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伝統画材ラボ「PIGMENT(ピグモン)」の岩泉さんに教えてもらう日本の画材

日本画を彩る胡粉(ごふん)と岩絵具

投稿日: 2017年5月11日
産地: 京都
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こんにちは、さんち編集部の井上麻那巳です。
先日の記事で日本の伝統画材のいろはを教えてもらった伝統画材ラボ「PIGMENT」の岩泉さん。前回の墨刷毛に続き、第3回目である最後は胡粉(ごふん)と岩絵具の製造現場へ行ってきました。

伝統的な胡粉を守るナカガワ胡粉絵具へ

まず向かったのは日本画絵具国内シェア80%を誇るナカガワ胡粉絵具さん。京都市の南側、宇治茶で知られる宇治市に拠点をもつナカガワ胡粉絵具さんは、明治26年から水車による胡粉製造を始められたという老舗の日本画絵具メーカーです。今回はそのルーツである胡粉の製造工程を見せていただきました。

胡粉という言葉自体があまりなじみのないものですが、胡粉とは貝殻からつくられる日本画の白色絵具のこと。最近では胡粉ネイルという製品もあったりと、少しずつ一般にも知名度を上げている胡粉ですが、日本画絵具の中でも用途が幅広く、他の絵具との混色や下地にも使われる日本画には欠かせない重要な存在だそうです。

これが胡粉です

これが胡粉です

原料は天然のイタボガキだけ

「ご存知かと思いますが、胡粉の原料は貝殻です。ほんの少しの不純物を除いて99.8%が貝の粉でできているんですね。だから食べることもできます。『塩豆』などの豆菓子のまわりを覆っている白い粉は実は胡粉なんですよ」

「ナカガワ胡粉絵具で使われる貝殻は天然のイタボガキだけ。みなさんが召し上がっている牡蠣の1種です。他のメーカーさんではホタテなど他の貝を使うこともあるようですが、ナカガワ胡粉絵具では天然のイタボガキにこだわっています」

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「海から上がってきた貝殻をそのまま使えるかというとそうではない。屋外に積み上げて風化させるために10年以上の年月が必要です。有機物が分解され、チョークのようにもろもろになります。ここからがやっと胡粉の製造がスタートです」

余計なものを取り除いて純粋な貝に

「胡粉の製造はひたすらに精製と粉砕、そして水簸(すいひ)です。とにかく貝殻から不純物を取り除いて粒子を細かくしていくこと。そのためにまず貝車という機械で研磨していきます。ドラム缶のようなものの中に貝殻を入れて、ぐるぐると回す。そうすると中で貝殻同士がガチャガチャと当たって表面の鱗や汚れが取れるというわけです」

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「研磨できたものを人の手で選り分けていきます。やはり海から来たものなので、他の貝殻や石ころなど余分なものが混じっていたり、貝殻にくっついていたり。そういった不純物をハンマーなどを使いながら取り除きます」

粉砕し、粒子を均一に整えていく

「ここからは精製できた貝殻を粉砕して粒子を均一に整えていく作業です。胡粉の粒子の細かさは他の岩絵具と違い、すべて一緒で5ミクロンです。ナカガワ胡粉絵具では6種類の胡粉をつくっていますが、その違いは粒子の細かさではなく原料である貝殻の質によるものです」

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「ハンマーミルやスタンプミルと呼ばれる機械を使って何段階かを経て粉砕していき、最終的に60メッシュの網を通るまで細かくしていきます。この段階で大分粉らしくなってくるのですが、触るとまだジャリジャリとした感覚が残ります」

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「ここからが胡粉づくりの最大の特徴です。宇治茶のように石臼でゴリゴリと挽いていくのですが、お茶やコーヒーと違い、水を加えたウェットな状態で挽いていき、水簸と呼ばれる作業で分級(ぶんきゅう)していきます。水の流れる層をいくつも用意し、粒子の粗いものが沈み、細かいものが隣の層へ送られていく。そうして粒子の大きさによって選り分けていく方法です」

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「例えば、バケツの中に水を入れて、その中に砂と粘土を入れて手でかき回すとする。すると粘土は水に溶けるが、砂は粒子が大きいので下に沈みますよね。それと似たようなことが層内で起こっているんです。胡粉以外にも、砂金を採集する場合や、陶石から粘土を作るときに使われる手法です。この作業を何日もくり返し、最後の沈殿層に沈んだものを汲み上げて乾燥させたものが、私たちの目にする胡粉です」

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純粋な貝だけでできた絵具、胡粉。雛人形の頭(かしら)にも使われているマットな質感は、粒子が細かいので薄く塗っても白く発色する唯一無二の画材だと教えてもらいました。

工房の中はあらゆるものが真っ白になっていました

工房の中はあらゆるものが真っ白になっていました

世界中で愛される日本画絵具メーカー、吉祥へ

次は京都の日本画絵具メーカー 吉祥さんへ。吉祥さんは日本画絵具を専門としながら欧米やアジアを中心に世界20カ国以上で商品を展開するグローバル企業。こちらで新岩絵具の製造工程を見せていただきます。

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天然岩絵具と新岩絵具

「岩絵具には大きく分けて2種類のものがあります。ひとつは天然の良質な鉱物をそのまま粉砕・精製した天然岩絵具。もうひとつは新岩絵具。こちらは新岩と呼ばれる色の塊の原石をつくり、それを天然岩絵具のように粉砕・精製した絵具です。天然岩絵具だけでは色相に限りがあるために、新岩絵具の種類の豊富さは日本画の歴史を変えたとも言われています」

「天然岩絵具も新岩絵具も同様に粒子の粗さによって色味が変わります。粒子が細かいものが明るく白っぽい。さわってみても全然違いますよね。粒子の粗さは5番から13番まで番号がつけられているのですが、その中でいちばん粒子が細かいものは白(びゃく)と呼ばれています」

細かいものは粉状

細かいものは粉状

粗いものは砂のような手触りです

粗いものは砂のような手触りです

新岩から絵具へ

「新岩絵具のもととなる新岩は、フリットと呼ばれるガラス体質に金属酸化物を混合し、700度から1000度の高温で焼成しつくられます。安定した色をだすために、徹底した一定の温度管理が必要です」

粉砕する前の新岩

粉砕する前の新岩

「こうして出来上がった新岩を粉砕し、分級をしていきます。小さく砕いた何度もメッシュに通して粒子の大きさごとに選り分けていく作業ですね。このあたりは胡粉の製造工程と似ていますが、胡粉との違いはさまざまな粒子の大きさごとに製品としているところですね。同じ新岩からできていても粒子の大きさによって色が変わるので、それぞれの活かし方、楽しみ方があります」

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粒子の大きいものがメッシュの上に残ります

粒子の大きいものがメッシュの上に残ります

「何度もふるい分けをしていく中で、大きな粒子は番号の若い絵具に、小さな粒子は13番や白(びゃく)に、などそれぞれの品番へ分級し、乾燥して仕上げていきます」

実は、歴史は明治からだという岩絵具の世界。それまでは胡粉に染料を染めつけて中間色をつくっていたそうですが、明治になり、西洋の油絵が入ってきてから、それに対抗するように生まれた岩絵具はこれからも進化を続けていきそうです。

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色とりどりの絵具が作られていました

色とりどりの絵具が作られていました


岩泉さんにご案内いただいた日本の伝統画材の世界、いかがでしたでしょうか。美術を学ぶ学生やプロのアーティストですらなかなか訪れないという伝統画材の製造現場。想像よりもずっと奥深く、道具をよりよく知ることで創作の可能性も無限に広がっていきそうです。ぜひお店に足を運んで日本の伝統画材に触れてみてください。

伝統画材ラボ「PIGMENT(ピグモン)」の岩泉さんに教えてもらう日本の画材
プロローグ 日本の伝統画材って?
無限の色を持つ、墨
世界の芸術を支える陰の立役者、刷毛


<取材協力>

ナカガワ胡粉絵具株式会社
京都府宇治市菟道池山24番地
0774-23-2266
nakagawa-gofun.co.jp
株式会社 吉祥
京都府京都市南区豊田町5-2
075-672-4532
www.kissho-nihonga.co.jp
画材ラボ PIGMENT
東京都品川区東品川2-5-5 TERRADA Harbor Oneビル 1F
03-5781-9550
pigment.tokyo
文・写真:井上麻那巳
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