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人間国宝の愛した「花赤」という絵具 有田 辻絵具店の色づくり

投稿日: 2018年10月27日
産地:
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有田焼、京焼・清水焼、九谷焼‥‥焼き物の美しい絵付けになくてはならない、和絵具 (わえのぐ)。

陶芸で使う和絵具は、焼成によって発色するので、焼きあがって窯から出てくるまで仕上がりの色は明らかになりません。陶芸家の腕と絵具の相性があって、はじめて納得するものができ上がるといわれます。

それぞれの窯元がこだわりを持って使う絵具はどのように作られているのでしょうか。

瓶の中のグレー味のある絵具が焼きあがると、皿の上の緑色となる。 (色名は「濃青」)

瓶の中のグレー味のある絵具が焼きあがると、皿の上の緑色に (色名は「濃青」) 。仕上がりを想像するのは難しいですね

人間国宝も愛用した赤絵具を生んだ、辻絵具店

訪ねたのは、江戸時代から佐賀県有田町で絵付けを支えてきた辻絵具店。

ほのかな赤から力強い赤までを自在に表現できる「花赤 (はなあか) 」。江戸時代に生まれたこの絵具を、今も作り続けています。

江戸時代、藩から許可を得た、有田における上絵付け専門職「赤絵屋」16軒が立ち並んだ佐賀県有田町赤絵町。その一つであった辻絵具店は今もこの地に店を構えています

江戸時代、鍋島藩から選ばれた有田の上絵付け専門職「赤絵屋16軒」が立ち並んだ佐賀県有田町赤絵町。その一つであった辻絵具店は今もこの地に店を構えています

辻絵具店は、明治維新後も絵具の改良をはかり、独自の唐石 (とうせき=絵具の基材) を発明します。

この唐石で作った赤絵具の美しさが評判を呼び、色絵磁器の人間国宝・故富本憲吉 (とみもと けんきち) 氏にも信頼され、数々の名作誕生になくてはならない色を生み出してきました。

現店主の辻昇楽 (つじ しょうがく) さんは、色づくりに加え、文化庁の国宝・重要文化財保存整備事業による全国の作陶技術の研究を行い、陶芸界で唯一の選定保存技術保持者にも認定された方。

辻さんに、色づくりのこと、江戸時代から陶芸家に愛され続ける赤絵具「花赤」のこと、詳しく教えていただきました。

店主の辻昇楽 (つじ しょうがく) さん

店主の辻昇楽 (つじ しょうがく) さん

「和絵具」と「洋絵具」の違いって?

そもそも、和絵具とは何なのでしょうか。

「陶芸の絵付では、透明なガラス粉に着色剤を混ぜ合わせ、発色させて使います。

和絵具は、酸化金属をガラスの粉末に混ぜて発色させます。『ガラスの中に溶かし込む』ので透明感が出るのが特徴です。有田、京都、九谷がよく使います」

和絵具で絵付した皿。葉の緑色の下に黒で描かれた葉脈が透けて見えるのは和絵具ならでは

和絵具で絵付した皿。葉の緑色の下に黒で描かれた葉脈が透けて見えるのは和絵具ならでは

「洋絵具は合成顔料を使います。ビビッドでカラフルなものが多い。混ぜるガラス粉は生地に定着させる分だけの最小限、そのため不透明な仕上がりです。洋食器、マイセンなどでよく使われます。

マイセンでは日本の『ぼかし』を取り入れた絵柄もありますが、和絵具ほどの薄い色合いではありません」

洋絵具の色見本皿。和絵具とは異なり鮮やかな発色と透けない濃さが特徴

洋絵具の色見本皿。和絵具とは異なりはっきりとした色と透けない濃さが特徴

和絵具は焼きあがるまで色の想像がつきませんね

和絵具の瓶。どの色も似通って見えて、焼成後の色の想像がつきませんね

洋絵具は、焼成前から色がはっきりしています (左側の棚)

洋絵具は、焼成前から色がはっきりしています (左側の棚)

発色へのこだわりから生まれた「唐石」

顔料と混ぜ合わせるガラスのことを「唐石」といいます。絵具を生地に定着させる材料です。和絵具ではガラスの配合量が多いので、陶石の質が仕上がりへ大きく影響し、発色を左右します。

現代では、量産されているものを購入して使うことが一般的ですが、辻絵具店では明治時代に開発した独自レシピの唐石を使い続けています。

辻家伝来の「辻唐石」。粉砕しやすいようにもろく作ります。ドロドロに溶かしたガラスを水の中に浸して冷まします。一気に冷えたガラスは気泡と貫入(かんにゅう =細かいヒビ) がたくさん入って白濁します

辻家伝来の「辻唐石」。粉砕しやすいようにもろく作ります。ドロドロに溶かしたガラスを水の中に浸して冷まします。一気に冷えたガラスは気泡と貫入(かんにゅう =細かいヒビ) がたくさん入って白濁します

唐石を細かく砕いたもの。右の荒いものよりさらに細かくした左の方が白く見える。顔料同様に唐石も細かくすることで、顔料の色味を邪魔することなく鮮やかな発色を支えてくれるのだそう

唐石を細かく砕いたもの。右のものをさらに細かくした左の方が白く見える。顔料同様に唐石も細かくすることで、顔料の色味を邪魔することなく鮮やかな発色を支えてくれるのだそう

10年かけて作られる「花赤」

江戸時代に作り出され、現在も多くの作家に愛され続けている絵具「花赤」。

花赤による絵付。ほのかな赤から、力強い濃厚な赤まで自在な「ぼかし」が描ける

花赤による絵付。ほのかな赤から、力強い濃厚な赤まで自在な「ぼかし」が描ける

職人の筆さばきが生きる絵具として知られています。粒子がナノレベルの細かさであることで、繊細で美しい濃淡のグラデーションを生み出せるのだそう。

「粒子のサイズが100ナノメートルの時、酸化鉄がもっとも明るく発色する状態と言われます。この状態にするために水に浸け、毎日上澄み液を入れ替えて、10年ほどかけて粒子を細かくしていきます。

水簸 (すいひ) と呼ばれる技法で、水を使って起こす風化現象 (岩石が長いあいだ空気にさらされてくずれ、土になる現象) を利用しています」

水簸中の「花赤」。赤の酸化鉄「ベンガラ」の粒子が細かくなって水の底に沈殿しています

水簸中の「花赤」。赤の顔料となる酸化鉄「ベンガラ」の粒子が細かくなって水の底に沈殿しています

「実は、このやり方でなく機械で擦り潰しても、ナノサイズの粒子を作ることはできるのですが、潰している間に道具から削れた不純物が入り混んでしまうと発色が変わってくるのです。

原料はとにかく純度が大切。水も、水道水より交ざり物が少ない井戸水を使うなど、できる限りこだわっています」

10年かけてでき上がった花赤

10年かけてでき上がった花赤

「めんどうでも、やはりこの方がきれいな色ができるんですよね。だから続けています」

混ぜては焼くを繰り返す、「求める色」が生まれるまで

辻絵具店には、受け継いできた色を守るだけでなく、新たな色づくりの依頼も日々舞い込みます。

老舗窯元から若手作家まで幅広い相談があり、求められる色も様々。依頼主が思い描く色は、でき上がるまで目に見えません。イメージの見本を用意してもらったり、なんどもやりとりして作り上げていくのだそう。

色見本として辻家が預かったもの。極力色むらを作らない仕上がりを望んだ近藤悠三氏の赤 (左) 、色の重なり合いが表現できる仕上がりを求めた富本憲吉氏の赤 (右) 。同じ赤でも、人間国宝両氏が求めるものはそれぞれ異なっていたことが伺えます

色見本として辻家が預かったもの。極力色むらを作らない仕上がりを望んだ近藤悠三氏の赤 (左) 、色の重なり合いが表現できる仕上がりを求めた富本憲吉氏の赤 (右) 。同じ赤でも、人間国宝両氏が求めるものはそれぞれの異なっていたことが伺えます

「焼き物は、土、釉薬、絵具の三層になっています。それぞれが熱で膨張します。その膨張度合いがぴたりと合わないと、貫入(かんにゅう =細かいヒビ)が入ったりめくれ落ちる。

そこを唐石の調合によって膨張率をコントロールした上で、色合わせをしていきます。基礎と色合いの調合の2段階。大変です。でも、それで喜んでもらえると嬉しいよね」

辻さんは、清水焼の職人として働いていたこともあり、現在も作陶を続けています。焼き物のこと、色のこと、両方の視点から考えて色づくりをしているのだそう。

焼きあがるまで色がわからない和絵具。可能な限り実際の状態に近づけるため、依頼主が使う生地を預かり、その生地に色を乗せ、店の窯で試作します。ある程度納得できたところで、実際の窯で焼いてもらい仕上がりを確認します。

依頼者である清水焼作家の生地の上に試作した色を付けて焼き上げ、仕上がりを比べる。「焦げ茶」が欲しいというオーダーに対して19種類の色を提案した時のもの。こうした中間色を出すのが難しいのだそう

依頼者である清水焼作家の生地の上に試作した色を付けて焼き上げ、仕上がりを比べる。「焦げ茶」が欲しいというオーダーに対して19種類の色を提案した時のもの。こうした中間色を出すのが難しいのだそう

「若い頃に担当した、源右衛門窯の『緑』では、137種類の緑を作りました。丸一年の試行錯誤でした。

窯の大きさによって熱の上がる速度も異なるのでガラスの溶け具合も違う。窯によって癖があるので、こちらの窯で合わせても向こうの窯で焼くと違う仕上がりになってしまう。そのことを実感を持って学ばせてもらう機会でした。調合した色は全てデータを残しています。この時の経験が今に生きています」

源右衛門窯の茶碗

源右衛門窯の茶碗

「色づくりには、基本となる色と、時代が求める色があります。

明治期には鮮やかな発色の合成顔料が海外からたくさん入ってきて、ビビッドな色も増えました。バブル景気の頃は特殊な色が求められることも多くありました。昔の資料を引っ張り出してきてみたりして、様々な色に挑戦しました。

だけど、僕はやっぱり純粋な和絵具が好きなんです。できるだけ合成顔料を使わず、自然素材だけの原始的な色づくりに挑戦し続けたいと思っています」

店内に展示されている辻さんの作品。花赤の美しい色が白生地に映えます

店内に展示されている辻さんの作品。花赤の美しい色が白生地に映えます

手をかけて、時間をかけてでき上がった純度の高い原料、作り手の環境を考えて繰り返す試作、細かく色のデータを残し日々続けられる研究。焼き上がるまで結果が見えない色の世界。数々の調整と試行錯誤を経て、理想の色がやっと生み出されます。

美しい焼き物が生まれる舞台裏。色づくりの世界もとても奥深いものでした。

<取材協力>
辻絵具店
佐賀県西松浦郡有田町赤絵町1-2-1
0955-42-3474

※辻絵具店の「辻」の字は、正しくは「しんにょうの点1つ」です。お使いのブラウザにより異なる表示の場合があります。 文・写真 : 小俣荘子 こちらは、2018年2月18日の記事を再編集して公開しました。
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