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イカの街・函館に100年続く、木樽仕込の味わい 小田島水産食品の木樽仕込いか塩辛

産地: 函館
投稿日: 2017年3月17日
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こんにちは。さんち編集部の山口綾子です。
3月の地域特集「函館」の記事も、いよいよ半分を過ぎてきました。
函館と言えば、夜景も北島三郎さんも大切ですが、絶対に忘れてはいけないのが“イカ”なんです!函館は正真正銘の“イカの街”。市民の皆さんは必ず踊れる?!という、“イカ踊り”なるものがあるほど。函館以外の都道府県在住の皆さんはご存知でしたでしょうか。私は函館を訪れるまで知りませんでした…。(函館の皆さんすみません。) イカの美味しい食べ方はバラエティに富んでいます。生でも、焼いても、煮ても、揚げても美味しい。
中でも、イカの美味しさを凝縮した発酵食品「イカの塩辛」が今日の主役となります!函館で創業103年、小田島水産食品の小田島隆社長にお話を伺いました。

父である二代目・喜一郎さんから始まった塩辛作り

小田島水産は1914年(大正3年)創業の老舗水産食品会社です。創業者で隆社長の祖父・長治さんは新潟出身で、今の函館市役所の向かいの大手町高砂通りでスルメの素干しや缶詰を扱う食料品店「小田島商店」を開店しました。 創業当初はまだイカの塩辛を作っておらず、二代目の喜一郎さん(隆社長の父親)がイカの塩辛作りを始めます。
きっかけは、終戦後に喜一郎さんが親戚の営む「北産食品」という竹輪製造工場で働き、食品製造の知識を学んだことからでした。さらに北産食品の社長は喜一郎さんの働きぶりを評価し、塩辛づくりの夢を語っていた喜一郎さんに報酬の代わりとして、塩を分けてくれたのです。当時、塩はたいへん貴重な専売品でした。そして現在の函館市弁天町で1947年(昭和22年)、小田島水産食品(当時は小田島喜一郎商店)のイカの塩辛が誕生します。

写真が趣味だった二代目・喜一郎さんのデザインしたポスター

写真が趣味だった二代目・喜一郎さんのデザインしたポスター

当時函館の塩辛作りはどこの加工場でも木樽を使っていました。最初に使った木樽は東北地方で味噌作りに使われていた秋田の杉樽「コガ」でした。(おそらく「木香(きが)」が訛って「コガ」になったのではないか…とは隆社長談。)小田島喜一郎商店では、ロシアの樽と合わせて200本の木樽を所有していました。(現在は50本ほどを所有。)冷蔵庫が無い時代の塩辛は木樽に2週間ほど寝かせて作る保存食だったので、塩分が20%、常温で1年間も日持ちする食品でした。ちなみに今作っている塩辛は塩分が5%だそうです。一樽に500kgの塩辛を作り、そこから小さめの木樽に分け、計200~300本の樽を馬車に乗せて函館駅まで運んでいました。そして、貨車で東京方面に出荷していたそうです。

木樽じゃないとうちの塩辛にならない

その後、現在の三代目社長・隆さんは東京の大学を卒業。そのまま東京で就職します。それから4年後の1978年(昭和53年)に函館に戻り、小田島喜一郎商店に入社。その頃は、どこの家庭でも冷蔵庫が使われるようになり、塩辛は保存食からおかずとして食卓に並ぶようになりました。そして昭和の終わりから平成にかけてお客様の要望もあり、時代にあった「低塩の塩辛」作りが普及していきます。また、様々な調味料の登場で、味付けをしてから2~3日で仕上げるという手法が全国的な主流になっていきました。木樽で塩辛作りをするとなると、1週間寝かせることが必須なのです。この簡略化の流れを受けて、この時期の函館の加工場では木樽を廃棄して、プラスチック製の樽に移行していきます。

例外なく、小田島喜一郎商店でも塩辛作りを木樽から移行するべく、プラスチック樽を30本ほど購入しました。先代である喜一郎さんの絶対命令ではありましたが、隆さんは何かの勘が働いたのか、良い木樽をいくつか残しておいたそうです。そして、プラスチック樽で塩辛を漬け込んでみて、隆さんは驚きます。

「1週間経っても、10日間経っても塩辛にならない。熟成しないんです」

木樽で作る塩辛は、まろやかな旨味があり、着色料を使わなくてもきれいな桜色に仕上がります。プラスチック樽で作った塩辛は、塩漬けしたそのままのイカのようで、パサパサとした旨味がないものでした。さらに10日間ほど漬け込んでも、味は良くなりませんでした。

木樽に住む旨味作りの生き物

木樽とプラスチック樽では何が違うのか?当時、函館に『北海道立工業技術センター』(益財団法人函館地域産業振興財団)ができた頃で、そこにいらっしゃる発酵の先生に、隆さんは相談に行くことにしました。

「木樽には、長年の熟成で発酵菌が住んでいます。プラスチック樽は表面がツルツルしているので、発酵菌の住む場所ができません。イカのゴロ(肝臓)を加えると、ゴロに含まれるタンパク質分解酵素の効果で、ある程度は熟成された塩辛風になることは期待できますが、木樽とはレベルが違います」

先生の回答に隆さんは驚きました。あの独特なまろやかな旨味は、木樽に住む発酵菌のおかげだったのです!

プラスチックの樽もありますが、熟成は必ず木樽を使用されているとのこと

プラスチックの樽もありますが、熟成は必ず木樽を使用されているとのこと

それから、今日まで小田島水産食品の塩辛作りは、全て木樽で続けられています。さばいたイカの内臓を取って洗い、金属探知機で万が一の異物がないか、入念にチェック。1日塩漬けにされたあと、木樽で1週間熟成させます。さらに発酵菌の活動を助けるために、1日1回、突き棒で空気の入れ替えの攪拌(かくはん)を行います。毎日の手間がかかる上に、木樽は、雨が続けばカビが生えたり、乾燥しすぎると樽に隙間ができるそうです。それでも木樽と発酵菌なくしては小田島水産食品の美味しい塩辛はできません。

冷凍された真イカが並ぶ

冷凍された真イカが並ぶ

 500kgの塩辛が入る木樽1つには、およそ3000匹のイカが入っています

500kgの塩辛が入る木樽1つには、およそ3000匹のイカが入っています

6尺の樫の棒で毎日5分ほど攪拌します

6尺の樫の棒で毎日5分ほど攪拌します

一目瞭然、ならぬ一口瞭然?!

工場内の見学を終えると、隆社長がさらに奥の部屋に案内してくだることに。部屋中に、じゃがいものやわらかな香りが漂っています。実際に食べてみるのがいちばんですよと、奥様がふかしてくださったじゃがいもに、イカの塩辛とバターをのせて勧めてくださいました!熱々のじゃがいもに塩辛と少しのバターを合わせてパクリ。実は、私は生まれて初めて食べた塩辛が小田島水産食品さんの塩辛だったのですが、こんなに美味しいものだったとは…!人生を少し損していた気分です。全く生臭くなく、コクがあって口当たりまろやか。きれいな桜色は自然に生まれるもので、着色料は一切使用していないそうです。ここに日本酒があったなら…と仕事を忘れてしまいそうになりました。

北海道のじゃがいもと、小田島水産食品の塩辛の組み合わせは絶品でした

北海道のじゃがいもと、小田島水産食品の塩辛の組み合わせは絶品でした

隆社長おすすめの酒の肴は、カマンベールチーズの上に塩辛をのせる、というもの。

「うちの塩辛は発酵が強いので、チーズの味が2倍にも3倍にも広がって美味しく食べられますよ」

ご飯やふかしたじゃがいもはもちろんのこと、

・焼いたチーズに塩辛をのせて
・タコ焼きのタコの代わりに(イカ焼き?)
・パスタの具に
・クラッカーの上にクリームチーズと塩辛をのせて、ブラックペッパーを一振り

日本酒や焼酎だけではなく、ビールやワイン幅広いお酒にも合うそうです。これはぜひとも試してみなくては…。

そして、2014年から発売している「かんずり入りいか塩辛」。ちょうどいい辛味が塩辛の旨味とぴったりで美味しいんです!特に女性に人気だそうです。 かんずりは、塩漬けにしたトウガラシを雪にさらしてあくを抜き、麹や柚子を加えて発酵させた辛味調味料です。この「かんずり入りいか塩辛」が生まれたのは、隆社長が2013年にNPO法人発酵文化推進機構(小泉武夫理事長)の設立記念大会に参加された際のこと。新潟県妙高市の食品製造販売会社「かんずり」の東條邦昭社長から、かんずりを使った塩辛作りを提案されたことがきっかけでした。かんずりも塩辛もどちらも発酵食品ということで相性がいいのでは?と話が進み、商品化に向けて試行錯誤の末、3ヵ月ほど掛けて完成となったのでした。

3代目の小田島隆社長

3代目の小田島隆社長

隆社長は、塩辛を食べる私たちの反応に比例して、どんどんお皿に塩辛を入れてくださいました…。(隆社長、たくさんいただいてしまって、すみません。)自らが作る塩辛を、美味しい美味しいと食べる人たちを見つめる隆社長の顔は満面の笑みでいっぱいでした。 先代から、毎日毎日、1日も休むことなく作る小田島水産食品のイカの塩辛。発酵菌が住む木樽でしか生まれない風味は、この小田島隆社長の手からでなければ生まれない味なんだと、文字通り嚙み締めて工場を後にしました。

103年目の手仕事は小田島隆社長の手から生まれます

103年目の手仕事は小田島隆社長の手から生まれます

<取材協力>
小田島水産食品株式会社
小田島水産食品直販サイト
※TOP画像の商品は函館空港の「函と館」限定品です。
函館にお出かけの際はぜひお立ち寄りください!

文:山口綾子
写真:菅井俊之
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