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京都最高峰の職人が生んだ3代目「甲子園大優勝旗」。そこには10年来の旗屋の熱い想いがあった 京都 平岡旗製造株式会社

投稿日: 2018年8月21日
産地: 京都
編集:
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本気の夏、100回目。

連日の猛暑の中、熱戦が繰り広げられている夏の甲子園 (全国高等学校野球選手権大会) 。リアルタイムに試合が見られない日も、ニュースをチェックされていた方はきっと多いはず。

いよいよ今日、8月21日は決勝戦が行われます。

3代目「深紅の大優勝旗」が翻る甲子園

今年は記念すべき第100回大会であり、平成時代最後の大会。

過去最多の出場枠、松井秀喜さんや桑田真澄さんなど様々な年代で活躍した元選手18名によるレジェント始球式など、記念大会ならではの取り組みが話題を呼びました。

さらには、優勝校に授与される「深紅の大優勝旗」が60年ぶりに新調されたこともニュースに。

甲子園 真紅の大優勝旗

その大きさは縦120センチメートル、横150センチメートル。ハトの絵柄と「優勝」の文字が金色に輝き、ラテン語で「VICTORIBUS PALMAE」 (勝者に栄光あれ) という文字が織り込まれています ©時事通信

新たに作られた大優勝旗は3代目。先代と同じく西陣織の「つづれ織り」の技術で織られ、制作には1年6カ月もの歳月を要しました。

制作費1200万円、京都最高峰の職人が手がけた

この大優勝旗が生まれるまでにも、高校野球同様、熱い思いと職人たちのチームワークがあったといいます。制作を担当した平岡旗製造を訪ねてお話を伺いました。

平岡旗製造株式会社

1887年創業の老舗旗屋「平岡旗製造」

専務の平岡成介さん

大優勝旗制作のプロジェクトを統括した、専務の平岡成介 (ひらおか せいすけ) さん

「これから数十年に渡って毎年使われる大切な大優勝旗のご依頼、特別な思いで制作にあたりました」

大優勝旗制作の予算は1200万円。一般的な旗づくりは、数万円から数十万円程の予算。連綿と続いてきた大会の100回記念。その重みある依頼です。

平岡さんの言葉にも力が入ります。

「3代目の大優勝旗は、2代目のデザインの踏襲、西陣織の最高級技術である『つづれ織』での制作が決まっていました。下絵、染め、織、縫製など全ての工程において、最高峰の職人さんを集めて進めました」

京都のものづくりは分業制です。隣接する工房同士で仕事を分担し、1つのものを作り上げていきます。

旗に関しては、依頼を受けた旗屋が、制作物の性質や予算などに応じて、最適な工房や職人さんを選び制作を進め仕上げます。長年ともにものづくりをする中で蓄積された、職人さんごとの強みや技の特色への理解からベストなチームを作るのだそう。

今回の制作は、ベテラン職人の技が光りました。旗に描かれるマークや文字は刺繍で仕上げることが一般的ですが、この大優勝旗は全て「つづれ織り」。文字や柄も糸を織り込んで描くので、繊細な絵柄の部分は1日でわずか1センチメートルしか進まないこともあったそうです。

つづれ織りの様子

つづれ織りの様子。巧みに爪を使って緯糸 (よこいと) を織り込んでいきます。写真は、文字を錦糸で描いているところです

写真のように、生地の上に刺繍を施すのが一般的な旗なのだそう

一般的な手法で作られた旗を見せていただきました。多くの旗は、生地の上に刺繍を施して仕上げるのだそう

強度を高めたかった

「大優勝旗は、球児たちが元気に力強く振ることもあります。壊れにくいようにしっかりと織って強度を高めました。

織り目が詰まっているので、最後の仕立てでは、糸を通すのに針にロウを付けて滑りやすくした上でペンチで引いたほどです」と平岡さん。

旗を掲げるポールにも様々なものがあります。大優勝旗では最上級の漆塗りのものが用いられました

こちらは旗を掲げるポールのサンプル。単色塗りのものから螺鈿装飾など様々なものがあります。大優勝旗では最上級の漆塗りのものが用いられました

10年以上、毎年メンテナンスに通った熱意

ところで、この大優勝旗作り、どのようにして平岡旗製造が担当することになったのでしょう。そこには平岡さんのひたむきな仕事と熱い思いがありました。

「私自身、大の高校野球ファンなんです。PL学園のKKコンビに憧れて、学生時代は野球に明け暮れる毎日を過ごしていました。

29歳の時に旗屋を継ぐため、この会社に戻ってきました。そんな私の初仕事は、甲子園の優勝旗につける竿頭綬 (優勝校名を記したペナント) 作りだったんです」

専務の平岡成介 (ひらおか せいすけ) さん

キリリとした表情でお仕事を語ってくださった姿から一変。高校野球の話になるとお顔がほぐれ、素敵な笑顔を見せてくださった平岡さん

「その年の甲子園は86回大会。初めて間近に見た2代目の優勝旗は既にかなり傷んでいました。45年以上使われ続けてきたのですからね。

自分の仕事を通じて大好きな高校野球に貢献できることはないか?と考えた時、補修など優勝旗にまつわることであれば役に立てることがあるのではと思いました」

こうして、甲子園開会式前日のリハーサル時に優勝旗のチェックを行う役目を無償で買って出た平岡さん。毎年甲子園に通い、優勝旗のチェックや手入れなど、旗屋としてできることは何でも引き受けました。

「毎年通って仕事をさせてもらうようになって数年経つと、入場のフリーパスをもらえるようになりました。担当者として認識していただけたのが嬉しかったですね。

また数年後、それまでは室内練習場で優勝旗をチェックしたら終わりだったのが、グラウンド入りの許可をもらいました。まさか自分が甲子園の土を踏む日が来るなんて。感激したことを覚えています。

旗の持ち方や結び方の確認など、開会式で球児たちがよりかっこ良い姿で入場行進できればとお手伝いさせてもらいました」

旗の結び目

旗の結び目の見本を見せていただきました。しっかりと美しく結ばれています。ふさの部分が垂れ下がってしまっていたり、「かっこ悪い姿」にならないようにチェックするのだそう

毎年ていねいな仕事を重ね、信頼を積み上げてきた平岡さん。ついには、3代目大優勝旗の制作という大仕事の依頼を受けるまでになったのです。

子どもの頃からの思いが実を結んだ

旗屋の後継ぎとして生まれた平岡さん。勉強など、幼い頃から将来への準備をしてきました。小学生時代は受験勉強のため、少年野球に入ることが叶わず、勉強の休憩時間に一人で壁打ちをしていたといいます。

「野球に対しては、子どもの頃から醸成されてきた思いがありました。旗屋の仕事を通じて思いがけず甲子園と関わりが持てたこと、思いが実ったようです」

平岡さん

そんな平岡さんに、甲子園球児へ何か伝えたいことはありますか?と伺うと「こちらから言葉をかけるなんておこがましい」と、どこまでも控えめです。

「彼らは普通の人がして来た何倍もの努力をして、この場所に立っている選手。そのことへ敬意と尊敬の思いがあるばかりです。選手によってはこの夏が野球人生最後になる人もいます。ここまでのみなさんの野球人生に敬意を評します。

高校野球は、生き様というか人間模様が表れている。まさに青春の素晴らしさがあります。そこに私は熱くなるのだと思います」

日々練習を積み上げ、勝ち上がってきた選手による熱い戦いの場、甲子園。平岡さんが大優勝旗制作を担当するまでのひたむきな仕事ぶりにも重なります。

ここに、もう一つの甲子園がありました。

決勝戦を戦うのは、秋田県立金足農業高等学校と大阪桐蔭高等学校。優勝旗はいったいどちらの手に渡るのでしょうか。この夏を締めくくる表彰の舞台では、真新しい深紅の大優勝旗にも注目です。

<取材協力>
平岡旗製造株式会社
京都市下京区四条通西洞院東入郭巨山町18番地 ヒラオカビル
075-221-1500
http://www.hiraoka-hata.com/

文:小俣荘子
写真:山下桂子
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