さんち 〜工芸と探訪〜

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引き出物を「オーダーメイドの笠間焼」で作ってみました

投稿日: 2019年6月10日
産地: 笠間
編集:
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私事ではございますが、先日、筆者は結婚し、5月に友人を招待して宴会を催しました。どうしたら招待客の皆さんに喜んでもらうことができるのか、特に引き出物をどうしようかと悩みました。できることなら普段使いをしてもらえるようなものにしたい。

いろいろと探しているうちに、引き出物や記念品などをオーダーメイドで受け付けている笠間焼の窯元を見つけました。茨城県笠間市にある向山窯 (こうざんがま) です。ホームページによると、要望と予算に合わせて作っていただけるようです。

焼き物好きの妻に話をしてみたところ、「おもしろそうだから行ってみようか」とのこと。ノリがよいのは妻の長所です。オリジナルデザインを施していただけるというのも、私たちの心をつかみました。

今回は向山窯の増渕浩二社長にお話を伺いつつ、妻と相談しながらどんな引き出物にしようか決めようと思います。

笠間焼の窯元・向山窯の工房にお邪魔しました

笠間焼の窯元・向山窯の工房にお邪魔しました

「ここで焼き物が続けられるのかな」

向山窯社長の増渕浩二さんは1944年生まれ。愛知県瀬戸市にある窯業の学校に進んだ後、近い親戚がいたことから、茨城県笠間の地に降り立ちました。

「昭和20年ころまでの笠間は窯業地といっても甕やすり鉢といった土間で使うものを多く生産していました。明治時代後期から昭和時代初頭くらいまでは隆盛もあったそうですが、私が入ってきた昭和30年ころは衰退の一途を辿っていました。

『ここで焼き物が続けられるのかな』と疑問はありましたが、そのときから『焼き物で生きていこう』と腹を据えて笠間で焼き物を続けてきました」

その後、笠間焼は官民一体となった試行錯誤の上、甕 (かめ) やすり鉢などの粗陶品から食器や日用雑器といった陶器への転換に成功。笠間稲荷などの神社仏閣は多くの観光客を呼び込んでおり、笠間焼も一つの観光資源となりました。東京からも車で2時間弱と、地の利があったのもよく働いたのです。

「ところがバブル崩壊後、リーマンショックから急激に景気が悪化します。消費者の考え方というか生活の構造も変わってきました。今までと同じような笠間焼を売っていても先は見えていました」

向山窯社長の増渕浩二さん

向山窯社長の増渕浩二さん

向山窯を救ったオーダーメイド

高度成長期に各焼き物の産地は、機械生産に舵を切っていきました。しかし、笠間の土は粒子が細かく粘り気があるので、容易に型を抜くことができず、大量生産が難しい。とはいえ土を買ってしまうとコストがかかってしまいます。

唯一、笠間に残ったのは“手作り”でした。そこで増渕さんはオーダーメイドを思いつきました。

「特徴がないのが特徴と言われる笠間焼ですが、私から言えば、笠間は多彩な良さのある産地なのです。定番というものがない分、それぞれの窯が自分の持ち味を出せるのです」

向山窯は、飲食店向け業務用食器や引き出物などのギフト商品などのオーダーメイド製品を販売することで復活することができました。特別なお客様には特別な器を提供することにステータスを感じる人が増えていったのです。

「今は手作りの産地が非常に貴重になりました。一周遅れでトップになったということかもしれません」

「手作りだからこそ、細かい要望に応えられるのです」と話す増渕さん

「手作りだからこそ、細かい要望に応えられるのです」と話す増渕さん

発注ごとに、作り手へ仕事を割り振っていく

さて、向山窯の手作り陶器はどのように作られているのでしょうか。工房内を見学させていただきました。

各作家さんが黙々と作業を進めていきます

各作家さんが黙々と作業を進めていきます

工房では10人以上の作り手が各自の席で黙々と作業を進めていました。

たたらで型を取っている人、ろくろを回している人、成形をしている人、釉薬をかけている人、窯焼きを待つ人。向山窯では作り手それぞれの個性を活かせるように、一人ひとりが独立して作品づくりに取り組んでいます。増渕さんは発注ごとに仕事を割り当てるといいます。

「確かに分業の方が効率はいいです。ただ、社長としては作るものに責任を持ってもらいたい。想いというか魂が含まれますからね。一人が一貫して最後まで仕上げたほうが、表現がブレませんよね。その方が一人ひとりが鍛えられると思うのです」

なぜかぼろぼろのビニール傘‥‥

なぜかぼろぼろのビニール傘‥‥

このへら先はビニール傘の骨を利用して作ったものでした

このへら先はビニール傘の骨を利用して作ったものでした

発注量が多い場合は皆で連携することもありますが、基本的には各作り手が責任をもって手作りで仕上げていきます。

成形された作品たちが窯に入るのを待っています

成形された作品たちが窯に入るのを待っています

個性的な器が並ぶ向山窯のサンプルルーム

つづいて、増渕さんに案内していただいたのはサンプルルームです。

「業務用食器を本格的に取り組むようになってから、サンプルルームを設置しました。元々は私たちの作品の資料館のつもりでした」

サンプルルームには所狭しとざまざまなデザインの器が並んでいます。

個性的なお皿が並ぶサンプルルーム

個性的なお皿が並ぶサンプルルーム

「バイヤーさんや板前さんと話をするときに、サンプルがあると話が早いわけです。板前さんはお皿を眺めながら、どんな料理を載せようかとイメージをします。そうすると皆さん、1、2時間は動きませんね」

このお皿にはどのような料理を載せてみましょうか

このお皿にはどのような料理を載せてみましょうか

今回訪れたの目的は、引き出物をオーダーメイドで頼むこと。私のような料理の素人にとっては、ずらりと並ぶ個性的な器を前に、どうにも決めきれません。砂漠の中から針を探すような気持ちです。

「一般の方は、ここよりもお店の方がイメージが決まるかもしれませんね」

陶器でありながら、薄くて軽い器に一目惚れ

工房から移動して、「向山窯笠間焼プラザ店」に伺いました。

お土産に買いたくなる向山窯直営の笠間焼プラザ店

お土産に買いたくなる向山窯直営の笠間焼プラザ店

どっしりとした風合いのある陶器も並んでいますが、持ってみると意外に薄くて軽いものも多い。戸棚からも取り出しやすそうです。特に向山窯では、フィンランド語で“繊細な陶器”の意味を持つ「へルッカ セラミカ」シリーズを開発。従来の笠間焼から半分ほど薄くて軽い、かつ、シンプルなデザインの商品を推奨品として販売しています。

引き出物は、おつまみや副菜などを載せられるような小さめの器にしようと決めていました。どんな人でも日常使いできそうなものを贈れたらと思ったのです。

増渕さんと相談しながら、夫婦でイメージに近い器を探っていきます

増渕さんと相談しながら、夫婦でイメージに近い器を探っていきます

妻が正方形の器を見つけました。「へルッカ セラミカ」シリーズのひとつ、スクエアプレートです。平皿のようで平皿ではありません。低いながらも高さがあるので煮物を載せても煮汁がこぼれません。2人とも一目ぼれしました。

増渕さんに私たち夫婦が気に入った器の高さを測ってもらいました

増渕さんに私たち夫婦が気に入った器の高さを測ってもらいました。幅15センチ、高さは1.8センチほど

この器にデザインを施してもらいます。

私たち夫婦は沖縄県那覇市にある波上宮(なみのうえぐう)という神社で挙式しました。場所にちなんで波のデザインを入れたい。私はプロ野球「横浜DeNAベイスターズ」のファンなので、星も入れたい。全体的には青い器にしてもらいたい‥‥そんな夫婦の要望を増渕さんにお話しました。

「いいですよ。できますよ」

二つ返事で答えてくれました。

世界にない器を作ってもらう

これからはメールのやり取りをしながら、色や図面のイメージを共有していきます。

例えば、一口に“青”と言っても水色に近い“青”から紺色に近い“青”までさまざまな“青”があります。また、“波”にしても荒波や波打ち際の波などさまざまな“波”があります。私たち夫婦は絵を描くのが下手なので、イメージに合う画像をネットで探して、担当者とデザインの細部を詰めていきました。

後日、見積書を送っていただきスムーズに話が進んでいきます。そして約2か月後、遂に完成品が到着しました。

完成品です

完成品です

到着2日後に宴会を開催。私たちの手から参加者の皆さんに配布。その後、続々と反響をいただきました。

「色合いがいいね」

「今、もらった器にチーズを載せてビール飲んでる」

妻は「皆に喜んでもらってよかったね」と言います。

完成品を見守る増渕さん

完成品を見守る増渕さん

一般的には、引き出物は出来上がった製品の中から選びます。今回はあえてそうせず、自分たちのやりたいことをとことん探ってみることで納得のいくおもてなしができたように感じています。

「周りと違っても、自分たちなりの選択をする」というのは、増渕さんの話に通ずるものがあります。笠間焼や向山窯も、自分たちの信じる一つのことを続けたことで、光明を見出したのだと思います。

オーダーメイドの引き出物を発注することで、人生のヒントを学んだような気がします。

<取材協力>
向山窯
茨城県笠間市笠間2290-4
0296-72-0194

文:梶原誠司
写真:長谷川賢人・梶原誠司

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