さんち 〜工芸と探訪〜

SUNCHI ~ Explore japan through regional crafts ~

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日本の暮らしの豆知識

二〇一六 霜月の豆知識

投稿日: 2016年11月1日
産地: 盛岡
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はじめまして。中川政七商店の細萱久美と申します。
商品のバイヤーを担当しているので、日本各地のものづくり現場を訪れる機会があります。その経験をいかして、歳時記をベースとした書籍「中川政七商店が伝えたい 日本の暮らしの豆知識」(PHP研究所出版)も編集・取材に携わり、歳時記にちなんだ日本のモノや、職人さんに教わる暮らしの知恵をご紹介しています。
この本でも伝えきれなかった日本の良いモノや日本の技はまだまだたくさんあります。『さんち~工芸と探訪~』では、実際に自分で使っているお気に入りや、これから使ってみたいものを、歳時記に合わせてご紹介していきたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。

今月11月は、旧暦では「霜月」と呼ばれます。霜月の語源は、霜降り月の略という説が有力で、文字通り霜が降りる頃の意味と思われます。私は東京の武蔵野市育ちですが、小さい頃は霜柱が頻繁に降りて、サクサクと踏むのを楽しんでいた記憶があります。最近は温暖化のためか、土が少なくなったためか、霜柱を踏む機会も少なくなりました。季節の風物詩は意外と記憶にも残るので、少なくなることは少し寂しくもあります。

それでも徐々に冷え込みが厳しくなっていく霜月。朝晩はさらに冷え込みが厳しくなるので、衣類も食べ物も、自然と温かいものを欲するようになります。飲み物も温かいものが身体の中から温まる感じがします。私は家ではコーヒーよりもお茶派で、一年中、朝晩に温かいお茶を飲みます。お茶の味には、茶葉と淹れ方も大きく影響しますが、水の味も重要です。浄水器を通した水を使いますが、より美味しくするために、鉄瓶で沸かしています。
鉄瓶で水を沸かすと、塩素が抜けて沸かしたお湯の味がまろやかになると言われており、白湯を飲むと味の違いを実感すると思います。私の愛用している鉄瓶は、岩手県で明治から100年以上にわたって続く南部鉄器の老舗「釜定」の「柚子」という商品。フィンランドの工芸家とも交流のある、釜定三代目の宮伸穂さんが生み出す鉄器は、伝統工芸の精神と技術を継承しつつ、モダンで新しい雰囲気を感じさせます。「柚子」もころんと丸みがあって、シックな中に可愛らしさも感じ、シンプルなフォルムが魅力です。

もしも鉄瓶は錆びやすくて扱いが難しそうというイメージがあれば、実際はそうでもありません。基本的には濡れたまま放置せずに余熱でしっかり乾かすこと。あとは、毎日使うことで内部に湯垢が付くと、過度な錆びを防ぎ、お湯の味もさらにまろやかになります。水に含まれるカルシウムなどの成分が湯垢になりますが、長時間お湯を沸騰させることでも付きやすくなります。その意味では、かつて火鉢やストーブの上で、日がな一日シュンシュン言わせていた鉄瓶は深い味わいに育っていたことと思います。今の暮らしには火鉢も少なくなりましたが、鉄瓶から出る湯気は不思議と柔らかく感じ、ガス台でも少しの間沸いてるのを眺めます。

最近では、国内よりも海外で人気の高まっている鉄瓶ですが、とっつき難いなどの先入観を持たずに使ってみると、毎日の飲み物の味のレベルが上がって、豊かな気持ちにもなります。
扱いの難しさよりも、自分だけの愛着のある鉄瓶に育てることを楽しみたい霜月の暮らしの道具です。




細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

文・写真:細萱久美
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