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同じく2018年に再版された葛飾北斎の『北斎漫画』

「北斎漫画」を蘇らせた究極の美術印刷。木版手摺による和装本を守る京都の版元へ 日本唯一。木版摺和装本を出版する京都 芸艸堂

投稿日: 2019年5月17日
産地: 京都
編集:
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京都・寺町二条。京都市役所や京都御苑にもほど近い街の中心部だ。丸太町通りと御池通りの間の寺町通り沿いには、骨董屋や古書店、和菓子店や歴史ある茶舗などが並び、歩くだけでも風情ある街並みを楽しめる。

日本で唯一、手摺木版による和装本を出版する「芸艸堂」

そんな寺町通りの一角にあるのが、明治24年にこの地で創業した「芸艸堂(うんそうどう)」。ここは、今や日本で唯一の手摺木版(てすりもくはん)による和装本の出版社だ。

芸艸堂

手摺木版とは、その名の通り版木に色をのせ、紙に色を写していく版画印刷のこと。当然、一枚一枚手作業となる。それを四つ目綴じなどの製本技術を用い、何十ページにも束ねて一冊の本として発行する。一連は江戸時代から続く伝統技法だが、出版の原理は現在書店に並んでいる本となんら変わらない。

和装本

創業者の山田直三郎は、当時京都で名の知られた木版出版社「田中文求堂」で修業の末独立し「山田芸艸堂」を開業。のちに兄の市次郎と弟の金之助が営んでいた「本田雲錦堂」と合併し、現在の形となった。

そして芸艸堂が成長を遂げた背景には、かつて一大産業として発展し、世界からも注目を集めた京都の伝統工芸が関係していた。

美術印刷と京都の地場産業との意外な関係

茶道、華道、能、花街など、さまざまな日本文化が発展した京都において、そこに付随する「着物」産業もまた、切っても切り離せない関係であった。

絢爛豪華な「西陣織」による織物、色鮮やかな「友禅染」による染物など、日本最高峰の技術が結集され、地場産業として大いに発展した着物文化こそが、「着倒れの京都」と称される所以だ。

着物産業と木版和装本。すぐにはピンと来ないかもしれないが、そこには両者の意外な関係が隠されていた。

京都の着物といえば、西陣織や京友禅など、仕立てに関する技術や工程にスポットが当てられがちだが、それだけが着物を作る過程ではない。

かつて京都の街中には、着物の「意匠」を考案する多数の図案家が存在した。現代風にいうと「デザイナー」。着物の生産がさかんになればなるほど、着物の図案もより多くのパターンが求められるのは必然だろう。最盛期、ひと月に30ものパターンを作成していた図案家もいたと言われている。

その図案を集約し、一冊の本にして発刊していたのが芸艸堂。それはいわば図案家の作品集で、新たな「意匠」を考案するための重要なツールとなる。

図案家が考案したデザインの原案を、より忠実に、美しく表現できたのが、芸艸堂の木版技術であった。

時代を超えて受け継がれる、モダンなデザインの数々

現在代表を務める四代目の山田博隆さんは、代々受け継がれた出版技術や膨大な版木を生かし、当時の人気シリーズの復刻にも取り組んでいる。

代表で四代目の山田博隆さん

代表で四代目の山田博隆さん

そのひとつが、明治時代の代表的な図案家・神坂雪佳の作品集である『滑稽図案』。明治36年に初版が発行され、昨年、15年ぶりに重版された。摺り師による印刷技術、製本技術を結集し、初版の版木をそのまま用いている。貴重な版木と職人技を現代まで受け継いだ、芸艸堂だからこそ復刻できる渾身の一冊だ。

再版された『滑稽図案』。明治時代の色合いを見事に再現

再版された『滑稽図案』。明治時代の色合いを見事に再現

神坂雪佳といえば、琳派の影響を受けた『四季草花図』などの日本画が著名だが、そこには想像していたよりも、ずっとポップで鮮やかな世界が広がっていた。

山田さんによれば、この滑らかで発色の良い風合いは版画でなければ出せないという。

素人目に見ても、色が持つマットな質感や独特の重厚感に、高度な職人技が感じられる。

滑稽図案

上:「滑稽図案」神坂雪佳/下:花づくし「松竹梅」古谷 紅麟(雪佳の弟子)

そのモダンな配色にも驚いた。伝統的な草花などの図案が、ピンクや薄紫、黄色などのパステルカラーで表現されていたり、鮮やかなオレンジなど、意外な色彩も多くみられる。

収録された図案は47点で、ユーモアに富んだ動物画や抽象的なパターン画は、現代に続くテキスタイルデザインの先駆けと言えるだろう。

滑稽図案
滑稽図案

また、神坂雪佳の展覧会が2003年に京都国立近代美術館で開催された際、雪佳の図案集が再評価された。百貨店のポスターなどに採用されたり、2007年と14年にはユニクロのTシャツに用いられたりするなど、雪佳の図案は現代においても注目を集めている。

時代に即した商品化にも柔軟だ。受け継がれた版木のなかには伊藤若冲や歌川広重など著名な絵師の図柄もあり、それらを活かしたポストカードやぽち袋、クリアファイルなどの制作も積極的に行う。

芸艸堂
芸艸堂

また、必要に応じてオフセット印刷も活用。葛飾北斎や尾形光琳ら江戸時代の代表絵師の作品を和綴じ豆本にしてシリーズ化するなど、需要に合わせてさまざまな商品を提案している。

芸艸堂
江戸時代の著名絵師の作品を集めた和綴じ豆本シリーズ

江戸時代の著名絵師の作品を集めた和綴じ豆本シリーズ

それもすべて、芸艸堂が代々受け継いできた版木があってこそ再現できるもの。原案となる図案が刻まれた膨大な版木は、店舗裏の「版木蔵」に大切に受け継がれていた。

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