さんち 〜工芸と探訪〜

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函館バウハウス工房の入り口

函館バウハウス工房から生まれた、親子二人三脚のものづくり

投稿日: 2017年3月28日
産地: 函館
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こんにちは。さんち編集部の山口綾子です。
昨日の「さんちのお土産」でご紹介した、「函と館(はことたて)」と「函館バウハウス工房」製作の「五稜郭(陶器製)鍋敷き」。さんち編集部内でも自分用にほしい!という声が続出した人気商品です。この鍋敷きが誕生したきっかけは、母親を想う息子さんの気持ちからでした。3月の地域特集“函館”最後の記事は、親子二人三脚の商品開発秘話をお届けします!

函館バウハウス工房へ

函館取材で、たいへんお世話になった函館ビルデングの佐藤拓郎さん。佐藤さんは函館空港にある土産ものを扱うコンセプトショップ「函と館」の生みの親の1人でもあります。私が取材で「函と館」を訪れた際に一番に目に付いた商品が、五稜郭の鍋敷きでした。すると佐藤さんが、

「それ、うちの母親が作ってるんですよ」

とおっしゃったのです。え、お母様は一体何者ですか?取材させてもらえますか?とどんどん話が進み、佐藤さんのお母様である佐藤留利子さんが運営する「函館バウハウス工房」を訪ねさせていただくことになりました。

工房内の様子

工房内の様子

佐藤留利子さんは函館市生まれ。五稜郭にご縁があるのか、幼少期は五稜郭タワーのすぐ近くで過ごされたのだそうです。その後、東京の大学で陶芸を専攻、そのまま作家活動を始められます。そして専門学校、高校、大学などで陶芸・美術の講師を長年務め、2002年に「函館バウハウス工房」を設立されました。きっかけは近所の人が「陶芸を習いたい!」とおっしゃったことから。「教室を始めます」というよりは、知り合いや友人がどんどん集まって始まったのだそうです。

生徒さんも使用する様々な道具が並びます

生徒さんも使用する様々な道具が並びます

「函館バウハウス工房」は函館市山の手の閑静な住宅街にあります。留利子さんが20世紀初頭のドイツで誕生した美術学校「バウハウス」のデザインが好きなことから、この工房名を付けられたそうです。“モノづくりと人の繋がりを通じて「函館らしさ」を創造していくこと”を目指し、老若男女問わずたくさんの生徒さんが日々、作陶を中心としたモノづくりに励んでいます。

———今日は佐藤留利子さん、拓郎さん親子にインタビューをさせていただきます。まずは、この鍋敷きが生まれるきっかけを教えてください

佐藤拓郎さん

佐藤拓郎さん

拓郎さん:そんなにドラマチックな話はないんですよ…。中川政七商店さんのコンサルを受けて、商品開発をすることになって。商品作りを試す場所として、母の陶芸教室でできるものありきでずっと考えていたんです。他の作家さんだったら、いろいろお願いしすぎて失礼になるかもしれないから、身内にお願いしようと(笑)。
函館を象徴する形として五稜郭という案が出て、社内で検討した結果、鍋敷きの企画ができたんです。そこから中川さん流の組み立てで「四季によって様々な表情をみせる、五稜郭に観光に来たときの状況を持って帰ってください」という気持ちを込めて「春の桜」、「夏の深緑」、「秋の紅葉」、「冬の白銀」、「ライトアップされた夜景」という5色展開で製作することになりました。

五稜郭(陶器製)鍋敷きの「冬の白銀」と「ライトアップされた夜景」

五稜郭(陶器製)鍋敷きの「冬の白銀」と「ライトアップされた夜景」

———細部のデザイン・作りは留利子さんによるものですか?

佐藤留利子さん

佐藤留利子さん

拓郎さん:形状は僕の同僚の友人のデザイナーさんが担当してくださったんですが、ほとんど五稜郭そのまんまなんです。ほぼ縮小版ですね。

留利子さん:五稜郭にある細かい溝もそのままで、すごく忠実にできているんです。使いやすくひっかけれるように穴を開けるのを加えたくらいですね。

———鍋敷きは具体的にどうやって製作されているのでしょうか

留利子さん:簡単に言うと、陶芸の粘土を板状にしてカットして、型から外しやすいように片栗粉を付けて型に埋めていきます。陶器はざっくりとした形は楽なんですが、きちっと細かいものを作るのはあまり向いていない素材なんです。最初はなかなか苦戦しましたね。
1人では量産できないので、お手伝いをしてくれる方がいるんです。もちろん技術はある方なのですが、工程の中でも型起こしに苦戦しています。型からたい焼きのように外して、歪まないように乾かしてから、星型の角の細かいところまでしっかりとやすりをかけて素焼きをして、釉薬をかけて本焼き。でき上がってからは裏側にゴムの滑り止めを付けます。結構手間がかかっているんですよね(笑)。随分と試作も作りました。完成形になるまで3~4ヶ月はかかったかな…。

星型の溝の細かい部分にもていねいにやすりをかける必要があります。(奥のマグカップは留利子さんの作品)

星型の溝の細かい部分にもていねいにやすりをかける必要があります。(奥のマグカップは留利子さんの作品)

拓郎さん:最初に材質をどうするかという話もありました。鍋敷きに決まって、参考商品を集めてると木工の鍋敷きが多くて。最初は木でいいかなと思っていたんですけど、母の工房で製作することを考えてやっぱり陶器がいいのでは、となりました。鍋敷きを陶器で作るにはどうすればいいか、周囲の人に相談していると「ゴム樹脂の型がいいんじゃないか」という意見が出てきました。そこからゴム樹脂の型を作れる人を探さないと…と思っていたら、母の昔の生徒さんにたまたまゴム樹脂の型を作れる人がいたんです。あれはびっくりしましたね。その鋳造用木型職人の上野山さんには、「函と館」で扱っている五稜郭のジンギスカン鍋も作っていただいています。

留利子さん:ゴム樹脂の型ができる前の試作品は、粘土を薄く伸ばして板状にして、ざっくり星型を作って上からなぞったりしたんですけど…なかなかうまくいかない。昔は型と言えば石膏型を使っていましが、石膏だと粘土の水を吸って湿っちゃうんですよね。湿っていると使えないから、1つの型を乾かしている期間が必要になる。すると、型がたくさん必要になってしまうんです。さらに石膏は劣化がすごい。だけどゴム樹脂の場合だと、水を吸わないからすぐに2つ目に取り掛かれるんですよ。とても丈夫だし、細かいところまで表現できるんですよね。

ゴム樹脂の型を使って説明してくださいました

ゴム樹脂の型を使って説明してくださいました

拓郎さん:母が決めたことってあんまりないんです(笑)。展開する5色もこっちで決めて、その色を母に言って作ってもらって。母は「この色あんまり好きじゃない」とか途中で言いだしたりしました(笑)。

留利子さん:やれって言うからやったんですけど(笑)。焼いたものが縮んじゃったりすると、調合をやり直したり…。春の桜のピンク色も今まで使っていた材料屋さんが廃業しちゃって、違う材料屋さんにお願いしたら色が薄くなってしまったりして。色も本当に難しいですね。一つひとつの商品全てを完璧に同じ色にはできないんですけど、それが良さでもあるのかな。売れ行きを見てると、春の桜が好きで買っていく方が多いです。やっぱり春だったら春の色、秋だったら秋の色と、その季節を表す色が売れていきますね。

工房にある様々な色の色見本。素地の粘土によっても発色が変わります

工房にある様々な色の色見本。素地の粘土によっても発色が変わります

———留利子さんが陶芸をされていたから完成したしたようなものですね…!拓郎さんから商品製作の相談をされた時はどう思われましたか

留利子さん:私に振らないで~って(笑)。私は職人じゃないから、同じものをたくさん作るのは苦手なんです。ひとつひとつ違うものはたくさんできるんですけど…。個人的な好みを出すなって言われました。商品として考えてって。

拓郎さん:頼んだ5色とは全然違う色を出してきたりするんですよ!勝手に模様とか付けてアレンジしだして…。

留利子さん:怒られる(笑)。

———それだけ苦労されて作った商品が売られていることについてはどうですか

留利子さん:そりゃあ嬉しいですよ!今までは作りたいものを作るというか、コーヒーカップや器を中心に作ってお店に出したりはしていましたけど、同じものをたくさん作ったことはなかったんです。自分の色というか、個性が出ていないのにちゃんとしなきゃいけない。経験したことのない新たな難しさでしたね。息子がお店(函と館)を作っている苦労の過程も聞いていたので、商品としてちゃんとしなきゃいけないなと。で、ありがたいことに売れ行きが良いらしくて「来週までに何十個納品してくれ」とか言うんですよ! そんな急に無理!って(笑)。

拓郎さん:意外と売れてるんです。

留利子さん:うちの生徒さんもほしいって言ってくださるんですけど、教室では売買はしないで、ちゃんと「函と館」に行って買ってくださいね、と話しています。

———いい話ですね…!でも、家業ではなく、親子で商品開発なんてなかなかできないですよね。拓郎さんはものづくりにご興味はなかったんですか?

bauhouse03

留利子さん:そうですね…。息子が小さい頃から、私は家族のお茶碗を作っているんですね。そしたら、学校の同級生に「お前のお母さんはどんなお茶碗を作るんだ」って聞いていたらしいんです!(笑)。どこの家のお母さんもお茶碗を作るものだと思っていたそうです。小さい頃から息子の周りにはいろいろな職業の私の友人がいたので、多少は影響を受けているとは思いますよ。今、経理をやっているのが意外なくらいです(笑)。

———またお2人で新作を作っていただきたいです…!

拓郎さん:一緒に作った感じはそんなに無いです(笑)。でも、やっぱりプロなんだな、と初めて思いました ね。この粘土と釉薬を混ぜるとこういう色になるとか、専門的なところはさすがだなと。

留利子さん:(笑)。

———今後、函館バウハウス工房ではどんなことをされたいですか

留利子さん:今は生徒さんと鍋をやったり、蕎麦打ちの人やお茶の先生に来てもらって、蕎麦やお茶の器を作ったりしています。なんだかイベント屋みたいですよね(笑)。みんなには陶器だけじゃなく、いろいろなことを見つけてほしいんです。みんなで畑作りもやってますよ!

函館バウハウス工房併設のギャラリー

函館バウハウス工房併設のギャラリー

拓郎さん:もう、何言ってるかわけわかんないでしょ?(笑)。きれいな言い方をすると、文化を作りたいんだよね?(留利子さん頷く)教室を通じて、陶器を作る前に野菜から作るとか、シーンを作るような。母は昔からスローライフ的な考えを持っていたと思います。

留利子さん:最終的には暮らしを豊かにしたいんですよね。楽しくないと、美味しくないし。器を作る人って、やっぱり食べ物に興味がある人が多いみたいです。教室で作った自分の器に持ち寄りの料理を盛って、食事会を開くこともあります。また、みんな料理上手なんですよ~!そして、自分の器が使われている様子を見るのって嬉しいんですよね。本当にいろいろな人が来てくれて、絶対にここでじゃないと出会えない人たちと出会えている気がします。あと、みんなには自分らしいものを追及して欲しい。あまり私が「こうしなさい、ああしなさい」って押し付けないようにしています。その人らしさを出すようにしたい。一言で言うと、まあ、楽しくやろうじゃないのってことです(笑)。

bauhouse08

———明るく天真爛漫な留利子さんに、冷静な拓郎さんが照れつつもしっかりと補足をする…。見事な二人三脚の掛け合いに、本当に幸せな気持ちになりました。留利子さん、拓郎さん、ありがとうございました。

後日、拓郎さんから1通のメールをいただきました。メールには、この日には話せなかった拓郎さんの本心が綴られていました。

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