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金沢は、漆器なしで語れない。「まちのみんなが目利き」のご当地文化 嫁入り道具に、ピクニックに。「加賀百万石」の漆器の使い方

投稿日: 2018年10月17日
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「金沢はまちの人みんなが目利きなんですよ」

そう語るのは、西村松逸(にしむら・しょういつ)さん。数々の受賞経験をお持ちの、金沢で3代続く蒔絵師です。

石川県金沢市でさまざまな作品を手がけ、地域の漆芸関係者を束ねる金沢漆芸会の会長もつとめます

石川県金沢市でさまざまな作品を手がけ、地域の漆芸関係者を束ねる金沢漆芸会の会長もつとめます

豪華絢爛かつ繊細な「加賀蒔絵」。

蒔絵を施した漆器というと高級品のイメージがあるかもしれませんが、金沢では昔から暮らしのさまざまなシーンで漆器を使う文化が根付いてきました。そしてその文化が、“目利きの力”を養うのに一役買っていたそうです。

今回は西村さんに話をうかがいながら、金沢の知られざる漆器文化をご紹介します。

前田家が生んだ金沢の美「加賀蒔絵」

まずは簡単に加賀蒔絵についておさらいを。

江戸時代、加賀藩主の前田利常が京都から名だたる蒔絵師を呼び、技術振興に力を入れたことによって、技術が確立していった加賀蒔絵。

もともとはお殿様が集めた文書などを収納する箱に蒔絵の箱を用いたのがはじまりでした。そこから数々の調度品に蒔絵が施されるようになったそうです。

日本各地の漆工芸のなかでも群を抜いていると言われている、豪華絢爛で繊細な加賀蒔絵

「例えば弓矢の羽のコレクションをいれるための箪笥や刀の小柄 (こづか) をしまうための箱など、お殿様や大名といった特権階級の人だけが使うものに施される装飾だったんです」と西村さん。

これが近世になると、加賀蒔絵は茶道具をはじめ、庶民の道具にも取り入れられるようになっていきました。

嫁入り道具に欠かせない加賀蒔絵のお重と「セイロ」

「金沢では各家庭にお重やお盆があり、それぞれに蒔絵が施されています。特に女の子が結婚すると、昔から嫁入り道具としてお重を持っていく文化があり、家紋がついたものから豪華な蒔絵が入ったものまで、その家によってさまざまなものがつくられていました」

嫁入り道具として各家庭で作られたお重(清瀬一光作/写真提供:株式会社能作)

また、昔は結婚する時に「五色饅頭」という和菓子をお重に入れ、親戚や近所に配るのが金沢の風習だったそう。

「日・月・山・海・里」の天地の恵みを表した五色饅頭は、婚礼に欠かせない祝い菓子のひとつ(写真提供:金沢市)

「当日、饅頭が届くとそのお重に入れて近所や親戚などに配ります。もちろんお重はその都度返してもらうのですが、五色饅頭を受け取った家ではお重の美しさも観賞するため、『女の子が生まれたら、ちゃんとしたお重を作らないと!』と親御さんは気合が入ったものです(笑)

他にも、結婚式が近づくと、漆塗りの『セイロ』と呼ばれる箱が家の前に積まれます。五色饅頭を作る菓子屋の屋号が入った大きな箱で、『もうすぐ婚礼がありますよ』と近隣の人に知らせる合図のようなものなんですね」

このように、家の中やまちなかでも漆器に触れる機会が多く、金沢の人たちは見ることも見られることにも慣れているのだか。

「加賀百万石というと豪華絢爛なイメージがあるかもしれませんが、そこで生まれた文化はまちの日常の中に、さりげなく息づいています。

普段から見たり見られたりするなかで、蒔絵一つとってもそのさじ加減を見極めることができるようになる。まちの人たちが目利きとなり、つくり手もそれに見合うようなものを作ってきた、これが金沢の工芸を支えてきた一番大きな力だと思います」

漆器でピクニック!?使うことで活きる漆器の良さ

次に西村さんに見せていただいたのは、なんと、漆器のピクニックボックス。4段のお重に取り皿、さらに徳利や盃も入るようになっている、大変珍しいものです。

今から約400年前につくられたという漆器のピクニックボックス

「これは安土桃山時代から江戸時代の初期につくられたものです。外に持ち出すことが前提なので蒔絵も簡素ですが、使う人のことを考えたつくりになっていて、とても気に入っています」

よく見ると、取っ手が当たる部分に突起があり、漆器が痛まないような工夫がされています

なんと、このピクニックボックスを使って、実際に外でお茶会と酒宴を開いた西村さん。その時同席した方に「器が喜んでいる!」と言われたのが、とても印象的だったと言います。

一般社団法人 ザ・クリエイション・オブ・ジャパンが昨年開催した「工芸ピクニック」での一コマ。食材を入れることで漆器も映えます

一般社団法人 ザ・クリエイション・オブ・ジャパンが昨年開催した「工芸ピクニック」での一コマ。食材を入れることで漆器も映えます

「漆器はやはり使い続けることで、その美しさも価値も、高まるのだと実感しました。江戸時代初期の頃までは、蒔絵はこのピクニックボックスのような豊かで大らかな作品が多かったのですが、技術が確立していくことで、次第に見た目重視なものが多くなっていきました。

漆器は手袋をして扱うようなイメージもありますが、本来、漆のお重や箱は使うためにつくられたもののはず。なんだか本末転倒ですよね。

工芸が生活や暮らしから離れて『観賞するもの』になりつつあるのが、一番の課題だと感じています」

お酒を美味しくする?「金沢盃」で漆器をもっと日常に

漆器をさまざまなシーンで楽しんでもらうため、西村さんは新しい取り組みも始めています。近年では金沢で漆工芸に携わる作家さんたちと「金沢盃(かなざわさかずき)」という酒器をつくりました。

「金沢盃」(西村松逸作/写真提供:金沢漆芸会)

「素地は木なので外側の熱が伝わりにくく、冷酒は冷たいまま、熱燗は温かいまま楽しめます。表面は漆なので口当たりが優しくなり、驚くほどお酒もまろやかになります。同じお酒でも全く味わいが変わるんですよ。

また、お酒を注ぐと内側の金がキラキラと揺れたりして、盃の表情の変化も楽しめます。今まで漆器に馴染みがなかった方もぜひ試していただきたいです」

同じ型でも可飾する人が違うと雰囲気がガラッと変わります。より多くの人に触れてもらうため、無償貸し出しも行いました(現在は終了)(写真提供:金沢漆芸会)

同じ型でも可飾する人が違うと雰囲気がガラッと変わります。より多くの人に触れてもらうため、無償貸し出しも行いました(現在は終了)(写真提供:金沢漆芸会)

使い続けることで、使う人の目が養われ、ものづくりの技術も発展していく。工芸大国・金沢は、こうして受け継がれてきたようです。

しかし、今でこそ金沢漆芸の旗手である西村さんですが、ある時期までは「この仕事は絶対に継がない」と心に決めていたそうです。

一体、現代を代表する名工に何があったのか。

次回、西村さんの半生を伺いながら、伝統を継ぐことの「リアル」を追いたいと思います。息をのむような美しい作品にもご注目ください。

文:石原藍
写真:石原藍、金沢市、金沢漆芸会、株式会社能作
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