さんち 〜工芸と探訪〜

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さんち必訪の店

さんち必訪の店 先人の心と建物の歴史を受け継ぐ、はこだて工芸舎

投稿日: 2017年3月15日
産地: 函館
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こんにちは、さんち編集部の山口綾子です。
「さんち必訪の店」。産地のものや工芸品を扱い、地元に暮らす人が営むその土地の色を感じられるお店のこと。
必訪(ひっぽう)はさんち編集部の造語です。産地を旅する中で、みなさんにぜひ訪れていただきたいお店をご紹介していきます。

今日は、地元で作られた陶器・ガラス・木工品を中心に、服飾品、家具、雑貨を扱う「はこだて工芸舎」を訪ねました。
はこだて工芸舎は、函館駅から車で約7分、函館市電・十字街電停の手前にあります。函館は古くからの建物が多く残る街ですが、はこだて工芸舎の建物はゆるやかな曲線が印象的な外観で、ひときわ目を引きます。その場所だけ、昔懐かしい映画の街並みのようです。

はこだて工芸舎の入り口。左側は壁面のカーブに合わせてアーチ窓になっています

はこだて工芸舎の入り口。左側は壁面のカーブに合わせてアーチ窓になっています

碧色ののれんをくぐり、木枠のガラス引き戸を開けて中にお邪魔します。旧い内装と、現在の装飾が絶妙に組み合わされています。 オーナー夫人の堂前邦子(どうまえ・くにこ)さんにお話を伺いました。

オーナー夫人の堂前邦子さん

オーナー夫人の堂前邦子さん

建物の歴史ごと引き受ける

26年前、堂前さんは愛知県の瀬戸から陶芸作家でもあるご主人とお子さんと函館にやってきました。当時は様々な土地を旅行して、各地の工芸品を見ることが好きだったという堂前さん。中でも函館は工芸品の作り手がいるにも関わらず、工芸品を扱うお店がほとんどなかったことがはこだて工芸舎を立ち上げるきっかけになります。

「どこの馬の骨ともわからない私たちに、作り手の方を始め、たくさんの方が手を貸してくれました」

20年前に函館市宝来町でスタートしたお店は、当初14人の作家が協力して始められたそうです。それから、同じ函館市内の元町、そして2014年、ここ末広町へ移転しました。紆余曲折あり、堂前ご夫妻が引き継いで今に至ります。

「この建物は梅津福次郎さんという、食料品やお酒の問屋業をされていた方が1890年(明治23年)に梅津商店として創設されたものなんです」

明治23年 末広町進出当初の店舗

明治23年 末広町進出当初の店舗

梅津福次郎は茨城県の出身で、1880年(明治13年)に函館へやってきました。当時の函館は北海道の商業の中心として、販路は東北・北海道・千島・樺太まで広がっていたそうです。福次郎は類まれなる商才で、巨万の富を得ます。函館は「火事は函館の名物」と呼ばれるほど火事が多く、梅津商店も現在の場所に移ってから3度も火事に遭ったそうです。しかし、災厄に遭っても常に備え、より良い策を考えてすぐに実行に移した福次郎は、その都度再建していきます。現在のこの建物は1934年(昭和9年)の大火後の建築だそうです。

明治後期の店舗(大正10年の大火により焼失)

明治後期の店舗(大正10年の大火により焼失)

「梅津さんは、一般的にはあまり有名ではありませんが、学校の建設費全額を寄付したり、函館だけではなく各地に多大な貢献をされた方なんです。一代で財を成したそうですが、跡取りができず、時代の流れと共に商売も衰退していったそうです。私たちがここの存在を知ったときも、いつ壊されてもおかしくない状態でした。でも、何度も火事を乗り越えた建物と、梅津さんのやってこられたことを聞いて、建物の歴史ごと引き受けたいと思いました」

2階は建築当時の面影を残す応接間や所蔵室があります。福次郎が寄付した建物の記念碑の拓本や、梅津商店の古い帳簿などが展示されており、見学可能となっています。

「たくさんの資料があるわけではなく、ここが昔問屋だったことがほんの少しわかるくらいのものではありますが、大切に残していきたいですね」

2階の廊下の様子。広間は貸し出しも行っているそう

2階の廊下の様子。広間は貸し出しも行っているそう

「この建物は、放っておくとすぐボロ家になっちゃう(笑)。特に気をつけているのは日々の小さな積み重ねの掃除ですね。木が古いので、あっちこっちがすぐにカサカサになるんです。ガラスも1週間ほど掃除をしないでおくと曇ってきてしまう。あからさまにきれいに掃除した、ではなく、何もしていないようでいて、片付いていることを理想にしています。 あとは、建物ができた時代に使われていたかもしれない物と、今私たちが手を加える物のバランスを大切にしないといけない。古い木を使わないと雰囲気が合わないので、建物の昔の姿に戻すように手入れしていく感じですね」

地元客と観光客に向けた商品

はこだて工芸舎のお客さまは、地元の方がほとんどだそうです。お店にお伺いしたときには、地元のお客さまが“食器はここで買うって決めているの”と堂前さんにお話されていました。

「地元のお客さまは観光のお客さまと違って、来られる頻度が多くなります。なので、季節や時候を考えて、なるべく新しい商品を置くようにしています。買うことを目的とせずに、ふらっと偶然入ったお店で素敵な商品に出会うこともありますよね。うちの商品がそういうきっかけになるといいなと思って選んでいます」

店内には北海道で活躍する作家を中心に、全国各地の作家の作品が並んでいます

店内には北海道で活躍する作家を中心に、全国各地の作家の作品が並んでいます

観光のお客さまもいらっしゃいますか?

「ここ数年は観光のお客さまも増えてきています。うちは北海道の作家の作品をメインで置いているんですが、ある日、沖縄の作家さんの作品も一緒に置いていたんですね。観光のお客さまからしたら、“どうして北海道に沖縄の作家さんの作品があるんですか?”と聞かれました。そりゃあそう思いますよね(笑)。それは地元のお客さまに向けて置いているんです、ということをお話しました。地元のお客さまは、函館や北海道以外の土地の作品もご覧になりたいでしょうし、日本各地の作家さんの作品を扱うようにしています。半分は函館、半分は違う土地というように、混在しているのはうちの店としては必要不可欠なことなんです」

堂前さんが函館に来てから26年。最近気になっていることは、人口が少なくなっていること。元々は人口30万人都市と言われていましたが、今は27万人ほどに。毎年3000人ずつくらいの人口が減っているようです。

「人口の減少は食い止めようがないのかなとも思いますけど、函館は環境的には本当に恵まれている良い街なんですよね。ふるさとにするにはもって来いですよ。足は電車、空港、フェリーがあるし、見どころは函館山、大沼、湯の川、五稜郭、トラピスト…。食べ物も美味しいですしね。これを当たり前だと思わず、コツコツと守っていきたいですね。パッと見の派手さはなくても、沸々と熱いものがこの地域には流れているぞっていうことを若い人にも知ってほしいです」

“函館は恵まれた街”。暮らしている人が自信を持ってそう言えることは、本当に素晴らしい街なのだと思います。実際に訪れた私も、景色・食・人、あらゆる点で函館の魅力を知る日々でした。はこだて工芸舎は、梅津福次郎さんから建物と共に“函館の土地と人に貢献する”という意思を受け継がれているような気がしました。

はこだて工芸舎
函館市末広町8-8
0138-22-7706
営業時間:10:00〜18:00(冬期)
駐車場(6台)有あり

文:山口綾子
写真:菅井俊之

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