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漆とは。漆器とは。歴史と現在の姿

投稿日: 2019年12月20日
産地: 読みもの
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漆とは、ウルシの木の幹から採取した樹液 (生漆 ・きうるし) 。もしくはそれを精製したもの。塗料・接着剤としての役割を果たし、日本では縄文時代から漆の活用が確認されている。

その堅牢性、耐久性や加飾のしやすさにより、毎日使う汁椀やお祝い事で用いられる重箱などの漆器から、各時代を代表する建物や仏像、芸術品まで幅広く用いられ、今日に至るまで日本の生活と文化を支えてきた。

ウルシの木はアジアのみに生育し、漆の産出量は中国がもっとも多く、古くから日本でも用いられてきた。現在国内で使用される漆はほとんどが輸入品で、国内で作られる漆は全体の1~2%にとどまる。

漆・漆器とは。歴史とお手入れ方法

特徴と使われ方

樹液の主成分であるウルシオールが酸化し固まることで、酸、アルカリ、アルコールにも強い、優れた機能を発揮する。耐久、耐水、断熱、防腐性が非常に高く、今も漆に勝る合成塗料は開発されていないという。

塗り重ねるほど強度が増し、揮発させ飴色にしたものに顔料を混ぜると色漆 (いろうるし) として美しく発色。その表面に金銀で絵柄を描く蒔絵 (まきえ) や沈金 (ちんきん) 、貝片で模様を表現する螺鈿 (らでん) など、長い歴史の間に様々な加飾の技法が発展してきた。

浄法寺漆器の塗り重ねていく工程

産地によって製法は異なるが、これは浄法寺漆器の塗り重ねていく工程

漆・漆器とは。歴史とお手入れ方法
漆・漆器とは。歴史とお手入れ方法

蒔絵の繊細な技術が美しさを引き立てる金沢漆器(写真提供:金沢市)

日用ではお椀や箸、お盆や重箱が身近だが、塗装すると抗菌、殺菌作用があり、菌や虫の繁殖を防ぐこともできるため、床や天井など建物にも使用される。

漆・漆器とは。歴史とお手入れ方法
漆・漆器とは。歴史とお手入れ方法

(撮影:片岡杏子)

漆器の塗膜は完成後1年ほどで漆の成分が固まり、より丈夫に、使うほどに色艶が増す。接着能力も高く、金継ぎにも利用される。

修復専門家、河井菜摘さん「金継ぎ」教室

<関連の読みもの>
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床も天井も漆塗り。100年経っても色あせない「漆の家」
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「漆」の歴史

縄文・弥生時代
日本では縄文時代の複数の遺跡から漆を施した装飾品などが出土している。福井若狭町・鳥浜貝塚から出土したのは赤色漆の櫛。さらに同遺跡からは世界最古の約1万2600年前のものとされるウルシの木片も発見。

大陸から伝わったと見られてきた漆だが、これにより日本発祥との説が浮上した。縄文時代前期(約9000年前)の北海道函館市・垣ノ島B遺跡からは漆塗りの衣服が、後期にかけても全国の遺跡から朱塗りの埴輪や木鉢など、多くの生活道具が見つかっている。

その後定住生活が進む弥生時代にかけて、農耕具や漁具などさらに漆の用途は多様化する。

飛鳥・奈良・平安時代
飛鳥時代に入ると、仏教の伝来とともに漆は芸術的な役割が増していく。寺院や仏像、仏具などに多くの漆を必要とし、官設の漆芸組織が誕生。有名な法隆寺の「玉虫厨子 (たまむしのずし) 」は漆塗りの木造品で、玉虫の羽の接着や側面の絵の描写にも漆が用いられている。

奈良時代の漆芸としては、東大寺に伝わる正倉院宝物に、中国から伝わった高度な技巧を見ることができる。螺旋状に巻き上げた薄板の上に漆を重ねて作られた水差し「漆胡瓶 (しっこへい) 」や「螺鈿紫檀五絃琵琶 (らでんしたんごげんびわ) 」はその代表作だ。収蔵品には、蒔絵の原型といえる加飾を施した大刀もある。

また、仏像彫刻の傑作として名高い興福寺の「阿修羅像」は、粘土の原型に麻布を着せ、漆で仕上げる「脱活乾漆 (だっかつかんしつ) 」という漆の技法が使われている。

乾漆の布張りに用いる、漆と木屑を混ぜ合わせたもの

乾漆の布張りに用いる、漆と木屑を混ぜ合わせたもの

平安時代の作としては漆塗りの上に金箔を貼って仕上げた岩手県の中尊寺金色堂がまず挙げられる。お堂全体に蒔絵や螺鈿などの華やかな装飾が施され、当時の漆芸技術を結集させた建造物である。

鎌倉・室町時代
鎌倉時代からは、素地作り、漆塗り、加飾と工程の分業化が進む。専門の職人が登場することにより、螺鈿や蒔絵の技術はさらに向上していった。一方でロクロの発達により、貴族の用いる食器や調度品にも塗りものが普及するようになる。また、僧たちが日常使う器や武士の兜や鎧などの武具にも、朱漆や黒漆が用いられた。

黒漆の下塗りの上に朱漆を塗る「根来塗(ねごろぬり)」という技法が誕生したのも鎌倉時代。和歌山県岩出市にある根来寺が由来であり、使い込むほど表面の朱漆が磨耗し黒漆が表面に現れるという風情が評判となった。

室町時代末期には蒔絵の需要がさらに高まり、安土桃山時代にかけて、蒔絵を施した調度品は海外輸出品として盛んに作られるようになる。
また、堆朱 (ついしゅ) 、彫漆、鎗金 (そうきん) といった技法が鎌倉から室町時代にかけて中国から伝わった。

江戸時代
大きな戦のなくなった江戸時代には、漆芸は日本独自の進化を遂げ、硯箱などの生活道具や刀剣なども、実用から芸術の域に昇華させた作品が登場するようになる。当時は全国的に漆の採集が可能だったことから、各藩が漆器づくりを奨励し、各地に特色ある漆器が登場するようになった。

模様が特徴的な青森の津軽塗や、岩手の秀衡塗、石川県の輪島塗、金箔や金粉の蒔絵が華やかな金沢漆器、飛騨高山の春慶塗など、今も地域ごとの伝統技法が受け継がれている。

明治時代
明治にはヨーロッパで開催された万国博覧会に政府が漆芸品を出品。日本を代表する工芸品として高い評価を得、明治維新によって一時減退していた漆芸界が再び盛り上がりを見せる。

当時の代表的な作家である柴田是真 (しばたぜしん) 、六角紫水 (ろっかくしすい) 、白山松哉 (はくさんしょうさい) は日本美術院を創設。現代漆芸の礎を築いた。

一方で明治期には漆工部を擁する工業試験場が設立され、漆成分の分析や製造法の研究など、漆芸の世界に科学的なアプローチが取り入れられるようになる。

大正・昭和時代
大正から昭和にかけては漆芸の芸術性と実用性にまつわる象徴的な出来事が重なる。のちの日展である「帝展」に工芸部が設置され、日本工芸会主催で日本伝統工芸展が開始。“うるしの鬼”や“うるしの神様”とも称された松田権六 (まつだごんろく) は1955年 (昭和30年) 、漆芸界で初の重要無形文化財(蒔絵)保持者(人間国宝)に認定された。

こうした出来事が漆芸の作家性、芸術性を世に知らしめる一方で、1926年 (大正15年) 、柳宗悦らが民芸運動を提唱。漆器も含め日常に使われる無名の工芸品の中に美を見出す活動が広まった。

平成以降
戦後の高度成長期には、特に贈答品として漆器に人気が集まり高級品化が進んだが、生活様式の変化などから需要は長く続かなかった。

一方で1998年に開催された長野オリンピックでは、木曽漆を用いた蒔絵が施された漆のメダルが勝者に贈られ話題に。

現在、漆芸の世界は他の工芸と同じく技術継承や後継者不足の課題に面しているが、脈々と受け継がれてきた漆文化は、今なお日本の生活文化を語る上で欠かせない存在である。

現在の漆・漆器

現在日本で使用されている漆は98%が外国産である (平成26年、林野庁資料) 。
しかし文化財や伝統建築物に使用されている多くは国内産の漆のため、今後の補修・修復のためには日本で作る漆の存続が欠かせない。

国産漆の7割は岩手県二戸市、次いで茨城県大子町で生産。漆掻きという木から漆を採取する「漆掻き」という技術が継承されている。

漆掻きの手順

漆器の産地は各地に点在する。古くからの特産地もあったが、江戸時代に殖産興業の一環として漆器づくりが各地で奨励されたことで全国に広がった。

北は青森の津軽塗から、日本最大の漆液産地で作られる浄法寺塗、鎌倉時代に起源を持つ鎌倉彫、華やかな加賀蒔絵が有名な金沢漆器、木目の美しい飛騨春慶塗、伝統的な美術蒔絵が風格ある京漆器、古くから良質な漆がとれた越前漆器、鮮やかな朱色が特徴の琉球漆器など。

いずれも各地の資源や歴史背景をもとに、独自の発展を遂げてきた。

<関連の読みもの>

漆は甘い、のか(岩手県二戸市の漆掻き職人)
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漆器のお手入れ方法

塗料として優れた特性をもつ漆だが、「高温・乾燥・直射日光」には注意が必要。

使い方、洗い方、保管の仕方については、プロに聞いたこちらの記事をどうぞ:「漆器のお手入れ・洗い方・選び方。職人さんに聞きました」

<参考資料>
・十時啓悦・工藤茂喜・西川栄明 著『漆塗りの技法書: 漆の特徴、基礎知識から各種技法までをわかりやすく解説』 誠文堂新光社 (2020)
・小林 真理 編 著『漆芸の見かた: 日本伝統の名品がひと目でわかる』誠文堂新光社 (2017)
・うるし(林野庁)
http://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/tokusan/6.html
・うるしの國・浄法寺
https://urushi-joboji.com/
(以上サイトアクセス日 : 2019年12月20日)

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