さんち 〜工芸と探訪〜

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細萱久美が選ぶ、生活と工芸を知る本棚

工業デザイナー、秋岡芳夫が愛した工芸品とは。『いいもの ほしいもの』に見る暮らしのためのデザイン

投稿日: 2020年2月1日
産地: 岐阜
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こんにちは。細萱久美です。

仕事では、日本の工芸や食品など、生活に関わる商品の仕入れや、オリジナル商品の企画に携わっています。そんな仕事柄、工芸にまつわる情報にアンテナを張っていると、単純に面白かったり、素敵なので紹介したい本がたくさんあります。ここでは、工芸や、工芸のある生活が好きな方には、ご興味頂けそうな本を紹介していきたいと思います。

工業デザイナー秋岡芳夫『いいもの ほしいもの』

初回に紹介する本のタイトルは『いいもの ほしいもの』。1984年発行のいきなり絶版からで恐縮ですが、古本は比較的手に入ります。

著者の秋岡芳夫さんは、戦後日本の工業デザイン黎明期から90年代にかけて活躍した工業デザイナー。工業デザイナーでありながら、消費社会に疑問を投げかけ「暮らしのためのデザイン」を持論に、各地で手仕事やクラフト産業の育成にも尽力された方です。

秋岡さんの提唱していた「身度尺(しんどじゃく)」という概念が興味深く、人間の体の寸法に作ったものは使いやすいく、体の寸法や体のうごきに合わせてものを作ることを「“身度尺”で測って作る」と言い、しばしデザインに活かされていました。機能とデザインの両立は、中川政七商店のブランドコンセプトに通ずるものがあるので参考となる考え方です。

この本では、産業ロボット任せでは作れない、工芸による「いいもの ほしいもの」を蒐めています。

秋岡芳夫考案のロングセラー「あぐらのかける男の椅子」誕生秘話

例えば、漆のお椀。秋岡さんの考える工芸は、毎日使えるようなものを言います。漆椀も毎日使うので、秋岡さんの3年使ったお椀は1日あたりで計算すると9円だそう。しかも初めより艶が増し、まだまだ使えるのでかえって割安である、というお話。現代でも数字はそう変わりません。

他には関市の小さな工場で作られるポケットナイフ。工程の一部で機械を使うので、「機械で手づくり」です。このような工芸品は意外と多く、機械を手道具のように使いこなせるかは生き残りにおいても鍵。意識のめざめた現代の職人にしかやれないと秋岡さんは言っています。

そして、先ほどの身度尺の発想から生まれた椅子のお話も。

街の椅子と家の椅子には、違いが必要だと。日本では普通、家では靴を履かないのでその分座面高が街の椅子より低いべきで、しかも女性の身長に合わせた高さがなぜか男性にもしっくり。椅子の座は、低が高を兼ねる発見をしたとのことです。近い考えから生まれた「あぐらのかける男の椅子」は商品化されて今でも販売されています。

他にも30余りの工芸品が、職人やデザイナー、工場での手づくり、という観点から紹介されており、中には今では作られていないモノもありますが、いいモノ、気に入ったモノを大切に使おうという「消費者から愛用者へ」の秋岡さんの考えは、現代でも志向のひとつの主流となっているシンプルライフスタイルの参考になる本です。

<今回ご紹介した書籍>
『いいもの ほしいもの』
 秋岡芳夫/新潮社出版

<この連載は‥‥>
仕事柄、工芸にまつわる基礎知識から、商品のアイデアソースとなるモノ・コト・ヒトには常にアンテナを張っていると思います。

情報源は、製造現場や一般市場、ネットやSNS、自分や他人の生活そのものから見つかることもありますが、幅を広げる点で頼りにしているのは、本や雑誌などの紙媒体かもしれません。製造現場を知ることは深掘りするには欠かせませんが、幅広い知識や思想、イメージと言ったことを広げる作業には本がとても大事です。

アナログ人間なので紙が好きとも言えますが、ふと思い立った時にいつでも見返すことが出来る本は増える一方です。

仕事上で何らか影響を受けた本の中ではありますが、単純に面白かったり、素敵なので紹介したい本がたくさんあります。ここでは、工芸や、工芸のある生活が好きな方には、ご興味頂けそうな本を紹介していきたいと思います。

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。
文・写真:細萱久美 *こちらは、2017年2月21日の記事を再編集して公開いたしました。
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