さんち 〜工芸と探訪〜

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産地への移住。ものづくりの仕事と暮らし

着物づくりを諦められなかった彼女は、新潟・十日町で夢を叶えた。若き移住系デザイナーの胸のうち

投稿日: 2018年8月28日
産地: 越後妻有
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「成人式で撮った振袖姿の写真を見せたら、海外の友人にものすごく感動されたんです。

日本人だけじゃなくて、海外の方も綺麗だなと思ってくれるというのが嬉しくって。そこから、着物づくりに携われたらと考えるようになりました」

赤石 真実さん

そう語るのは、赤石 真実 (あかいし まみ) さん。

着物の一大産地である新潟県十日町市に移住し、着物メーカー「青柳」に就職。未経験から着物デザインの仕事に向き合う日々を送っています。

未経験で移住、一筋縄ではいかなそうな進路です。学生時代からの夢が実現するまで赤石さんが乗り越えてきたこと、十日町だからこそ叶えられたこと、お話を伺いました。

工房を訪ね歩く、20代の日々

1986年生まれの赤石さんが就職したのはリーマンショックの翌々年でした。ただでさえ求人の少ない着物の制作現場。赤石さんが思い描く就職先は見つかりません。

「大学卒業後は東京の印刷会社に就職し、製版用の原稿制作の仕事をしていました。でも着物のことを諦めきれなくて‥‥。少しでも着物に関する仕事ができればと振袖レンタルなどを行う貸衣装屋さんの営業職に転職しました」

転職先で着物の勉強をしながら、職人として働ける就職先があればと工房巡りを始めた赤石さん。

はけで染める工程。青柳独特の降り方の生地で染めに立体感が生まれています

「着物に関わる仕事の中でも、着物づくりに携わる分野で働きたいと思っていました。

そのためには現場を知りたい。そう思って、直接職人さんたちに会いに行こうと主に京都の工房を訪ねました。見学していて『ここで働きたい!』と感動する工房にも出会い、ご相談させていただくこともありましたが、断られるばかりでしたね。

京都の着物づくりは分業制。ご家族で経営されている小さな工房がほとんどです。後継者は必要だけれど、美大卒でもなく未経験の若者を受け入れるのはなかなか難しかったようです」

諦めきれずに翌年に再度訪ねた工房はすでに廃業していたということもあったそう。3年が経ったころ、転機が訪れます。

29歳、移住者イベントに飛び込んだ

「20代最後の年を迎えた時に『やっぱり諦められない!』と思いました。もう一踏ん張りしてみよう、と移住者イベントに出かけてみたんです」

青柳にIターン就職した赤石真実さん

2016年の冬、赤石さんが訪れたのは東京の有楽町駅近くにある交通会館内で行われた移住者支援イベント。相談先は、新潟県十日町市でした。

「学生の頃は、着物というと京都や金沢のイメージしかありませんでしたが、貸衣装屋さんで働くようになって十日町が着物の一大産地であることを知りました。

イベントは、着物の仕事をしたい人に特化したものではなかったのですが、何かきっかけがつかめればと思っていたんです。運良く、着物を広めたいという方と出会えて、その方にお話を伺いました。

みなさんフレンドリーで、十日町の食事をご馳走になったり、市役所の方がその年の『雪まつり』に誘ってくださったり。十日町が一気に身近になったようでした」

移住したい人に勇気を与えてくれる場所、十日町

新潟県十日町市は、地域おこし協力隊の受け入れやその後の定住サポート、イベント開催をきっかけとした移住者支援などを積極的に行なっている地域。そのことに、赤石さんも勇気づけられたといいます。

「移住者イベントの後、誘っていただいた『十日町雪まつり』にその時に出会ったメンバーと出かけたんです。

十日町はとにかく雪がすごい!と聞いていたので、移住するにしてもまずは知っておきたいなと思っていて。といっても、この年は過去40年間で一番雪が少ない年だったそうで、参考にできなかったのですけれど (笑) 。

でも、行ってよかったです。地域の雰囲気を体感できました。ゲストハウスに若い方も多くいて活気がありました。よその人が入っていっても大丈夫と思える、オープンな印象です。

宿泊したゲストハウスは、その名も『ギルドハウス』というところ。若い移住者のための場所で、ほぼ無料で泊まらせてもらえて、職人さんの工房を見学させていただきました。

ここに住んで、服を作ったり制作活動している方もいました。家賃が払えなかったら家事をしてお返しするなんていう仕組みもあって、移住者を受け入れる土台があることが心強かったです」

赤石さん

市役所のサポートがすごい

「市役所の方が親身になって支援してくださったことで、夢が一気に現実に近づきました。

私の着物への関心や、営業職ではなく職人さんのそばで着物づくりに携わりたいという希望を踏まえて、すぐに就職先を紹介してくれたんです」

こうして赤石さんが出会ったのが株式会社青柳でした。その後、青柳の工房見学、面接を経てあっという間に就職先が決まります。2017年の春には、十日町での新生活がスタートしていました。

十日町の一貫生産制だからこそ、できること

「十日町の着物づくりの大きな特色は、一貫生産制。全ての工程を自社で行うので組織として規模があり、未経験の若手を受け入れてくれる土壌がありました。

さらには、青柳は特に手仕事を大切にしている会社でした。社内にはたくさんの職人さんがいて、見学させていただいた時にお仕事姿に圧倒されましたね。まさに、私が働きたい場所がここにありました。こんな風にめぐり合わせてもらえるなんて、ありがたいことです」

生地が徐々に染まり始めます

赤石さんも感激したという染色技術「桶絞り」の様子。作業中、職人さんのゴム手袋の中から大量の水が飛び出します。高温の染色液で火傷しないようにゴム手袋を2重にはめて、その中に水を入れて作業しているのだそう

※青柳では、工房見学を一般公開しています。さんちではその様子を取材しました。こちらからご覧ください。 https://sunchi.jp/sunchilist/echigotsumari/66318

「自分としては、美大出身でもないのに大丈夫かな?ということが心配でした。

就職前の面接では、これまでのキャリアや希望をお話して、適性を考えていただきました。私の経験を考えると、職人さんの選択肢もあるけれど、設計室 (デザインを行う部署) が良いのではないか?と専務がおっしゃったんです。

十日町の着物づくりを総合的に見てこられて、色々な経験をされてきた方の言葉でしたから、信じてやってみようと思いました」

Iターン就職した赤石真実さんの仕事の様子

設計室での赤石さんのお仕事の様子

「今は、デザイナーの先輩方の補助をして勉強させてもらっています。図案の色付けをしたり、図案を縮小した雛形をPCで作ったり。デザイン関連のソフトは、印刷会社時代に使っていました。まさかその経験がここで生きるなんて、不思議なものですね。

まだ就職して1年経ったばかりですが、実は先日、デザインもさせてもらったんです。面倒を見ていただきながら、チャレンジさせていただけるのが本当にありがたいです。もっと経験を積んで、先輩方のようにいろんなデザインを提案していけたらと思います」

赤石さんの1作目

赤石さんの1作目。紫陽花の花をイメージした夏の着物

これからやりたいこと

「先日、一般向けの見学イベントを工房で開いたんですが、それを見てお客様が感激してくださったんです。これからは、外に対して着物のことを広めて行く活動も少しずつしたいなと思っています。地元の方、県外の方、海外の方にもっと見ていただく機会が作れたらいいな、と。

着物の市場は縮小していますが、知っていただくことで変わることもあると思うんです。お客さまだけでなく、就職先という意味でもそう思います。 例えば私が感動した『桶染め』も、次世代に引き継いでくれる人がいないと残していけないものですよね。私のように、着物づくりに携わりたいけれど、働き先が見つけられないという方に、存在を伝えていけたらなと思います」

およそ10年の時をかけ着物の仕事に就いた赤石さん。これからを語る目は、キラキラとしていました。

赤石さんのお仕事道具

赤石さんを採用した、専務の青柳さんにもお話を伺うことができました。

株式会社青柳の代表取締役専務 青柳蔵人 (あおやぎ・くらんど) さん

株式会社青柳の代表取締役専務 青柳蔵人 (くらんど) さん

「やりたいことがあって見知らぬ土地に行くって、なかなかできないことですよね。だから応援したいという気持ちがありました。赤石さんから見て、弊社に魅力的な部分があったなら嬉しいことです。

赤石さんは、着物に対して熱意があって、志の高い方でした。

志を持って仕事についてくれる人の方がこちらも育てがいがあります。いろんな工程の仕事があるので、人によってはいくつかの現場で経験を積んでもらって適性を見ることもあります。向いている仕事で活躍してもらえるのがお互いにとって良いことですから。

赤石さんに関しては、外に向けて視野を広げられる方だったので、職人として1つの技術を追求していくより、幅広い活動ができる仕事が合っているように思えたんです。それで設計室を提案しました。

あとはこの地域に馴染めるかだけですね。とにかく雪が凄いので、暮らしの部分でも助けあっていけたらと思います」

お互いにとって良い形を一緒に探してくれる青柳さん。赤石さんから伺った今後の展望と職種も合っていそう。素敵な上司だなぁと、あたたかい気持ちになりました。

雪かき、ではなく雪掘り!

青柳さんのお話にもありましたが、十日町は日本有数の豪雪地帯です。

降雪量の少ない茨城県出身の赤石さん。移住の際に唯一気がかりだったのが、雪のことでした。ご家族も心配していたのだそう。実際暮らしてみて、どうだったのでしょうか?

「想像を超える量の雪で、思わず笑ってしまいました。

雪の季節の前から周りの方が心配してくださって、必要な道具や雪かきの仕方だとか教えていただきました。あと、スコップは車に積んでおいた方が良いよとか。大変だけれど、不思議と辛くはなかったです。

十日町は新潟県内でも除雪技術が高いそうで、ひどい雪の日でも道路を走れなくなることはないのですが、駐車場では車のタイヤが雪に埋もれます。

こっちの人は『雪かき』じゃなくて『雪掘り』っていうんですよ!雪で敷地から出られないという状況で、30分くらい雪掘りをしてから通勤します。みんなで助け合いながら、雪を掘って順番に車を出していく。そういうのが面白かったです」

「やりたいこと」は口に出してこそ

「雪のこともそうですが、あっという間に決まった移住だったので深く思い悩む暇もなくやって来ました。ここまで、とにかく人との縁がありがたかったですね。いろんな人に助けていただきました。

振り返ってみると、周りの方にその思いを伝えていくことが大事だったのかなと思っています。

移住者イベントに出かけるまでは、思いはあれど語ることをしてきませんでした。それが自分から伝えるようになって以来、あっという間に進みました」

やりたいことは口に出してこそ。これからも「やりたいこと」を発信して十日町の着物づくりを盛り上げていく赤石さんの笑顔が目に浮かびました。

青柳にIターン就職した明石真実さん
赤石 真実 (あかいし まみ) さん / 1986年生まれ。茨城県出身
2017年4月末に青柳へ入社。現在、デザイナーとして見習い中。
「十日町はとにかくお米が美味しい!日本酒が飲めるようになりました。休日は車で長野に行くことも。少しずつ運転も好きになりました」と、仕事だけでなく十日町暮らしも充実させていました。

<取材協力>
株式会社 青柳本店
新潟県十日町市栄町26-6
025-757-2171
https://kimono-aoyagi.jp/

※工房見学の様子はこちら https://sunchi.jp/sunchilist/echigotsumari/66318 文:小俣荘子
写真:廣田達也
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