さんち 〜工芸と探訪〜

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虎屋さんに教わる「和菓子の日」の起源と楽しみ方 虎屋文庫に聞く和菓子の楽しみ方

投稿日: 2019年6月7日
産地: 読みもの
編集:
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6月16日は「和菓子の日」。

これは単なる記念日ではなく、江戸時代に盛んになった行事「嘉祥 (かじょう、嘉定とも) 」にちなんだもの。

なんでも、その日は和菓子を食べて厄除け招福を願うのだとか。

「和菓子で厄除け」と聞くと意外に思えますが、実は元々、ひな祭りや端午の節句と同じように親しまれてきたもの。

毎年この日には、東京・赤坂にある日枝神社で「山王嘉祥祭」が行われ、東京和生菓子商工業協同組合の技術者が「菓子司」として神前にて和菓子 (煉切) を作り、奉納。

全国各地の和菓子屋さんで、嘉祥にちなんだお菓子を販売しています。

一体「嘉祥」とは? そしてこの日のための和菓子とはどんなものなのでしょう。

老舗和菓子屋の虎屋さんに和菓子に関する資料収集、調査研究を行っている「虎屋文庫」なるものがあると聞き、お話を伺いました。

左から虎屋文庫の森田環さん、小野未稀さん、虎屋社長室の奥野容子さん

食べ物を贈り合う風習

「虎屋文庫」は、1973年 (昭和48年) に創設された、虎屋にあるお菓子の資料室です。

古くから宮中の御用を勤めてきた虎屋に伝わる、歴代の古文書や古器物なども収蔵。一般公開はされていませんが、和菓子についての様々な疑問にもお答えいただけます。

まずは「和菓子の日」の由来となった行事「嘉祥」について、虎屋文庫の小野未稀 (おの みき) さんに話を聞きました。

和菓子の日

「『嘉祥』の起源は諸説あり、はっきりしたことはよくわかっていないのです」

「嘉祥」とは「めでたいしるし」という意味。

江戸時代の百科事典『和漢三才図会』によると、「847年 (承和14年) 、朝廷に白亀が献上されたことを吉兆とし、仁明天皇が6月16日に「嘉祥」と改元、群臣に食物などを賜った」とあります。

「室町時代、公家では嘉祥の日に食べ物を贈り合い、武家では楊弓 (ようきゅう) の勝負をし、敗者が勝者に嘉定通宝16文で食べ物を買ってもてなすという風習がありました」

嘉定通宝とは中国のお金で、当時、日本でも流通していたもの。「嘉 (か) 」「通 (つう) 」が勝つに通じることから、武家の間で縁起の良いものとして尊ばれていたのだそう。

「嘉祥」と「嘉定」をかけて、招福を願っていたのかもしれません。

大広間に並ぶ2万個のお菓子

「嘉祥」の風習が盛んになったのは江戸時代のこと。

「宮中では天皇が公家などにお米を与え、公家たちはこのお米をお菓子に替えて献上していました。

また、幕府でも盛大に行われ、多い時には江戸城の大広間に2万個を超えるお菓子が並べられ、将軍から大名や旗本に配られていたそうです」

和菓子の日

千代田之御表 六月十六日嘉祥ノ図(提供:虎屋文庫)

2万個!すごいですね。

「2代将軍徳川秀忠の頃までは、将軍自ら菓子を手渡していたとも言われます。

片木盆の上に1種類ずつお菓子が載っていて、もらえるのは1人ひとつの盆のみ。並ぶ順番が決まっていたのでお菓子は選べなかったようです」

どんなお菓子があったんですか?

「羊羹、饅頭、鶉焼 (うずらやき) 、寄水 (よりみず) 、金飩 (きんとん) 、あこや。お菓子以外に熨斗 (のし) 、麩などがあったようです」

和菓子の日

当時の幕府の「嘉定菓子」を再現したもの。上から時計回りに金飩、羊羹、あこや、鶉焼、寄水、大饅頭(中央)(写真提供:虎屋文庫)

明治時代に編纂された『徳川礼典録』には、1833年 (天保4年) に用意されたお菓子の数「饅頭三ツ盛 百九十六膳 惣数五百八十八」「羊羹五切盛 百九十四膳 惣数九百七十切」などと書かれており、盛大さがわかります。

では「嘉祥」は、宮中や幕府の中だけの風習だったのでしょうか?

「一般の人々の間でも、銭16文でお菓子やお餅を16個買って食べる『嘉祥喰 (かじょうぐい) 』などが行われたそうです。井原西鶴の『諸艶大鑑』にも京都島原での嘉祥の様子が書かれています」

今日嘉祥喰とて二口屋のまんぢう、道喜が笹粽、虎屋のやうかん、東寺瓜、大宮の初葡萄、粟田口の覆盆子 (いちご) 、醒井餅 (さめがいもち) 取りまぜて十六色

「お菓子だけでなく、京都市内・近郊の名産品もあるので、縁起物という意味合いもあったんだと思います」

大奥の嘉定の様子

大奥の嘉定の様子を描いた錦絵(「江戸錦 嘉祥」提供:虎屋文庫)

謎多き嘉祥菓子

では現代の「嘉祥菓子」はどんな姿をしているのでしょうか。

虎屋さんで作られている代表的な「嘉祥菓子」が、こちらの「嘉祥菓子7ヶ盛」です。

和菓子の日

菓銘は、真上から時計回りに『武蔵野』『源氏籬』『桔梗餅』『伊賀餅』『味噌松風』『浅路飴』『豊岡の里』(中央)

社長室の奥野容子 (おくの ようこ) さんに「嘉祥菓子7ヶ盛」について詳しくご紹介いただきました。

「江戸時代末期、『嘉祥』の際に、虎屋が宮中に納めていたものをもとにおつくりしています。嘉祥は6月16日なので、16にちなんで、1と6を足した7つのお菓子を盛り付けています」

当時と同じように、今も土器 (かわらけ) に檜葉を敷き、お菓子を盛り付けて販売しています。

和菓子の日

虎屋に残る「数物御菓子見本帖」(大正7年)より(提供:虎屋文庫)

「お菓子の名前や形の由来も面白いんですよ。『武蔵野』は、晩秋から冬へ向かう寂しい武蔵野のわびた風情を表したもの。『源氏籬 (げんじませ) 』は、数寄屋建築にある源氏塀を見立てたもの。

桔梗の花を形どった『桔梗餅』。『豊岡の里』は、お菓子の神様を祀った中嶋神社がある、兵庫県の豊岡にちなんだものと思われます」

名前の意味を知ると、趣がありますね。

「普段はあまり店頭に並ばない、特別なお菓子の組み合わせです」

桔梗があったり、晩秋があったり季節もいろいろ。この7つが選ばれた理由はわかっていないそうです。

「組み合せが違ったり、7つではない場合もあったようです。どうしてこの取り合わせなんだろうと、あれこれ想像しながら食べるのも楽しいですね」

和菓子を食べるのはなぜ?

嘉祥の謎はお菓子の取り合わせだけではありません。

そもそも、なぜお菓子を食べるようになったのか、その理由もはっきりしていないそうです。

「ただ、旧暦の6月 (現在の6月下旬から8月上旬頃) は、とても暑い時期なので、夏負けしないように小豆で栄養を摂るという意味もあったのではないかと思います」

そう話すのは虎屋文庫の森田環 (もりた たまき) さん。

和菓子の日

小豆で栄養を補っていたんですね。

「産後のお母さんに大きなぼた餅を食べさせるとか、地域によってはそういう風習が残っているところもあります。実際に小豆は栄養価の高い食べ物です。

また、日本人にとって古来、赤い色は血や太陽の色を表す神聖なものと考えられていて、赤い色の小豆も同様に重要視されていました」

確かにお赤飯もそうですね。

「その通りです。おめでたい時にお赤飯を食べたり、土用にあん餅を用意したり、小豆を食べることで招福や厄除けを願っていました」

和菓子の日

富岡鉄斎画「嘉祥菓子図」。明治15年、画家・富岡鉄斎が虎屋京都店の近くに移り住んだことから虎屋と交流があった。「嘉祥菓子図」は、虎屋から嘉祥菓子をもらったお礼に菓子と嘉祥の由来を描いたもの(年不詳/提供:虎屋文庫)

医療技術の発達していない時代、病に倒れ、命を落とす人も多かったのでしょう。栄養のあるものを食べて病気を予防する、医食同源の考え方が今より根強かったといいます。

「ひな祭りも端午の節句も、元は厄払いをして次の季節を迎えるという願いが込められていたように、『嘉祥』も同じように考えられていたのかもしれません」

一度は廃れた「嘉祥」が復活

江戸時代、宮中や幕府、一般庶民の間でも親しまれていた「嘉祥」。

明治に入り、時代の変革の中で「嘉祥」の風習は一度廃れてしまいますが、1979年 (昭和54年) 、全国和菓子協会が嘉祥にちなみ、6月16日を「和菓子の日」に制定。

和菓子を食べて厄除け招福を願うという、他にはない文化を復活させ、和菓子業界をより一層盛り上げたいという思いから始まりました。

各地の和菓子屋さんで、嘉祥にちなんだお菓子が並ぶ中、虎屋さんでは「嘉祥菓子7ヶ盛」のほかにも、年に一度の行事のために用意された様々な嘉祥菓子を見ることができます。

和菓子の日

「嘉祥蒸羊羹」。江戸城で行われていた「嘉祥の儀」で配られていた菓子を再現。黒砂糖入りの蒸羊羹。奥野さんの一推し

和菓子の日

薯蕷(じょうよ)饅頭、新饅、利休饅の3種類がセットになった「嘉祥饅頭」。左の薯蕷饅頭に押されているのは「嘉定通宝」の意匠、真ん中は縁起の良い打出の小槌、右は全国和菓子協会のマーク

和菓子の日

縁起の良い3つのお菓子の詰め合わせ「福こばこ」。中央の「はね鯛」は、鯛が勢いよく飛び跳ねる姿から、病魔を跳ね除ける意味も

毎年、楽しみにされている方や、「季節のものだから」と周りの方に配られる方もいらっしゃるそうです。

「家族やお友だちと一緒に、嘉祥の話をしながら食べてもらえると嬉しいです。

もちろん、弊社のものに限らず、お好きなもので“嘉祥”を楽しんでいただき、普段は召し上がらない方も和菓子に触れるきっかけになればうれしいです」 (奥野さん)

多くの人に「和菓子の日」を知ってもらい、「嘉祥」の風習を伝えていきたいと言う、虎屋のみなさん。

最後に、和菓子の魅力について伺ってみました。

「季節感があるのが和菓子の最大の特長といえるでしょう。現在は一年を通じていろいろなものが手に入りますが、季節や行事を感じるお手伝いができるのが和菓子だと思います」 (森田さん)

「嬉しい時はもちろん、悲しい時も甘いもので癒されることは多いと思うので、あらゆる年代の方に召し上がっていただけたらと思います」 (小野さん)

ぜひ、暑い夏を乗り切るため、和菓子を食べてみてはいかがでしょう。

<紹介した虎屋さんの和菓子>
嘉祥菓子 7ヶ盛(要予約)
嘉祥蒸羊羹
嘉祥饅頭
福こばこ

<取材協力>
株式会社 虎屋
菓子資料室 虎屋文庫

文 : 坂田未希子
インタビュー写真 : 岩本恵美
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