さんち 〜工芸と探訪〜

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厳島神社から新年へ羽ばたく干支の張り子

産地: 広島
投稿日: 2016年12月30日
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こんにちは、さんち編集部の庄司賢吾です。
もう2つ寝るといよいよお正月、酉年の幕開けですね。酉は古くから伊勢神宮の神の使いとされていて、また「とりこむ」という意味合いで、たくさんの幸運や福をとりこむという縁起の良い干支でもあるそうです。
そんな酉年に向けて、皆さんもう新年への準備は万端でしょうか。
私事ですが、毎年お正月に家で飾るための「干支の張り子」を集めています。あの独特な質感とカラフルな色合いが可愛く、新年を華やかに彩ってくれるので、気づけば毎年買ってしまっています。来年のために下調べをしていると、酉の張り子を数多くつくっている、とても気になる産地を見つけました。
その名も「宮島張り子」。その可愛らしさに一目惚れし、厳島神社のほど近くの1つの工房だけでつくられているというその張り子を求めて、広島県は宮島を訪ねました。

鳥と暮らす島、宮島

宮島口からフェリーに乗り、肌をなでる海風に吹かれながら揺られること15分。途中気持ちよさそうに飛んでいる鳥たちとすれ違いながら、平日にも関わらず観光客で賑わう宮島に到着しました。世界遺産に登録されて以来外国人観光客も増え、島の風景もがらりと変わったということ。商店街に並ぶもみじ饅頭や牡蠣の串焼きの香りに後ろ髪を引かれながら、逸る気持ちを抑えつつ宮島張り子の工房に急ぎます。
「はるばる宮島まで良く来たねぇ」
晴れやかな宮島の気候のように温かく迎えてくれた田中司郎さんは、この工房で40年間宮島張り子をつくり続けています。

干支の張り子の絵付けでお忙しいのに快く迎えてくださった田中さん。

干支の張り子の絵付けでお忙しいのに快く迎えてくださった田中さん。

元々宮島は「神の島」として、神職や僧侶ですら島に渡るのは祭祀の時のみで、人が住み始めたのは鎌倉末期頃になるそうです。江戸時代には収穫を祝い子孫繁栄を祈る「亥の子(いのこ)祭り」が行われていて、そこで使う飾り面としてすでに張り子がつくられていたと伝えられています。
「ここの張り子全体の6割以上が鳥でね。それで1ヶ月に鳥だけで300個ほど出ますね。今年は特に来年の干支が酉なので、干支分だけで1000個も注文が来てます」
その言葉通り、工房の中には鳥の張り子がずらりと飾られています。その丸みを帯びたフォルムやカラフルな色使いに心躍ってしまいます。

個性溢れる張り子たち、あなたはどの張り子がお好きですか?

個性溢れる張り子たち、あなたはどの張り子がお好きですか?

そもそもなぜ鳥のモチーフが多いのでしょうか?
「瀬戸内は元々温暖で、鳥が多く住んでるんです。ヤマガラ、ツクシガモ、ウグイス、オオルリ…。その子らをモチーフにしてつくっているうちに、宮島張り子=鳥っていうイメージが定着したんだと思います」
宮島は鳥が住む島として有数の島で、周囲30kmの小さな島の中で山地から水辺、市街地に住む鳥の種類の多くが見られることは、全国的に見ても稀だそう。それは宮島に、人の手が入っていない原始林があり、豊かな水に恵まれ、鳥の住み易い環境が整っているからに他なりません。古くから宮島では人と鳥との生活が近く、そのために特産品のモチーフとしても鳥が多く見られるということです。

40年以上前に一番最初につくったという鶏(にわとり)。

40年以上前に一番最初につくったという鶏(にわとり)。

「それに、鳥ってカラフルで可愛くデザインできるから、やっぱり売れるんだよね。だから鳥ばっかりつくってる」と言って、田中さんは朗らかに笑っていました。商いとして成立したのは始めて10年になってからやっとということで、宮島張り子を守り続けるためにも売れるデザインを今でも試行錯誤して模索しているということです。

「一番人気はフクロウ。『不苦労』ということで縁起物として根強い人気があって、フクロウだけで10種類も出してます」
宮島にはアオバズクというフクロウが住んでいて、緑色に山が染まる5月頃に丘と丘とで「ホッホウ、ホッホウ」と鳴きっこしている様子が見られるようです。デザインも可愛く縁起物となれば、フクロウの人気が出るのも当然ですね。

実際に宮島に住んでいるというアオバズクもカラフルに。

実際に宮島に住んでいるというアオバズクもカラフルに。

とある有名な観光ガイドブックで紹介されて以来、宮島のお土産としてもフクロウ張り子は人気者になっています。どこかで見たことがあると思ったら、広島旅行の際に見たガイドブックにその可愛いデザインを見つけたことを思い出しました。

この色合いのフクロウ、旅行ガイドブックで見たことありませんか?

この色合いのフクロウ、旅行ガイドブックで見たことありませんか?

一味違う、宮島張り子

普通の張り子は木型に紙を貼り重ねながら形をつくるところを、宮島張り子は土人形と同じつくり方をします。つまり、型の外側ではなく、内側に紙を貼ってつくる手法です。まずは片方ずつ石膏(せっこう)型をつくって内側に和紙やクラフト紙を貼りつけ、パーライトという軽い素材も混ぜながら固めていきます。逆側の型でも同じことを繰り返し、最後に1つに合わせることで完成です。
木型は外側に向けて紙を貼ってつくっていくために細かい部分の表現が出にくいのに対して、表面の紙を残して内側につくっていく宮島張り子は、線でもでこぼこでも細部の形状を残し易いのが特徴です。また、型の外側に貼るなら和紙が良いとのことですが、内側に貼る際には濡れてもパリッとした感じが残るクラフト紙の方がズレずに貼り易く適しているそうで、独特な質感はその違いからも生まれているようです。

土人形と同じ手法でつくられるという宮島張り子。

土人形と同じ手法でつくられるという宮島張り子。

「ちょうど酉の絵付けの追い込みをしてるところなんです」ということで、その様子を見させていただきました。

絵付けの順番を今か今かと並んで待ちます。

絵付けの順番を今か今かと並んで待ちます。

デザインのアイディアは画用紙にまとめられていて、この絵だけでも鮮やかで可愛く家に飾りたいほど。紙に色を落とし込みながら色の配置をイメージし、それを石膏型でつくられた張り子の真っ白いキャンバスに描き移していきます。

独特の味があるイラストスケッチ。色の配色の大枠を決めます。

独特の味があるイラストスケッチ。色の配色の大枠を決めます。

「まぁ紙に描いても結局は張り子に描くときに直感で色の配置は変えていくんですけどね」と、閃きを大切にする田中さん。デザインを考えている時間が一番楽しく、そして一番苦労するところだということです。美大出身のセンスを感じましたが、バリバリの経済学部ということでした。

絵付けはポスターカラーとネオンカラーを使います。効率的に仕事をするために、張り子を1つずつ塗っていくのではなく、たくさんの張り子を並べて同じ色で塗る部分を一気にまとめて塗っていき、それを繰り返していきます。思い切りよく、しかし繊細な筆使いで、白い張り子に表情を付け足していきます。

これだけの量の張り子を一度に絵付けをしていきます。

これだけの量の張り子を一度に絵付けをしていきます。

全ての張り子の同じ色を一息で塗っていきます。

全ての張り子の同じ色を一息で塗っていきます。

筆だけで描いていると単調になるのが嫌だということで、丸い模様は筆の木の部分を削って塗ることもあるそうで、「いびつさ」を出すことを考えているということです。
「それぞれ表情が違って、ちょっと間の抜けた顔をしていた方がおもしろいでしょ?」と、絵付けに没頭しながら話してくれる田中さん。
全てを同じように塗るのではなく、少しずつ意識的に塗る位置を変えることで個性を出していきます。最後に目を塗ることで命を宿し、酉の張り子は外の世界に羽ばたいていきます。

今年の干支の張り子はポップでカラフル。全国で待っている人の元へと飛び立ちます。

今年の干支の張り子はポップでカラフル。全国で待っている人の元へと飛び立ちます。

「酉年だから注文がいつもより多くて、仕事納めが年をまたいじゃうな」と、どこか嬉しそうに筆を走らせます。
その愛らしさに魅了されて1つ買いたいと申し出ると、注文数しかつくっていないということで買うことができませんでした、残念。
こんなに可愛くてつくり手の想いの詰まった張り子と共に迎える新年は、きっと幸せなものになるはず。一目惚れした干支の酉張り子は、鳥と人が共に生きる宮島で、年の瀬の今日も1人の職人の手で絵付けの追い込みがせっせとされています。

文・写真:庄司賢吾
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