さんち 〜工芸と探訪〜

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「曲木」の技術を駆使した飛騨産業の椅子

「飛騨の匠」の技術で木の新しい可能性を引き出す、飛騨産業の家具づくり

投稿日: 2017年12月29日
産地:
編集:
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こんにちは。ライターの石原藍です。

豊富な森林に囲まれた山の国、飛騨。
ここでは約1300年前から「飛騨の匠」と呼ばれる木工技術を持つ名工たちが、造都や寺院建設に貢献してきました。奈良の平城京や薬師寺、東大寺、世界遺産の唐招提寺など、名だたる建築物も彼らが手がけたと言われています。

時代を超え、その伝統技術を受け継いだ家具をつくっているのが、飛騨産業株式会社です。今回は創業からの歴史とともに、進化し続ける独自の技術や流行に左右されず愛され続けているデザインについて紐解いていきます。

その座り心地に多くの著名人も魅了された飛騨産業の家具

幅広い世代から愛され、憧れの家具メーカーとしても人気の高い飛騨産業の家具。数々のシリーズでグッドデザイン賞やロングライフデザイン賞を受賞するなど、高いデザイン性も人気の理由の一つです。

飛騨産業の家具といえば?と聞かれて「穂高」と答える方は、なかなかの家具通かもしれません。1969年に発売された「穂高」シリーズは、日本人の体型や暮らしに寄り添った家具として、リビングチェアだけでも60万脚を販売するほど爆発的な人気となりました。

ロングセラーとなった「穂高」シリーズ

かつての『暮しの手帖』編集長・花森安治が紙面で称賛したことでその品質の高さはさらに広まり、飛騨産業の家具は皇室御用達に。2016年の伊勢志摩サミットでは各国の首脳が使う円卓や椅子にも採用されるなど、名実ともに日本を代表する家具メーカーとして圧倒的な存在感を確立しています。

皇室に納入された家具。木は宮崎県高千穂のクリの木、座面は絹を使った京都の西陣織、塗装は国産の漆を施すなど日本の技術がつまっている

用と美を兼ね備えた「曲木」の技術

飛騨産業の家具の大きな特徴は「曲木」という技術。木材を高熱の蒸気で蒸して曲げ、独特の形状を生み出すことが可能です。

これまで木でしなやかな曲線を表現するには、大きな木材から削り出すか、部材同士を切ってつなぎ合わせるしか方法はありませんでした。しかし、それでは強度の高さは望めません。木を曲げることで丈夫で無駄がなくなり、さらに高いデザイン性も実現したのです。

曲げることで切削屑も出ず環境にやさしい

硬くて割れやすいといわれているナラの木であっても、46mmほどの厚さまでなら曲げてしまうそう。曲木を取り入れたメーカーは数多くあれど、これほどの技術は世界でも飛騨産業だけだと言われています。

木は生き物。当然折れたり割れたりすることもあるが、飛騨産業の曲木の技術では9割以上の歩留まり率を誇る

曲木を伝えた二人の旅人

では、なぜ飛騨の職人たちは曲木の技術に出会ったのでしょうか?その話は18世紀後半から19世紀前半の産業革命時代にさかのぼります。

ある時、西洋に伝わる曲木技術を学んだという二人の旅人が大坂から飛騨地方にやってきます。彼らが持つ曲木の技術に心を動かされた飛騨の若者たちは、「自分たちの『飛騨の匠』の技術が活かせるのではないか」と西洋家具メーカーの創業を決意。

これまで下駄の歯や木炭などにしか使われていなかった飛騨の豊富なブナの木を活用したいという想いもあったことから、1920年(大正9年)、現在の飛騨産業の前身である中央木工株式会社を設立します。

椅子を見たことがなかった職人たち

しかし、その頃の日本は畳の文化。ちゃぶ台や囲炉裏で生活していた職人たちは、椅子というものを見たことも使ったこともありませんでした。

「誰もつくったことがない、つまり先駆者がいないなかで職人たちが頼りにしたのは木に対する長年の経験と知識だけでした。曲木の技術は教えてもらったけど、その技術を生かして椅子にするにはかなりの試行錯誤があったと思います」
と語るのは営業企画室の森野敦(もりの あつし)さん。

「飛騨の職人たちは今でいうベンチャー気質があったのでしょうね」と、森野さん

しかも当時はまだ鉄道も通っていない時代。できあがった椅子が傷つかないよう塗装の方法もかなり苦労したそうです。2年の歳月を費やし完成したのは、飛騨の伝統技術である「春慶塗」が施された椅子。藁で包み荷馬車に乗せ、各地に出荷されました。

機械までもつくってしまう飛騨の技術

その後、飛騨産業はしばらくの間、世界で初めて曲木の椅子をつくったと言われるドイツ人・ミヒャエル・トーネット氏のスタイルを模倣した家具をつくり続けます。

やがてオリジナルの家具も手がけるようになりますが、その頃たまたま来日していたアメリカの家具バイヤーが飛騨産業の技術の高さに目をつけ、大量の椅子を受注することに。飛騨産業がこれまでつくったことのない形状のものでしたが、職人たちは、家具はもちろん、なんと家具をつくるための新しいろくろの機械まで開発してしまいます。

創業初期のカタログ(写真提供:飛騨産業)

家具の形状によってつかう道具や機械は異なる

実はこの時に開発した機械の一部は、スポーツメーカーの「ミズノ」のバット工場に送られ、今でもあのイチロー選手のバットを削っているそうです。「飛騨の匠」の技術は何でもつくりだしてしまうんですね。

家具にいちはやくデザインを取り入れる

1960年代には総生産の9割近くを海外に輸出していた飛騨産業は、オイルショックを機に国内販売へシフト。さらに当時の国内家具メーカーのなかでも他社に先駆けてデザインの分野に力を入れていきました。

1957年に創設されたグッドデザイン賞では飛騨産業の歴代の家具が受賞。国内外の有名デザイナーが手がけたデザインを飛騨産業がかたちにしたシリーズも次々と誕生し、国内外からの注目が高まっていきます。

イタリアのデザイン界の巨匠、エンツォ・マーリがデザインした「HIDA」シリーズ

トラフ設計事務所による「cobrina」シリーズ

松村勝男が手がけた「松村チェア」

傷がついてもずっと使い続けたい

飛騨産業の驚くべき点は、“10年”にわたり家具の品質を保証するというもの。この保証期間の長さも、丈夫で壊れにくいという品質の高さの表れなのかもしれません。

2代、3代にわたって大事につかうユーザーも多く、飛騨産業本社にある修理工房には全国各地から毎日多くの家具が届きます。

木のあたたかみが感じられる修理工房

なかには「傷はそのままにしておいてほしい」「子供が貼ったシールを剥がさず直してほしい」といった注文もあるそう。さまざまな要望にこたえながら完全なかたちに修理するには、相当な技術が必要です。

品質保証期間の10年が過ぎたあとも修理は有償で受付けている

現在、飛騨産業に200人ほどいる職人の中で、国が定める技能士資格を持っているのは累計192名。まさに職人一人ひとりの技術が飛騨産業の品質を支えているのです。

社内には技能検定有資格者がずらりと張り出されている

飛騨産業が運営する「職人学舎」では未来の飛騨の匠を育成

木の可能性を見つめ続ける

一方で、職人の技術に甘んじることなく会社としても常に新しい取り組みを進めています。

例えば、今まで使われなかった木の“ふし(節)”をデザインに取り込んだ「森のことば」シリーズは、本来であれば捨てられていた木の新しい価値を見出し、これまでの家具の常識を崩す画期的な商品として大きな話題となりました。

木の“ふし”がいい味を出している「森のことば」シリーズ

また、やわらかいため家具には不向きとされていたスギを使ったシリーズも次々に発表。独自の方法でスギを圧縮し、家具に耐えうる強度を実現しました。

日本の森林の大半を占めているスギが普及することで、手つかずとなっている森に手が入り、林業の活性化につながることが期待されています。

スギの圧縮材を使った「KISARAGI」シリーズは2014年グッドデザイン金賞を受賞

いつの時代も「木」と向き合い、脈々と受け継がれた技術を掛け合わせることで業界にイノベーションを起こしている飛騨産業。3年後に創業100年を控える現在も挑戦を続ける姿勢は変わることなく、常に日本の家具の未来を見据えています。

<取材協力>
飛騨産業株式会社
岐阜県高山市漆垣内町3180
0577-32-1001

文:石原藍
写真:今井駿介
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