉」。6代目江崎栄造氏作

6代目の故・江崎栄造氏は、べっ甲業界ではただ一人の無形文化財に指定された方。栄造氏の作品は世界で大きな賞をいくつも受賞し、宮内庁御用達にもなりました。同氏の作品も展示されています。

昭和天皇の即位式で使われた御冠台も江崎べっ甲店が手がけました。作成にあたって、試作品として作った茶棚。べっ甲をつなぎ合わせて大きな製品をつくるには手間と高い技術が必要となります

昭和天皇の即位式で使われた御冠台も江崎べっ甲店が手がけました。作成にあたって、試作品として作った茶棚。べっ甲をつなぎ合わせて大きな製品をつくるには手間と高い技術が必要となります

長崎にやってきた海外の人々は、お土産にべっ甲を買い求めて持ち帰っていたそうです。国の要人も訪れたという同店。こんなものも残っていました。

ニコライ皇太子からのサイン

来日中に訪れた、ロシア帝国のニコライ皇太子の直筆サインの展示も。来店をきっかけに親交があり、当時の当主はロシアに招待までされたそう

気さくな江崎さんのお話を伺いながら、じっくりと作品や資料を見られる店内は、まるで博物館のようでした。

長崎くんちを支える「平野楽器店」

続いて訪れたのは、江戸時代から続く和楽器の老舗「平野楽器店」。

平野楽器店の入り口

平野楽器店

江戸時代の三大花街で今も残る長崎丸山の芸妓の楽器や、長崎くんちで使う和楽器の修理やメンテナンスを行っているお店です。

店内には、古くから伝わる和楽器の修理道具が展示されていて、その使い方などを館長が解説してくれます。

館長の平野慶介 (ひらの けいすけ) さん

館長の平野慶介 (ひらの けいすけ) さん

三味線作りの道具。見慣れないものがたくさんありますね

三味線作りの道具。見慣れないものがたくさんありますね

こちらの道具は、三味線の胴に皮を貼る際に使うのだそう

こちらの道具は、三味線の胴に皮を貼る際に使うのだそう。どんな風に使うのでしょうか

ドキドキする?!「三味線の皮貼り」

この日は、三味線の皮の貼り替えをされていました。その様子を間近に見せていただくことに。先ほど登場した、不思議な道具の使い方も知ることができました。

三味線に貼る皮を軽石でこすり、全体の厚みを揃え、表面をなめらかにします

三味線に貼る皮。軽石でこすり、全体の厚みを揃え、表面をなめらかにします

水と練り合わせた糊を三味線の縁に乗せ、その上から皮を貼っていきます。乾燥すると高い粘着性を発揮する糊は、再び水で濡らすと簡単に剥がせるので、貼り替えのたびに楽器を傷つけずにすむのだそう

水と練り合わせた糊を三味線の縁に乗せ、その上から皮を貼っていきます。乾燥すると高い粘着性を発揮する糊は、再び水で濡らすと簡単に剥がせるので、貼り替えのたびに楽器を傷つけずにすむのだそう

木のクリップのような道具で縁に乗せた皮を仮止めします

木のクリップのような道具で縁に乗せた皮を仮止めします

クリップに杭を打って、皮がピンと張った状態で貼り付くようにします

クリップに杭を打って、皮がピンと張った状態で貼り付くようにします

さて、ここで先ほどの道具、四角い木の板と紐が登場しました。

ここで、先ほどの道具が登場します。道具の上に、作業中の三味線の胴を乗せて、紐を掛けます

木板の上に作業中の三味線の胴を乗せて、紐を掛けていきます

どんどんと締め上げていきます。こうすることで、皮にテンションをかけていっているのだそう

紐を締めて、クリップを傾けて引き、皮を張っていきます

紐をかけ終わったら、道具の隙間に杭を打ち、ジャッキの要領で、さらに皮を張っていきます

紐をかけ終わったら、道具の隙間に杭を打ち、ジャッキの要領で、さらに皮を張っていきます

三味線の音をよくするには、皮がピンと張っていることが重要。皮の状態を見ながら、限界まで張りつめさせていきます。

先ほどの道具はこのためのものだったのですね。

紐をねじって固定して、どんどんきつくしていきます

杭だけでなく、紐もねじって引っ張ります

皮の張り具合を指で確かめて、ギリギリの状態まで張りつめさせます

皮の張り具合を指で確かめて、ギリギリの状態まで張りつめさせます

皮には薄いところと厚いところがあるので、場所によって圧のかけ方を変えて調整します。

破れないギリギリのところを見極めるのが職人の腕の見せ所。「黒ひげ危機一発」のゲームを見ているようでドキドキしました。

見学している私の緊張をよそに、余裕の表情の平野さんですが、新人の頃は失敗もしたのだそうです。

「状態を見誤って破いてしまうと、最初からやり直しになるし、皮も無駄にしてしまうので真剣勝負です」とおっしゃっていました。

最後は熱で乾燥させて、貼り替え完了です

最後は熱で乾燥させて、貼り替え完了です

長崎ビードロを現代に伝える「瑠璃庵」

3軒目は、現存する日本最古のキリスト教建築物、国宝「大浦天主堂」そばにあるガラス工房「瑠璃庵 (るりあん) 」。

瑠璃庵の店内。奥に窯があり、製作中はその作業の様子が直接見られます

瑠璃庵の店内。奥に窯があり、製作中はその作業の様子が直接見られます

長崎の伝統工芸であるビードロをはじめとする吹きガラスの専門店です。吹きガラスやステンドグラスの製造工程の見学、製作体験 (要予約) もできます。

関連記事「古文書から『長崎チロリ』を復元した、ガラス職人の情熱」では、館長の竹田克人さんのインタビューがお読みいただけます。

館長の竹田克人さん

館長の竹田克人さん。江戸時代に作られていた瑠璃色の冷酒用急須「長崎チロリ」を復元した方。長崎のガラス工芸の歴史やその技術を詳しく解説してくれます

店内にずらりと並ぶ美しいガラス製品と共に、長崎に伝わるガラス工芸の様子がわかる資料の展示も。

長崎のお祭、「くんち」の山車の装飾にもガラスが用いられている。こちらは竜の目

長崎のお祭「長崎くんち」の山車の装飾にもガラスが用いられています。こちらは竜の目

江戸時代に海を渡ってきたガラスボトル。ロッテルダム (オランダの地名) が書かれている

江戸時代に海を渡ってきたガラスボトル。ロッテルダム (オランダの地名) と書かれています

間近で見る工房の様子

工房の様子ものぞいてみましょう。

1100度以上の高温の窯で溶かしたガラス

1100度以上の高温の窯で溶かしたガラス

窯で1100度以上の熱で熱して溶けたガラスを成形していきます。手で添えているのは濡れた新聞紙

ブローパイプ(吹き棹)の先に付けたガラスを、濡らした新聞紙の上で転がしながら成形していきます

小さい穴に箸を入れてガラスを広げていきます。さらに全体を調整して除冷炉に入れたら完成です

小さい穴に箸を入れてガラスを広げていきます。さらに全体を調整して除冷炉に入れたら完成です

工房の脇には、窯の中での役目を終えた「るつぼ」が置かれていました。

ガラスを溶かす窯の中には、「るつぼ」と言われるガラスの入った器が入っている。毎日使い続ける窯。高熱とガラスによって侵蝕するので1年ほどで交換が必要となる

ガラスを溶かす窯の中には、「るつぼ」と言われるガラスの入った器が入っています。毎日使い続ける窯の中は、高熱とガラスによる過酷な環境。侵蝕するので1年ほどで交換が必要となるのだそう

使い終わったるつぼを割ると侵蝕して薄くなった断面が現れる。たった1年でこんなにもダメージを受けてしまうのだ

使い終わったるつぼを割ると侵蝕して薄くなった断面が現れます。たった1年でこんなにもダメージを受けてしまうのですね

職人と同じ道具を使って体験できる、吹きガラスやガラス細工

瑠璃庵では、吹きガラス、万華鏡、ステンドグラスなど、手づくりガラスの体験学習を行なっています。長崎の地でガラスの魅力を伝えたいという思いから始まり、30年以上続く企画だそうです。

職人さんが普段使っているものと同じ道具で体験できるのが嬉しいですね。

事前申し込みで、吹きガラスを体験することも

事前申し込みで、吹きガラスを体験することも

フュージングのワークショップ

フュージングのワークショップ

自分だけのデザインが作れます

自分だけのデザインが作れます

長崎の人々の気質から生まれた「さるく見聞館」

さるく見聞館は、それぞれ通常の営業をしながら観光スポットとして利用者を受け入れています。どの場所も観光専門の場所ではないのですが、とても気さくに丁寧で詳しい解説を受けられて、実際の仕事場などが見られるのでとても充実していました。そしてなにより、それぞれのお店の歴史や技術に親しみが湧きました。

「長崎は、鎖国時代に唯一世界に開かれていた場所でした。

当時、各地から勉強のために訪れた多くの人を受け入れ、お世話をしていた長崎の人々。外からやってきた人に親切で、お節介気質な人が多い土地なんです。

道を聞かれたら、その場所まで連れて行ってくれるくらいです。 (笑)

寡黙に仕事をしている職人さんでも、尋ねると親切に答えてくれる。お話好きの方も多いんですよ。

見聞館を訪れることで、地域の人と交流しながら、長崎のことをもっと知っていただき、魅力を感じていただけらと思います」

そう語ってくださったのは、「長崎さるく」を企画している長崎国際観光コンベンション協会の的野さん。

私も、長崎の方々のたくさんの親切を受けました。荷物を預けるコインロッカーを探していたら、帰り道のルートを尋ねられ行程に一番向いている場所を教えていただいたり、飲食店を尋ねたらそのお店の一押しメニューについてまで教えていただいたり。

ものづくりの現場でも、職人同士で技をシェアしあって技術を高めていく風土が作られているそうです。海外の文化や技術の発信地であった長崎。江戸を始め、全国にその技術が伝え広まった背景には、長崎の人々の気質によるところが大きかったのかもしれません。

<取材協力>
一般社団法人 長崎国際観光コンベンション協会
長崎市出島町1-1 出島ワーフ2階
095-811-0369
長崎さるく公式サイト

江崎べっ甲店
長崎県長崎市魚の町7-13
095-821-0328

平野楽器店
長崎市鍛冶屋町5-4 鍛冶屋町通り 平野楽器ビル奥
095-822-1398

瑠璃庵
長崎県長崎市松が枝町5-11
095-827-0737

文・写真 : 小俣荘子
写真提供:一般社団法人 長崎国際観光コンベンション協会、瑠璃庵

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