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日本刀の原料は人にしか作れない。超高純度の鋼「玉鋼」の製法とは

投稿日: 2018年9月22日
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舞台化やアニメ化もされた大人気オンラインゲーム『刀剣乱舞』の影響もあってか、日本の名刀の名前を知る人も増えていると言います。

かつての戦いの道具でありながら、刃物の機能性と美しさを併せ持つ日本刀。現在も美術品として作り続けられています。

日本刀

今日は、日本刀に欠かせない原料「玉鋼 (たまはがね) 」をめぐる、熱き話をお届けします。

(※関連記事)
日本刀の原料となる玉鋼とは?
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原料が作れない!日本刀を襲った危機

今でこそ重要無形文化財として保護され、受け継がれる日本刀とその制作技術ですが、戦後、存続の危機に陥ったことがありました。

日本刀を作るには「玉鋼 (たまはがね) 」という純度の高い鋼が必要不可欠です。玉鋼は日本古来の「たたら製鉄」の技術でのみ製造できるもの。

この技術は、古墳時代以降、1000年以の年月をかけて研究され江戸時代に「近世たたら」として完成されたと言われています。

明治期以降、近代工業化が進む中で大量生産の技術に押され、大正期にあえなく途絶えます。その後、戦時中に軍刀を造るために復活しますが、終戦時には完全に廃業。蓄えていた玉鋼も底をついてしまったのです。

新しい科学技術で代替原料を作ろうと、当時の通産省や大手企業が取り組みますが、同等の品質をもつ原料は生み出せませんでした。

たたらに再び炎をともす

そこで立ち上がったのが、公益財団法人 日本美術刀剣保存協会 (日刀保) 。

日立金属株式会社の技術協力を得て、戦時中に操業した「靖国たたら」の地下構造を利用して、1972年、島根県奥出雲町大呂 (おおろ) で「日刀保たたら」の名でたたら操業を復活させる取り組みが始まりました。

たたら場の入り口。しめ縄がされ、奥には製鉄の神様「金屋子神 (かなやごかみ) 」さまが祀られている

たたら場の入り口。しめ縄がされ、奥には製鉄の神様「金屋子神 (かなやごかみ) 」さまが祀られている

「たたら場」と聞くと、映画「もののけ姫」を思い出す方も多いのではないでしょうか。実際のたたら場も、映画のシーンと同じく炎の燃え盛る炉を前にして直接砂鉄を加えたり、ハードな環境で精錬状況を判断しながら人の力で操業します。

設備だけでなく、炎や原料の反応をコントロールする技術なくして、たたらは操業できません。

ここで大きな役割を担ったのが、松江藩の鉄師を勤めた卜蔵家で働き、戦時中は靖国たたらで技師長である「村下 (むらげ) 」を勤めた名匠、故・安部由蔵 (あべ・よしぞう) さんと、故・久村歓治 (くむら・かんじ) さん。

それまでは一子相伝で伝えられてきた村下の秘技を、日刀保たたら復活のために惜しみなく提供しました。そして1977年、遂に日刀保たたらでの操業を成功させ、玉鋼を生み出すことに成功します。

この時すでに70代半ばであった安部村下。その後も90歳までたたら場で先頭に立ち、玉鋼作りと次世代の村下養成に尽力されました。

「日刀保たたら」を訪ねて奥出雲へ!

復活と同時に、文化財保護法の選定保存技術にも選定された、たたら製鉄。現在も、刀匠に玉鋼を安定供給すると同時に、玉鋼の製造と伝統技術の伝承、技術者の養成を日刀保たたらが担っています。

現在は、先代の技術と思いを受け継いだ木原明 (きはら・あきら) 村下、渡部勝彦 (わたなべ・かつひこ) 村下の2名と、全国から選ばれた村下養成員12名が技術を支えています。

これはぜひお話を伺いたい!と、奥出雲の日刀保たたらを訪れ、村下の木原さんにお話を伺ってまいりました。

1976年から日刀保たたらの操業に携わり、1986年、国の選定保存技術者に認定され村下となった木原さん。41年間たたら場に立ち続け、現在も先頭で操業を取り仕切り、技術者の養成も担っています

1976年から日刀保たたらの操業に携わり、1986年、国の選定保存技術者に認定され村下となった木原さん。41年間たたら場に立ち続け、現在も先頭で操業を取り仕切り、技術者の養成も担っています

『折れず、曲がらず、よく切れる』。日本刀は「玉鋼」でなければ作れない?

灼熱の炎が燃え盛る高温の部屋の中で、三日三晩不眠不休で続けるたたら操業。

土でできた炉も化学反応を起こす材料であり、最後は壊して中身を取り出すため、たたら操業は一度始めると途中で止めたり、やり直したりができません。肉体的な疲労はもちろんのこと、全身の神経を集中させて炎や原料の状態を的確に判断し、対応し続ける精神力を保つことは相当過酷なこと。想像するだけでもクラクラとして倒れそうです。

科学技術が発達した今なお、この方法でしか玉鋼を作ることはできないといいます。現代の技術をしのぐ精錬技術、そして玉鋼の品質とはどんなものなのでしょうか。過去の検証データを拝見しながら、木原さんに直接教えていただきました。

——— 日本刀は玉鋼でなければ作れないと伺いました。玉鋼と他の素材の違い、優れている点について教えてください。

「日本刀は『折れず、曲がらず、よく切れる』ことが求められます。この強靭な刀身を作るには、鋼に含まれる成分のバランスが重要です。多すぎても、少なすぎてもいけません。

たとえば、高級な茶の湯の釜などに使われる和銑 (わずく) は、4パーセントほどの炭素含有量。低い温度で溶けるので鋳造に向いています。一方で、玉鋼の炭素含有量は1.2パーセント前後。

これは、高温で鍛錬 (たんれん。叩いて伸ばしては折り曲げて重ね合わせ、叩いて1枚にするを繰り返して金属を打ち鍛える工程) して炭素量を減少させながら作りあげる日本刀に適しています。日本刀は、熱した玉鋼の両面を交互に15回ほど鍛錬し、3万ほどの層が重なりあった状態に仕上げていきます。

繰り返し鍛錬すると次第に炭素量が下っていき、仕上がり時は0.7パーセント前後の炭素量となっています。データを取る技術のなかった過去の時代の日本刀を分析しても近い数値が現れます。長年認められ続けているベストな状態ということですね。

この炭素量に整うと、先ほどの『折れず、曲がらず、よく切れる』を備えた刀身となっています。また、地肌の文様などの美しさにおいても優れた状態となります」

——— 成分のバランスのコントロール。素人考えなのですが、現代の技術で機械化して作れないものなのでしょうか?

「実は、これまでに先端技術を取り入れようと様々な実験が行われましたが、実現されていません。特殊鋼の研究をしている日立金属では、以前『新玉鋼』というものを開発しました。成分量が玉鋼と同じになるように調整されたものです。

これを使って日本刀を作ってみましたが、残念ながら鍛錬に耐えることができず途中で折れてしまったり、炭素量が足りず脆い仕上がりとなってしまいました。

たたら製鉄の玉鋼は半溶融 (はんようゆ) という、炭素が均一に溶けきっていない状態になっています。炭素の量が不均一であることが、鍛錬に耐えて美しく仕上がる理由であると現代の研究でわかっています。機械では、この絶妙なムラのある状態を作ることができません」

一度の操業でできる鉧 (けら。粗鋼の塊) の中に3分の2程度含まれる玉鋼

一度の操業でできる鉧 (けら。粗鋼の塊) の中に3分の2程度含まれる玉鋼

純度を高めながら精錬される「玉鋼」

「また、一般的な製鉄とたたらとでは精錬方法が違うために、鋼の純度が異なり品質に影響しています。

たたらでは、砂鉄と木炭を使って低い温度でゆっくりと時間をかけて砂鉄を還元して鉄を作ります。その間に不純物が溶けて出ていくので自ずと純度が高くなるのです」

炉の中から不純物の塊「鉄滓」を掻き出しているところ

炉の中でできた不純物の塊を掻き出しているところ

「一方、現代の溶鉱炉では、鉄鉱石とコークス (石炭の炭素部分だけを残した燃料) を使って高温で一気に鉄を作ります。

鉄鉱石や石炭には、鉄を弱くする不純物が多く含まれているので、出来上がった鉄を再精錬する必要があります。最終的に仕上がった素材同士を比較しても、玉鋼のほうが純度が高いという結果が出ています。

機械で作る場合に対して、一度に作れる玉鋼の量はかなり少なく手間もかかります。それでも、日本刀には玉鋼のほうが適しているんです」

——— 「低温でじっくりと純度を高めながら作る玉鋼の製法」と、「高温で一気に作り、あとから不純物を取り除く現代の製鉄」という違いがあるのですね。

「生き物」を育てるように。玉鋼はこうして生まれる

——— VTRでたたら操業の様子を拝見したのですが、生き物を扱うような向き合い方をされているように感じました。手間がかかるというお話もありましたが、機械では作れない玉鋼づくりの様子、もう少し詳しく教えていただけますか。

「たたらの操業は湿度の低い冬の間ですが、それ以外の季節に原料を吟味します。自分たちで責任を持って準備をして操業を迎えます。

『一土、二風、三村下』という、土と風の重要性をといた言葉があります。炉づくりと釜土の選定がたたらの成否を握っていると言われます。

炉の土には、砂鉄と反応して不純物の塊を作り外に出す、そうして溶けてでき空間に鋼を生長させていく、という重要な役割があります。そして火力を上げて温度を高めるための送風も重要です。

熱くなった木炭の入った炉に、上から砂鉄を投入して反応させていき、炉の底に精錬された鉄の塊である鉧 (けら。玉鋼を含む鋼の塊) を生み出します。

量やタイミング、入れる位置までも見極めながら砂鉄を投入する木原村下

量やタイミング、入れる位置までも見極めながら砂鉄を投入する木原村下

砂鉄の約3分の2ほどを鉧にして、あとの約3分の1は砂鉄のまま下に落として釜土と反応させる。このバランスを取らないと鉧は生長していきません。1時間に数ミリずつ炉壁を侵食しながら広がる鉧は、最終的に幅1.2メートルほどまでになります。

生き物を育てるように、少しずつ炉壁を侵食しながら形が変わるものを作り上げて行くところにたたらの難しさがあります」

砂鉄の声、『しじれる』音に耳をすます

——— 鉧を育てるために、炭や砂鉄を投入したり、風を送ったり。そのタイミングや量は、どんなところを見て判断されているのでしょう。

「まずは、変化する炎の色を見ています。外から見える色だけでなく、ホドと呼ばれる空気を送り込む穴が炉の両側に40本ついています。このホドそれぞれが別の溶鉱炉と思い覗き込み、細かく状態を確認します」

——— 穴から炎を間近に覗き込む‥‥。とても熱そうです。

「もちろんすごく熱いですよ (笑) でも、しっかり確認して状態を把握しないと良い玉鋼は作れません。

また、ホドから鉄の棒を入れて鉧に触れて感触から大きさや状態を確かめたり、炉内に入る風の音、砂鉄の音に耳をすませます。砂鉄の反応する音を『しじれる』と私たちは呼びます。ジジジという音の状態も判断材料です。

炉内の場所によって状態も異なるので各所で起こっている複雑な製鋼反応を把握し、各所に必要な送風や砂鉄の量などを判断します。全身で集中して、感覚を研ぎ澄ませて向き合っています」

窯崩し

最後は釜を崩し、鉧を取り出します

出来上がった巨大な鉧を引き出します

出来上がった巨大な鉧を引き出します

「誠実は美鋼を生む」村下に必要な精神性

——— 全身の感覚を研ぎ澄まして、繊細な変化に注意を払い対応する。人間の細やかさが必要なのですね。三日三晩を通して作業を続け、集中し続けるのは並大抵のことではないと思います。

「五感を働かせるための集中力が重要です。私たちにこの技術を継承してくださった、安部村下には『最後は根性でやりきれ』と教わりました」

——— まさに、根性!ですね。たたら操業に携わり始めた頃、それまでのお仕事とは異なる世界に戸惑いやギャップは感じなかったのでしょうか。

「とにかく当時は、たたらを復活させるんだ!という使命感に燃えていました。期待に答えたいという気持ちもありました。だから苦しいとか辛いとか、ギャップを感じる事はなかったですね。

そして何より、先代の村下である、安部さんの存在が大きかった。その頃すでに75歳だった安部村下が、三昼夜通して一睡もせずやり遂げる姿に圧倒されました。

安部村下はハードな操業の真っ最中ですら、素人同然の私たちの質問に答え、丁寧に技術を伝えてくださいました。ご自分が教えられるうちに一刻も早く後継者を養成しようという思いがひしひしと伝わってきました。

後継者を育てる立場になった今、安部村下から教わったことを忠実に伝えていけるよう受け継いだものを操業に生かし、次の世代に届けていくことが私たちの使命だと思っています」

自分に厳しく、心身を鍛えねばと、毎朝上半身裸で走り、バーベルを上げ、たたらの神様である「金屋子神 (かなやごかみ) 」さまにお参りをしたという木原さん。取材時には、時間をかけて丁寧に質問に答えてくださり、その実直で誠実なお人柄が伺えました。

現在も、朝夕のお参りは欠かさない木原さん

現在も、朝夕のお参りは欠かさない木原さん

「『誠実は美鋼を生む』という言葉があるのですが、私はこの言葉がとても好きです。誠実さあってこその美しい鋼。たたら操業で玉鋼と向き合うときも、上司や仲間との関係性においても大切にしたいことです」

1000年を超える歳月をかけて研究され、受け継がれてきた日本のたたら技術。今も出雲の地で、熱い想いとともに現役の技術として生き続けています。

<取材協力>
公益財団法人 日本美術刀剣保存協会

文・写真:小俣荘子
(たたら操業写真提供:公益財団法人 日本美術刀剣保存協会)
※こちらは、2017年10月29日の記事を再編集して公開しました
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